僕等は賢者
早雲
僕等は賢者
「君が今言ったこと、それはね、臆病って言うんだ。そのほかには、怯懦、意気地なし、腰抜けともいうね」
僕は言葉を失った。
目の前の女の子はさらに声を荒げる。
「君はもしかしたら私に褒めてもらえると思ったの…。親孝行だね、無謀な事しなくて正解だよ、懸命な判断だったねって。そんな訳ないよ。君のいった事は、全部辞めるための言い訳だよ。全部全部。醜いよ。すごく醜い。なにが一番ひどいかって、自分の判断を私に肯定してもらいたいって事だよ。そんな事で君の汚物みたいな考えに蓋ができるとでも?」
「私は確かに褒められた人間じゃない。私だってうまくいかなくてやめようとした事あるよ。醜い言い訳した事もあるよ。でもいつだって悔しかった。悔しくてしょうがなかった。死んでしまおうとも思ったし、道で突然狂ったみたいに叫んだ。その全部が醜いんだよ。やめた人間は。だから私は絶対にやめない。絶対に」
「今君は、私に認められたいかもしれないけど、いずれ私を嗤うよ。あのときあんなに意地を張っていた女の子はなんだったんだろうって。好きにすればいい。私は君を嗤わない。それでも、君のことは認めない」
僕はひとつ夢を持っていた。
そして、その夢を諦めた。
そのことを、同じ道にいた女の子に打ち明けた。
僕はこれ以上この道を進めないことを、散々飾りつけた言葉でその娘に伝えた。
自分が悲劇のヒーローであるかのように。
その時は気が付かなかった。
なぜ、こんなことを彼女に話そうと思ったのか。なぜこんなに、もっともな理由を並び立てなければならないのか。
だけど言われてわかった。
全部、彼女の言う通りだった。
同じ道にいる人間に肯定して欲しかっただけだった。
僕が間違ってないと。
臆病で、怯懦で、意気地なしで、腰抜けなんかでは絶対無いんだと。
結局、僕は間違っていて、臆病で、怯懦で、意気地なしで、腰抜けだった。
きっと、世の中の大勢は僕の味方をするだろう。なにせ困難に立ち向かえる人は少ない。そして、誰しも、自分の弱いところは見たくない。だから、困難な道を行く事を人々は愚かさだと言う。
彼女は愚者。
だから、どうしても彼女に認められたかった。そしてそれは叶わない。彼女は誰かの弱さを自分の慰みにはしないから。
僕等は賢者。
誰かの弱さを、自分の言い訳に使って、その身を守る。
そんなのは、ばかげている。
僕等は賢者 早雲 @takenaka-souun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます