第52話 不穏な動き

 白浜リゾート地での戦いを終わらせた一行は各々の日常へ戻っていった。

みことと黄貂キテンもまた、皆と同じように穏やかな日々を送っている。


黄貂キテンはあの一件以降は一時的に研究所で様々な検査を受けることになり1週間程度は研究所で工藤所長の元、検査に追われる毎日を送っていた。


普通の人間であれば毎日朝から晩まで検査続きでは気が滅入ってしまいそうではあるものの黄貂キテンは全く気にしておらず、寧ろ今までわかっていなかった自分自身の事が徐々に分かって来る事に少し楽しさを覚える程であった。


「それで、彼の最高電圧はどの程度になるのか判明した?」


みことは研究所で工藤所長へ訪ねる。


「そうだね、みこと君に言われて一応検査はしてみたけど電圧自体は1000V程度でそこまでの高電圧は出なかったね」


「そう、少し―――残念ね」


みことは、当初考えていた事が現実には成らなかった事に寂しさを覚えながら検査結果を聞いていた。


「そもそも、彼の電気の力は人間の脳の電気信号を読み解くことにより思考や感情を知ることが出来るようにする為の力だね。」


「あとは、彼自身の身体に流れる電気信号を強化する事によって身体能力を向上させる事、この2つが彼の力で電気はその副産物的なものだからそれほど強力ではないのだろう」


「ありがとう、それだけ分かれば十分よ。あとは彼の身体の大きさの変化はわかったの?」


「いや、それに関してはさまざまな検査を施したけどもわからず仕舞いだね」


黄貂キテンはそもそもが霊獣の類であり、通常の生物とは違い体の大きさを変化させられる事は霊獣であれば可能なのかもしれない。


この異能専門の研究所でもわからなかったと言う事はきっとどこで検査しても到底判明する事ではないだろう。


「わかったわ、じゃ帰りましょうか黄貂キテン


黄貂キテンはみことから声を掛けられると嬉しそうにしながら座っていた椅子から飛び降り駆け寄って行く。

「我の検査とやらはもう良いのか。」


「えぇ、もう十分よ。一度家に帰ってまずは一休みしましょう。」


みことは黄貂キテンからの問いかに答えながら自宅へ帰る事を告げる。


「みこと君、家までなら職員に送るようにするよ。今日は木崎君は無いのだろう。」


工藤所長の申し出にみことは頷き少し気まずさを覚えながらも有り難く送ってもらうことにする。


黄貂キテンもいることだしありがとうございます、所長」


「構わないよ、じゃ車の準備をするから少し待っていてくれ」


そう言って工藤所長は検査室を出て行き、みことと黄貂キテンも検査室を出て車の準備が終わるまで研究所のエントランスで時間を潰していた。


「みことよ!、これから我はどこへ向かうのだ。」


黄貂キテンは待っている時間、自分のこれからについて質問をみことへ投げかける。


「これからは、私の家で共同生活よ。基本的には私の所属している政府機関に異能者として登録、私と共に政府からの依頼をこなしてもらうようになるわ」


「そうか、我も人の役に立てるのだな」


「えぇそうね―――」


みことと黄貂キテンは少し物悲し気な表情を浮かべる。


それもそうだろう、黄貂キテンはあの事件で人間への危害を自らの意思で与えてしまった。


いかなる理由であっても本来なら処分されても文句は言えない。


みこととの共同生活も実現まで漕ぎ付けるにはかなり苦労をしたようであった。


「大丈夫よ、私が一緒にいるから」


そう言って黄貂キテンを安心させる言葉を投げかけている中で迎えの車の準備が出来たので、二人は車へ乗り込み家路へと帰って行く。


「では、所長黄貂キテンが大変お世話に成りました。また来ますね」


そう言うみことに続いて黄貂キテンも工藤所長へ深々と頭を下げて敬意とお礼を表していた。


工藤所長はなんとも愛くるしい黄貂キテンの行動を見て、つい可愛いと思い笑みを浮かべながら二人を見送っていた。


「あれ、二人共もう帰っちゃいました?」


工藤所長の後ろから、元気な女性の声が聞こえた。


「そうだね、今帰っていたところだよ」


工藤は女性の質問に答えながら振り返る。


「なんだ、私も着いて行こうとしたのに」


工藤所長が振り返った先には新藤奏が不服そうな顔で立ち尽くしていた。


「それより、他の子たちはどうしているのかな」


工藤所長は奏でに問いかける。


「今回の任務は私とみことで解決するようにとの通達です」


「それはそうだけど、あっちの方は―――どう成っているのかな?」


「先日、一瞬観察された構造物については現在政府にて調査中。

正式な依頼はまだですが、裏でが―――」


工藤所長は奏からの報告を陰鬱な雰囲気を醸し出しながら聞いていた。


「ところで、あの構造物の呼び名は決まったのかな?」


それを悟られまいとしたのか、工藤所長は無理やり明るく質問を投げかける。


「はい、先日の構造物の暫定呼称は<庭園>と呼ばれることになります。

所長も以後はその呼称を使用して下さい。」


工藤所長は奏からの呼称について同意を示すため首を縦に振る。


「では、私は霧崎みこととの任務の為、単独で向かいます。」

「—————それから、、、私の前で取り繕うのは無意味ですよ―――工藤所長」


奏はそう言って研究所を後にした。


”これから大変だぞ、二人とも”


工藤所長はこれから起きるであろう出来事に対して憂いながら二人の事を心配し空を見上げていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る