第6話 聡明幼女


「はー・・・いやな予感が当たったわね。なにしてるのソーマ。」

救いの女神(?)として現れたのは売店で出会った祈里さんだ。かっこいい・・・後光が差してる気がする。姐御だ、姐御と呼ばさせていただきたい。


「あいたた・・・容赦無いなぁ、観月〜。」

「この現状の責任の一端は私にもあるのでね。貴方のこと甘やかしすぎたわ。」

「そんなことないよ〜。」


・・・薄々感じてたけれど、この2人ただの同僚というわけじゃなさそう?昔馴染みとかそういうのなのだろうか。


「ソーマ、5階病棟から呼び出しされてたわよ。ピッチ出なさいよ。」

「あれ?そうなんだ。分かったよ、じゃあ行ってくるね。」


奏馬先生は白衣の乱れを整え、少しキリッとした顔になってあっさり部屋から出て行った。医療ドラマの主人公みたいな面持ちだったな・・・。


「本当にごめんなさいね、迷惑かけちゃったみたいで。」

「あ、いえ!・・・あの、お2人はどういった関係なんですか?」

「幼馴染よ。」


そう言うと祈里さんは奏馬先生のデスクらしきものの上に置いてある写真立てを取り、俺に見せてくれた。

そこには小学生くらいの3人の子供が写っていた。2人の男の子・・・は、奏馬先生と祈里さんだろうか。すごい、2人とも少年合唱団にいそうな見た目してるな。ベレー帽似合いそう。


「わっ祈里さんかわいいですね?・・・あの、真ん中の女の子は?」


2人の間にいる日に焼けた肌で少しやんちゃなイメージがある女の子。それと・・・どことなく羽織ちゃんに似てる?なんだろう、目元かな。


「あぁ、その子も私達の幼馴染なの。家が近所だったからよく遊んだわ。」

「へー!その方ももしかしてこの病院に御勤めだったり。」

「ふふっ、残念ながら違うのよ。彼女は今遺伝子工学の研究をしているみたい。もう数年会ってないわね。」

「そうなんですか、でも連絡は取ったりしてるんですよね。」

「いや、ね・・・彼女スマホとかそういうの持ってないのよ。だからいつも連絡手段が伝書鳩なの。」

「伝書鳩?!あれって実在するんですか?!」

「それどころか日本伝書鳩協会とかレースとかもあるのよ。」

「すげーーー!!?」


伝書鳩ってリアルだったのか・・・。まだまだ世の中には知らないことが多いんだなって思いました。


「そ。しかも連絡するのは一方的なのよ。」

「なんか、その・・・大変ですね。」

「大変よ。」


あの(奏馬先生)幼馴染とこの(伝書鳩の女性)幼馴染をまとめてる祈里さん凄いな。やはり彼のことを姐御と呼ぶしかない気がしてきた。


「ねぇ〜まひろーお腹すいたよー!」


ねぇねぇーと言いながら羽織ちゃんが僕の腕を引っ張る。

あれだけ食べてまだ君はお腹が空いているというのか。凄いな君は・・・。


「あら、その子ね。さっき拉致された子は。」

「あっ!はい、そうです・・・なんとか奪還しました。」

「あのまま手術台送りにされて生きたまま解剖されるかと思ってヤバかったぞ。観月姐さんあの変態のことちゃんと躾けておいてくれ!」

「こらっ羽織ちゃん!そんなこと言わないの!」

「ふふ、そうしておくわ。・・・本当に、ごめんなさいね。」



そう言いながら祈里さんは羽織ちゃんの頭を撫でた。

その時、ふと違和感を感じた。・・・なんだろう、うまく説明できないんだけれど。


「どうか、されたんですか・・・?」

「え?」

「あっ・・・!えっと、」


はっとなり慌てて自らの口を塞ぐ。・・・ふと口をついてしまった。違和感の所在も分からないのに変なことを言ってしまった。


「なんか・・・不思議そうな、顔をしてたというか?」

「ん、あら、そうかしら。顔に出ていたのかしら。いや、ね随分見た目と精神年齢が合わない子だなと思って。」

「どういうことですか?」

「つまりはやたらIQが高いってことよ。」

「え?!羽織ちゃんがですか?!めちゃくちゃ我儘でまさに子供って感じですよ?!」


賢い=インテリ=大人びてる、のイメージだから祈里さんが言うことに疑問符がめちゃくちゃ浮いてしまった。


「ふふっ、そうね。この子実際何歳かしら。」

「私は3歳だぞ姐御。」

「・・・だそうです。」

「そうね、やっぱりそれくらいよね。ピアジェというスイスの発達心理学者が提唱した認知発達理論というものがあるのだけれど、彼は発達を4つの段階で分けて考えたの。」


そう言うと、彼は本棚から1冊の本を取り出してそれを見せてくれた。


<ピアジェの認知発達理論> とはスイスの発達心理学者・児童心理学者であるジャン・ピアジェによって提唱された。 認知発達理論では、認知力の成長を 4 つの段階に分けて考える。

0~2 歳【感覚運動期】

周囲の働きかけによって「他者と自分を区別する」「ものの形・役割」「物事を予測する」ことを覚える。


2~7 歳【前操作期】 言語機能・運動機能の発達が著しい。物事を自分のイメージを使って区別し、認識できるようになる。 共感力などは未発達なため、自己中心的な思考や行動になる。


7~11 歳【具体的操作期】 論理的思考力が発達し、相手の気持ちを考えて発言・行動できるようになる。数的概念を理解し重さ・長さ・ 距離などが比較可能になる。


11 歳~【形式的操作期】 抽象的思考ができるようになる。説明・映像などから具体的イメージが描けるようになる。 知識・経験を応用し、仮説を立て、結果を予測して行動・発言できる。


・・・つまり?


「えっと、3歳だと・・・前操作期、というところですよね。」

「そうね、でもこの子さっき『解剖されるかと思った』って言ってたわね。あの発言をするには『解剖』という言葉の知識に合わせてその人からなにをされるのか予測しないと出ない発言よ。そもそも語彙が3歳では獲得しないだろうという語彙だしね。」

「たしかに・・・。」

「それピアジェー?」


羽織ちゃんがテーブルの上に乗り出して本を読んでいる。

・・・いや、そうだよ、確かにおかしい。3歳児ってひらがなが少し読めるかどうかだし・・・


「私ピアジェ好きだよーフロイトも好きだけどー。」


本といっても読むなら絵本だろ?!これは挿絵がちょっと載ったくらいの本だぞ。


「フロイトねー精神分析を打ち立てた人なんだけど~食事中にミイラ発掘の話したユングに『私に死んでほしいんやろ』ってキレ散らかしたんだよ。」


そもそもピアジェとかフロイトとか俺そんな詳しくしらねーし!


「やばいよね~」


やばいよほんと・・・なにこの子


「姐さん、俺どうしたらいいですか・・・。」

「・・・そうねぇ、親御さん見つけてあげたら・・・?探してるんでしょ?」

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