第7話 暴食幼女


「あ、そうだ。これあげるわ。」

と言って彼が1枚の紙を手渡してくれた。

紙には<無料券>という文字が大きく見える。

「これは?」

「そこの近くのワオンモールのお店のビュッフェ親子無料券よ。その子よく食べるみたいだしこれ使ってあげて。」

「え!いいんですか?」

「いいのよ、貰い物なんだけど私身近に子供いないしね。」

「うわわわありがとうございます!食糧難になるところだったんでめちゃくちゃ助かります!!!!」

「そんなに食べるのね・・・。それじゃ、私仕事戻るわね。貴方達もソーマが帰ってくる前に病院から帰りなさい。(めんどくさいことになるから)」

「「はーい」」


それもそうだ、と思いながら羽織ちゃんを連れて病院から出る。結局彼女の戻るべき場所はここではなかった。他の病院なのかな。時間は18時、もうだいぶ日も暮れてしまった。今夜はうちでこのまま彼女を預かるしかないかな。


「まひろー!さっきの無料券でビュッフェいこー!私ビュッフェ知ってるぞっ広辞苑で引いたことあるからな!たくさん食べれるところだろ!ねーねー!いこー!」

「わっわかったよー!元々行くつもりだったしいこうか!」

ゆさゆさと俺の身体を揺さぶる羽織ちゃんは少し興奮している。・・・俺は行ったことないけれどス○パラとか連れてったら興奮やばそうだな。


病院から徒歩10分、ワオーンモール内にあるイタリアンビュッフェ<ボンジョルノンノ>に着く。土曜日の夜なので家族連れで賑わっている。お洒落な内装は女性受けが良さそう。

「いらっしゃいませ、2名様でしょうか?」

店内に入るとやたらパンプアップした男性ウェイターさんに出迎えられる。ボディビルダーさんかな。

「はいっあの、これ使えますか?」

先程祈里さんに渡された無料券を手渡す。

「親子無料券ですね。はい、ご使用できます。90分間ビュッフェをお楽しみいただけます。」

ウェイターさんはにかりと白い歯を見せ微笑むと自身の胸の谷間へと無料券をスッと差し込んだ。

すげぇ、巨乳キャラがたまにやる胸に物をしまうやつ・・・これ筋肉でできた胸でもできるんだ。


ボックス席に案内され、軽くビュッフェの取り方の説明を受ける。

羽織ちゃんは置いてある1品皿ごと持っていこうとしたがそれを嗜めると「非効率的じゃないか?いちいち取りに行くのって。」とじっと見つめられたが大人の事情があるということを伝えると少し不貞腐れながらも皿を戻して自身の小皿を差し出してきたので取り分けてあげた。


「うまいなこれー」

「ピザ?」

「そう!ピザ!チーズが美味いなー」


羽織ちゃんは次々といろいろなものを食べていっている。嬉しそうだな。

・・・ところで彼女は、いままでどんな生活をしてきたのだろう。

「羽織ちゃんは、今までどんなものを食べてきたの?」

「美味しくないやつ。」

「言ってたね・・・。お粥とか?」

「まだお粥の方がマシだぞ。なんか四角いサクサクした口の中の水分が奪われるやつだ。」

カ○リーメイトみたいなやつかな・・・。俺の頭の中にはショートブレッドの形態が浮かんでいた。

「でもそれ食べればかなりお腹は膨れるから空腹を感じたことはないな。」

「へぇ〜そうなんだ。」


・・・彼女のこれまでの摂取量を賄えるそれってかなりすごいものなのでは?

そして、羽織ちゃんはぽつりぽつりと話し始めた。


いつも男の医者と女の医者がいてそいつらから勉強をさせられた。兎に角いろいろ、いろいろな勉強をさせられた。

物心ついた頃からそこにいたし、それがしなければいけないことだと教えられた。従わないと私の生きる道はないだろうとそう分かっていた。

それでもまだ女医の方はまだ優しくてたまにサクサクしたやつ以外のものもたまにくれた。

特に好きだなって思ったのは大あんまき。シンプルだけど餡子が多くて美味しい。

そんな日々を暮らしてきたけれど、これが反抗期というものなのだろうか、ついにそこを出てきたのだ。


「家出?」

「そういうこと。」


・・・ううむ確かにこんなところなら出てきてしまうかもしれない。教育ママ?的な感じなのだろうか。

あれ、そういえば・・・その2人は両親、というわけではないのか。うーん、医者って言ってるし。


「そんなことより今を生きようぜ。」

「3歳児から出る言葉ではないよね・・・、今更だけど。」

「ドルチェもらいにいこ。ドルチェ。」

「好きだね、甘いもの。うん、いこっか。」


ドルチェコーナーに向かうと先程のムキムキの店員さんがサイドチェストをしながら立っていた。

「金田ーっ、ドルチェ頂戴」

「金田って言わないの!金田さん!」

ちらっと見れば、金田と呼ばれた彼の胸には確かに<金田>という名札がついている。・・・やっぱり漢字も読めるんだ羽織ちゃん。


「ドルチェを御所望ですか?本日のおすすめはマッチョ・・・いえ、抹茶パフェです。」

「今のわざとですよね・・・?」

「じゃあそれでいいよー」

すると、次の瞬間金田さんの全身の筋肉が迸る!!!

「かしこ、まりッッッッましッッッッたぁあぁ!!!」

煌めく大胸筋、上腕二頭筋、そして、引き締まる大臀筋...!!!それはまるで筋肉のエ○クトリカルパレードだ。

正直何が起こっているが俺にはさっぱりだぜ!!


3 分後


「お待たせ、いたしました」と息を切らしながら金田さんはそっと目の前に抹茶パフェを差し出した。

「むむっ!美味い!!!これは愛知県は西尾の抹茶を使った本物の抹茶アイス・・・!!小倉との相性は言うまでも ないが更にわらび餅との三角関係はさながら恋愛漫画で見かける結局このヒロインどっちとくっつくんだろう というもどかしさを・・・む?なんだこれは・・・まさか、トースト?!ここには生クリームもある・・・まさか?!」

「お気づきになられましたか?そう、これは・・・小倉トースト!!!」

「ま、まさか・・・小倉の本命はトーストだったということか?!」

「Exactly!その通りです。」

「・・・なんということだ・・・まさか、ヒロインは小倉だったとはな。それはそうとあと 3 つくれ。」

途中からもう俺はついていけいけなくなり黙りこくっていた。・・・確かに美味しいけれど。

「申し訳ありません・・・私にはもうその抹茶パフェを作る大胸筋ポイントが足りないのです。先の闘いで私は大胸筋ポイントの 80%を失ってしまいました。現代の医学ではもう元には戻れないのです。」


見ると金田さんの大胸筋は心なしか元気がないように見える。・・・なんとなくだけれど。


「えーーー!やだやだ!!抹茶パフェ食べたい!抹茶パフェ食べたい!!!!まひろ!なんとかしてよ!大胸筋の輝きをもう一度取り戻してよ!!」

「そんなこと言っても・・・現代医学でも無理って言われてるんでしょ?!俺には無理だよ?!」

「ちょっと揉んでみたらいいんじゃないの?」

「え、えぇ〜・・・?う、うーん、俺素人なんだけど。すみません、ちょっと失礼します。」


ビクビクしながら彼の大胸筋に触れ揉みしだいてみる。人生で初めて揉んだおっぱいだこれ。

あ、ふんふん・・・なるほど大胸筋の筋配列ってこうなっててここに気穴が・・・。


暫く揉んでみるとビクンッと金田さんの大胸筋が震え上がった。


「ま、まさか、こんなことって・・・失われた大胸筋ポイントが戻ってきている?!力が・・・漲 る!!」


素人目でも分かる、大胸筋どころではない、彼の全身から気の圧が漏れ出ている。

すると、周囲の客もざわつき始める。

「ま、まさか・・・この力は、マスクザマスキュラー?!そんな馬鹿なッッッッ!マスクザマスキュラーは もうこの世にいないと思っていたが・・・ふっ、まだこの世界にも希望があるということか。」

「マスクザッ・・・マスキュラー。くっ、あの時確かに力を全て奪い取った筈なのに。まだ残っていたと言うのか。(歯軋り)」

「うおぉおおおおおーーーーー!!!お待たせ致しましたァ!マッチョパフェ 3 つです!!!」

「んー美味い。あと 5 つ頼む。」

「グハァッッッッ!!!」


金田さんはその場に倒れ込んだ。

「かっ、金田さん!!!大丈夫ですか?!」

「ハァッ...ハァッ...すみま、せん。今ので大胸筋ポイントを全て使い切ってしまったようです。ハハッ... ついつい嬉しくて、ゲホッ、張り切りすぎてしまったようですね。」



その言葉を最後に金田さんは力尽き、動かなくなってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Gluttony×Scramble binet @binet

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ