第2話

 1月1日

 読売新聞が25年ぶりに値上げ。

 東洋ゴム工業が社名を『TOYO TIRE』に変更。

 

 0時10分頃、東京都渋谷区の竹下通りで、軽自動車が歩行者8人をはね、うち1人が意識不明の重体。運転手の男は逃走したが、25分後に原宿警察署員が身柄を確保。その後殺人未遂の疑いで逮捕された。調べに対し「テロを起こした」と供述したが、その後「人を殺そうと思ってはねた」と供述した。


 芥川海希あくたがわかいきは派遣社員として雑賀さいがボールペンで働いていた。マジックにシリコンがけをするのだ。

 仕事はなかなか難しい。

 夜勤なので朝がツライ。寝ようとすると隣の家の犬が泣き出す。

 コンビニで買ったレモンサワーをベッドで飲んだ。幸い、今日は正月だ。正月番組はくだらないから見ない。金がないからニンテンドースイッチなんか買えずにスーパーファミコンの『シムシティ』で遊んでいる。せっかく創った街を火災や洪水、地震などを次々に起こして破壊した。

 もう40近いのに結婚していない。

 恋人はワガママで結婚してくれない。

 

 1月2日 - 平成最後の新年一般参賀が開催され、史上最多となる15万4800人が訪れた。当初の予定よりも回数を増やし、天皇・皇族は計7回「お出まし」をした。

 寒いな〜雪でも降りそうだ。

 つくばセンター駅前で高倉夏樹たかくらなつきにバッタリ会った。

「あれ、海希じゃん」

 中学時代の同級生だ。2人とも剣道部だ。

「夏樹ちゃん」

「馴れ馴れしいな、サボり魔」

 海希はゲームをやりたいって理由でよくサボっていた。

「何の仕事してるの?」

「小説家」

 派遣社員なんてダサいって昔、ダチに言われたのがコンプレックスになっていた。

「よく、ミステリー小説書いてたよね?」

「金田一にハマってた」

「堂本版が一番だったわ」

「そーゆー夏樹は?」

「だ・か・ら、馴れ馴れしいって。魔法使いしてるんだ」

 海希はクスッと笑った。

「今、バカにしたでしょう?」

「実際バカでしょ?大丈夫って国語の時間にかけなくって大丈夫か?って思ったよ」

「そんなことよく覚えてるな?昔さ、風邪で休んでた海希が突然現れたら、雷が鳴って『海希現象だ!』って皆でびっくりしたよね?」

「覚えてない」

「中2のときにおばあちゃん亡くしてるよね?」

「うん」

「生き返らせてあげてもいいよ」

「マジで行ってるの?」

「うち、嘘つくの下手なんだ」

「ばあちゃんの作る饅頭食べたいな?」

「1万渡したらその夢叶えてあげる」

 月給10万、このまえテレビでやってた小学生社長なんて月給50万だ。

 酒を控えれば肝臓がんになるリスクも減る。

「明日って時間ある?」

「オッケー」

「それじゃミスドに11時でどう?」

「夜の?」    

 海希にしたら昼の11時だ。

「馬鹿言わないでよ」

「夜勤だから時間の感覚が……」

「作家に夜勤とか早番とかあるの?」

 しまったと思った。

「プロダクションで働いてるから」

「魚プロ」

「超有名じゃん?振子文男ふりこふみおとかが働いてたところだよね?」

『ドラゴン右衛門』は幼少期よく読んでいた。

「用事あるから、それじゃ……」

 嘘ってツラいな?と、海希は思った。

「じゃあ、明日♪」  

 臨時ボーナスが入るのがそんなに嬉しいか?


 1月3日

 第95回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)で東海大学が初の総合優勝。


 18時10分頃、熊本県熊本地方を震源とするマグニチュード (Mj) 5.1の地震が発生、同県和水町で最大震度6弱、さらに熊本市北区と玉東町で震度5弱の揺れを観測した。気象庁は同日の記者会見で、2016年の熊本地震とは直接の関係がなく、これまでに知られていない活断層に因る可能性が高いと発表。4人が負傷。またこの地震により、九州新幹線が博多駅 - 熊本駅間で地震発生時から終日運休するなどの影響が出た。


 もしかしたら、はるかの仕業かもしれないと夏樹は思った。彼女とは地獄で知り合った。

『蘇生』は地獄で覚えたのだ。

 大量受苦悩処たいりょうじゅくのうしょって名前の地獄で異常な方法で性行為を行った罪、それを覗き見して真似した罪に対応するもので、炎の剣で肛門から腰かけて串刺しにされる。男は睾丸、女は卵巣を貫かれる。

 カレシの雅人と電話ボックスの中でした。

 介護ヘルパーとして真面目に働いていたので天国に行くと思っていたのに、ビックリだ。

 地獄で暴れた変態俳優を夏樹は、串刺しになった炎の剣で変態俳優を倒した。番人から褒められ、『蘇生』の玉を与えられた上、元の世界に戻された。

 ♥地獄ごとに覚える魔法が違う

 夏樹はミスドで抹茶味のドーナツを頬張っている。

「お待たせー、待った?」

 海希が現れた。

「10時半くらいに来た」

「そんなに待たせた?悪かったね〜」

「気にしないで」

「金は持ってきた。けど、現物を見てからじゃないと信じない」

「父方のばーちゃんを金みたいに言うな」

「そこまで覚えていたのか?記憶力いいな?」

「探偵でもはじめようかな?」

 夏樹はバッグの中に入ってる玉を撫でた。雅人まさとのモノを思い出しながら。

「海希、元気だった?」

 セーターを着た優しそうな老婆がいきなり、海希の隣に現れた。

 客やウェイトレスはビックリしている。

 海希はおとなしく1万を渡した。

 

 1月5日

 中国海警局の船4隻が沖縄県・尖閣諸島の領海に侵入した。2018年11月11日以来約2ヶ月ぶりとなる。

 北海道における吹雪のため、新千歳空港を発着予定だった航空便105便が欠航、6日未明まで約2千人が足止めとなる。千人以上が降雪の影響で新千歳空港ビルに泊まるのは、600便以上が欠航した2016年12月以来。

 

 安永雅人やすながまさとは水戸駅南口で『ウェーブウィンド』って酒屋を経営していた。

 水で薄めた『優しい酒』っていうアルコールに強くない人向けの商品が莫大に売れた。


 少年時代の雅人は6年生まで成績も良かったが、その後は学校をサボるようになる。中1の夏、担任の女性教師に注意され、殴り合いの喧嘩となって2度と学校には行かなかったという。この頃の雅人は遊び好きで、洒落た服を着て外出してはしゃいだりした。また、ビリヤードの名手で町のチャンピオンだった。

 幼友達だった欄堂若葉らんどうわかばによれば、雅人は無邪気な少年で酒は一滴も飲まなかったが、水戸駅北口の『テセウス』という暴力の巣窟のような店に出入りしていたという。ここで雅人は銃の扱い方を覚え、マフィアの幹部・蒲生がもうとも出会う。


 まだ駆け出しの頃、蒲生の紹介で財前大輔ざいぜんだいすけと出会う。雅人は財前に気に入られ、彼の店である『テセウス』で皿洗い・給仕・バーテンダー・用心棒まで何でもこなした。そして財前に認められて本格的に暗黒街に入る。


 25歳の8月、蒲生に呼ばれてつくば市へ行く。この頃雅人は、馬場はばを痛めつけたため、ボスの一条貴一いちじょうきいちから狙われていた。つくば市へ行くとき友人の島津忠治しまづちゅうじから5万の餞別をもらったという。島津は夏樹に「雅人の奴感極まって、今にも泣きそうな顔だったよ」と語っている。


 つくば市では、売春宿でポン引きなどをしていた。この下積み時代に不正事業を組織化して反対派と和解する蒲生の手法を見習ったという。1年と経たないうちに蒲生の犯罪帝国で出世し、賭博場兼売春宿の支配人にもなり、雇われ人ではなくパートナーになると、客引きなどする必要はなくなった。この頃すでに1000万近い年収を稼ぐ実業家になっていたという。

 この頃、夏樹と出会った。


 その後、新津宏にいづひろしがつくば市長になると政治改革が続くと考え、事業の本部を新津邸に移した。


 一条を暗殺した頃から、自分も暗殺されるのではないかという恐怖から警備が厳重になった。どこに行くにも両脇に2人のボディーガードを連れて行き、外出には必ず車を使った。この時期、自宅以外1人でいることは無かったという。2018年1月12日に一条組残党、三隈みくま井崎いざきは最初の雅人暗殺を企て、雅人の車にマシンガンで攻撃した。ボンネットが引き裂かれ、エンジンが壊れるほどの威力であった。運転手は負傷したが、雅人は車にいなかったため無事だった。その後、力丸りきまるという若い運転手が誘拐されて殺害されるという事件があった。


 2019年に蒲生が敵に襲われて引退すると雅人は縄張りを譲られ、30歳にして組織のトップに立った。酒の密売でのし上がっていくが、その過程で次々と敵を抹殺していった。さらに新津をはじめ、市議会議員、警察などの官憲を買収して勢力の拡大と安泰化を図った。


 月日は流れて2020年になった。

 筑波山の麓にあるボールペン工場で働く、無口な海希、これは仮の姿、実は名うてのプロの殺し屋だった。一条組の新組長・伊庭銀次いばぎんじから敵対する暴力団組長の安永雅人の殺人を5000万円で請け負い、難なく雅人を始末する。

 追突事故に見せかけて常磐自動車道で始末した。

 海希の腕に惚れた一条組幹部の三隈が弟分にしてくれないかと現れるが断られる。さらに夏樹が加わり、2億円の大仕事を計画する。

 

 火末虫処かまつちゅうしょってところに雅人はやって来た。

水で薄めた酒を売って大儲けした者たちが落ちる。地・水・火・風の四大元素から来る四百四病の全てが存在し、しかもそれぞれが、地上の人間を死滅させる威力を持つ。また、罪人の身体から無数の虫が湧き出し肉や骨を食い破る。


 雅人の体からは蛆虫やゲジゲジが湧き出している。それを見て雅人は気絶しそうになった。  

 という蜂と人間を合体させたような中国人がその地獄の主だった。

「ともに世界を壊滅させないか?これ以上、痛い思いをしたくはないだろ?」

 悪いことをして母親からお尻ペンペンされたことを思い出した。罪を償って真っ当な人間に戻ろうとしていた。結局、元の世界とほとんど変わっていない。

 ウワァーッ!!ギャアッ!!罪人たちの悲鳴が聞こえる。

「分かりました。忠誠を誓います」


 

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戦国魔法戦士 鷹山トシキ @1982

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