第53話 訪問者

 みこと邸では黄貂キテンとベッドに入り二人は寝息を立てながら二人仲良く朝を迎えていた。


お互い連日の戦闘から検査の連続で表情には出さないまでも相当疲れが溜まっていたのだろう。


研究所から車で送られ家についた途端みことはベッドへ身体を投げ出しそのまま寝入ってしまった。


 そのみことの行動に呆気を取られながらも、黄貂キテンもまたみことのベッドへ潜り込むと同時に寝入ってしまい、久しぶりの安らかな夜を過ごした。


 ここに来るまで黄貂キテンが安らかな夜を迎える事などほとんど無かった為

余計に今の状況を噛み締めている。


「ようやく起きたか、もう昼近いぞ、みことよ」


黄貂キテンは寝ぼけながら起きて来たみことに対して少し不服そうに現在の時刻を告げる。


「仕方ないじゃない、私もここ数日は少ししか寝てなかったんだから」


「そうは言うが、昨夜も我の晩御飯が無かったぞ、今朝も起きぬし」


「それはごめんなさい、すぐに用意するわね」


みことは、黄貂キテンの食事の準備をすっかり忘れており昨晩はそのままベッドへ潜り込んでしまった事を詫びながら黄貂キテンと自分の朝食を用意する。


「そういえば、あなたどれ位食べるの」

黄貂キテンは身体を伸縮出来る為、どの大きさの黄貂キテンに合わせた方が良いのだろうか。


いくら何でも、巨大化している黄貂キテンに合わせたのでは食費が掛り過ぎるし

最小サイズ(チンチラ位)に合わせのでは幾分少ないだろうか。


「研究所では食事は別々だったし、教えてもらってればよ良かったかわね」


「そこまで気にする事ではない。

流石の我も自分で食していた食事量位は把握している。」


「研究所でもそうであったが、大体大型犬と同じ程度の量で大丈夫だ」


どうやら、黄貂キテンは現在のサイズ(大型犬位)が基準となっているようで

そのサイズの食事量が適正らしかった。


「そう、それは良かったわ、あげ過ぎておデブになっても大変だものね」


みことは黄貂キテンと他愛もない会話をしながら食事の準備を進めて行く。


黄貂キテンへはオリジナルではあるが専用に食事を用意していた。


「これはなんだ。」

黄貂キテンは出されたものを少し不思議そうに見ながら匂いを嗅ぎ確かめる。


「別に毒とかは入ってないわよ」


「そうではなくてだな、見た事の無い食事であったのでな」


「牛肉ベースに野菜とかブレンドしたやつよ、今あるもので作ったから

名前はないけど、今度考えておくわね」


みことはそう言って、黄貂キテンへ食事を促す、自分も簡単に作ったトーストと卵焼きをテーブルへ持って行き食事を始める。


「美味いな、これは研究所の食事とは段違いだぞ。」


黄貂キテンはみことの用意した食事気に入ったのか、美味いと言ってからもくもくと出されたものを食べ皿のそこまで舐めまわしている。


「ありがとう、それなら尚更今のメニューに名前必要ね」


みことはそう言って黄貂キテンに遣っていた目を自分の食事に戻し自分自身も食を終えた。


「さぁ、黄貂キテン少し実験をしましょうか。」


みことは食事を終えてから唐突に黄貂キテンへ実験への参加を呼び掛ける

黄貂キテンはキョトンとした表情でただみことを見つめる事しか出来なかった。



小谷周平と木崎は研究所から二人が帰ってきたとの情報を入手し現在みこと宅の近くまでやって来ていた。


「そう言えば、黄貂キテンはみことさんが保護する事になったんですよね」


小谷周平は白浜事後は自宅待機状態と成り、みこと達が戻って来るまでは特にやることが無く、木崎への定時連絡と状況を軽く聞く程度であったため、確認も含め改めて質問をした。


「えぇ、そうですよ、黄貂キテンは先の事件後みことさん、もとい政府の管理下に置かれます。これからは私たちと同様に政府の任務をこなして行くことになりますね」


「大変ですよね、政府の任務だなんて」


「小谷君、何か他人事では無いですか?」


「えっ?」


「君もそうなんですから、しっかりして下さいね、それではすぐに黄貂キテンさんの部下に成っちゃいますよ」


木崎は少し冗談交じりに小谷周平へ苦言を呈していた。


「そうでしたね、白浜事件の後はゆっくりしていたのでなんか実感無くて。」


「大丈夫ですよ、すぐに嫌でも実感しますから」


と木崎に若干脅されながらも、二人は談笑しながら目的地であるみことのマンションのエレベーターへ乗り込み最上階を目指す。


「ここに来るのも久しぶりですね」

そう、このマンションも高輪真の事件以来しばらくぶりであったので妙に懐かしく感じていた。


「そうですね、まあみことさんはここで生活しているので会議とか何かと来る事はあるんですけど本来は政府の用意した施設とかで会合開くんですよ」


木崎は通常は異能者宅へ頻繁に訪れることなど滅多にない事を告げながら小谷周平とみことの部屋の前までやって来ていた。


木崎は躊躇なく合鍵を使って目の前のドアのカギを開ける。


そして、二人が部屋へ入って行くと奥から声が漏れ聞こえて来た。


「ちょっと黄貂キテンあまり強くしないで、もっと優しく、ね、ちょっと、ねってば」


奥から聞こえて来たその声はみことのもので間違え無いが、余りにも色っぽく、そして何よりも――――


「みことさん、木崎です、大丈夫ですか」


木崎はまさかと思い銃を片手に侵入しドアを開ける。


そこには、ベッドに俯せになり黄貂キテンの尻尾を腰に乗せているみことの姿があった。


「何そんなに慌てて」


「いや、その、、、もしかして獣〇かと、、、」


「はっ、なわけないでしょーが」


みことは木崎のまさかの発言に全力でこ拳を振るいノックアウトした。


「じゃー、一体何してたのかな?みことちゃん」


聞きなれた声が聞こえて来た、声の方向を向くとそこには新藤奏の姿があった。


「低周波マッサージしてるだけよ、、、ちょっと疲れてたから、」


みことは恥ずかしそうに奏でに返事をしそのまさかの返答に一同笑いに包まれた。


ただ、一人を除いて―――



 

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スピリット・オブ・デザイア 戸松 亮 @tomatsu-baccasu-ryou

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