吸血鬼ヴァレンシア―死を願う死神―

さくら

消えぬ想い

かつて私には愛する者がいた。


命を持たぬ私に、燃える太陽のような情熱を注いでくれた者が。



愛し合っていた。

人間を命の糧だとしか感じていなかった私に、愛を教えてくれた少女だった。

その唇が私に名を与え、そしてその音を紡ぐ度に

私の止まったままの心臓が 今にも動きそうに感じた。



だが、彼女はもういない。


他ならぬ、私が彼女の命を奪い去った。

死を纏う私が、彼女の命の灯を消してしまった。


それでも――彼女はその瞬間――その灯が消える間際に、私への愛を囁いてくれた。


それは、命を私に差し出す、彼女と私だけの愛の言葉だった。


彼女を喰らい、その血を啜ることこそ

彼女の死を、私の物とすることこそ

命を持たぬ私と、激しく燃えるように生きた彼女の間に許された、たったひとつの愛の契りだった。



目を閉じても、決して忘れることは無い、彼女の――ローラの姿。

その流れる髪が、私を見上げるその瞳が、そして私に愛を囁くその唇が――


そのすべてが、私のこの血肉の中にある。


彼女を抱きしめた感触も、その香りも、愛を交わした唇の感触も、何もかも。



――だが、私は永遠に彼女の元へと訪れることは許されない。


命を持たぬ捕食者の私には、死は永遠に手に入らない。

愛する者を失い、なおも死を許されぬ、血の流れぬこの肉体が疎ましい。



死は希望だ。

決して滅びぬこの肉体に死が訪れることを、切望しない夜は無い。


彼女のすべてが私の中にある限り――

私は、永遠に手に入らぬものを望み続けるのだ。


彼女の死後、たった1度だけ許された彼女との再会――

彼女の魂は、やがて転生し

新しい命へと生まれ変わるのだろうか。


そしてまた新しい生を受け――いつかまた、私の元を去っていくのだろうか。


人とは、生きるものとは、儚く、そして脆い。

しかしそれゆえに――かくも美しくあるのだと知った。



もしも、願いが叶うならば。


かつて愛した少女と同じ命を歩むことが許される存在になりたい。


そう願いながら

私はこれからも 悠久の時を生きなければならないのだ。


ローラ。私に愛を教えてくれた人。

私が、心から愛した少女。


ともに生き

そして――



ともに死にたかった。


もしも 死を啜る私と言う存在にも救いが存在するならば


次の生こそ 彼女と共に生き

そして何時の日か ともに旅立てる存在として生まれ変われるように――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吸血鬼ヴァレンシア―死を願う死神― さくら @sakura-miya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ