3.
ふと、実家を訪れてみようと思った。
しばらく帰っていないような気がする。
連絡も取ってない。
でも、便りがないのはよい便り。
きっと、家族はみんな、元気に過ごしているのだろう。
そんな軽い気持ちだった。
「変わったなぁ…」
思わず、そんな言葉が口から出た。
それくらい、故郷の景色は、記憶にある景色とは大きく変わっていた。
何もなかった駅前は再開発が行われ、小洒落た店が立ち並び、よく通っていた近所の商店街も、多くの店が入れ替わっていて、見覚えのある店は、わずか数軒。
少し寂しい気持ちもあったが、これが時代の流れというものだろうと。
回りの景色を確かめながら、実家に向かった。
「あれ…?」
目指したはずの場所で、途方に暮れて立ち止まる。
そこは、雑草の生い茂る、空き地になっていた。
まさか、家族が連絡もくれずに、引っ越した?!
愕然と立ちすくむすぐ側を、何人かの人が通りすぎた。
だが、どの顔も、知らない顔ばかり。
家族はいったい、どこに行ってしまったのだろう。
どれくらい、その場にいただろうか。
ふと気づくと、1人の住職が、すぐ隣に立っていた。
「あの…」
住職と、目が合った。
「ここに住んでいた家族は…」
手にした家族写真を住職に見せると、住職は怪訝そうな表情を浮かべて、言った。
「お前さんは、誰じゃ?」
「以前ここに住んでいた者の家族ですが・・・・」
「おかしなことを言いなさる。わしはここの家族と親しくしておったが、お前さんの事は知らぬぞ」
住職の目が、不審者を見るような目つきになった。
なぜだ?
なぜそんな事を言うのだろう、この住職は。
「だいたい、この写真に、お前さんが写っていないようじゃが?」
「ああ、それはきっと・・・・撮る側だったからじゃないかと」
「お前さん、名前は?」
名前を告げると、住職はますます不信感を露わにした。
「聞いた事が無い名前じゃな」
まさか!
おおい、と道行く人を呼び止め、住職が写真を見せる。
「この人達を知っておるな?」
「ええ、もちろんです」
「この者が、この人達の家族だと言うておるのじゃが」
「えっ?」
呼び止められた人も、怪訝そうな目を向ける。
「確かこのご家族は、ここに写っている3人だけだと・・・・」
「うむ。呼び止めてすまなんだ」
その後も、住職は同じように通りがかった数人に尋ねたが、どれも同じ反応だった。
いったい、なんだ?
どうなっているんだ?
「お前さん、一体誰なんじゃ?」
混乱した頭に、住職の言葉が留めを刺す。
住職の手から写真をひったくる様にして取り戻すと、その場を離れて駅へと走った。
地元に戻り、戸籍を手に入れた。
戸籍を見て、愕然とした。
記載されていた本籍地は、全く聞いた事も無い地名で。
両親の名前ですら、知らない人の名前だった。
家にあるアルバムには、他にも数枚の家族写真があるが、気付けば自分が一緒に写っているものは、一枚も見当たらない。
自分は一体、何者なのだろうか。
今まで家族だと思っていた人達は一体、誰だったのだろうか。
本当の家族は、どこにいるのだろうか・・・・
疑問ばかりが膨らむ頭を軽く振り、開いたアルバムをそっと閉じて、押し入れの一番奥にしまう。
ただ。
彼らが誰であったとしても、【家族】だと思っていた人達であることには、違いない。元気でいてくれればそれでいい。
なんとなく、そう、思った。
家族 平 遊 @taira_yuu
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