私の才能は「  」

夏伐

開花

 人は物心ついた頃からメンタルチェッカーを身に着けることが推奨されている。

 それは痛みに気づくため、辛さを分かち合うため。


 時計型や髪留めなど今や様々な形をして日常に溶け込んでいる。


 それに加え幼稚園、小学校、中学校と一年ごとに事細かく己の適正を調べるテストを受けさせられる。

 成長した時、適正ありとなった職業の中から進路を選ぶものがほとんどだ。


 この制度が導入されてから離職率は減り、就業率も上がった。

 企業ごとに特化したテストも作成され、それによって就活している人間と企業とのマッチング率も上がった。婚活市場でも大活躍で未婚率が下がったという。

 良いこと尽くめであった。


 俺はガラスの向こうにいる男を見つめた。


 パリッとしたスーツを着こなし、知的な眼鏡をかけている。

 彼は医者であった。


 はたして万人に対し成果を上げたこれらのシステムは彼にとっては最善だったのだろうか――?





 私は幼い頃から感情の起伏が少ない子供だった。


 メンタルチェッカーの数値はいつも一定で、家族も心配するほどだった。

 楽しいもつまらないもない。

 ただ毎日を上手くこなしていた。


 表面上は。


 私が笑顔を作ってもメンタルチェッカーに浮かぶ数値で感情に波が立っていないのが分かってしまい、クラスのグループからは敬遠された。


 ある時、クラスの連中が噂していたことだ。


 毎年受けさせられる適正テストで、自分が何に向いているのか不向きなのかが分かる。

 では才能はどうだろう。


 ずっと工作していた子は『コツコツ積み上げる』『手先が器用』などが適正テストで長所としてあげられる。それが芸術的に認められたら……何か便利アイテムを発明したとしたら。


 それは適正テストに現れるのだろうか。


 有名人が「適正テストではタレントに向いていなかったが、夢だったので努力した」というようなエピソードはいつも感動物語としてテレビから流れている。


 その子たちの中で言われていたのは――、

『メンタルチェッカーで感情が高ぶったもので才能が分かる』

 といったものだった。


 私は落胆した。


 では私には何の才能もないというのだろうか。


 私は幸い勉強ができ適正テストでも長所が目立っていた。短所は『協調性がない』くらいだ。



 才能を探して、両親は心配して、私は様々な習い事に挑戦した。

 スポーツ系から生け花、ピアノなど、どれも卒なくこなすが感情を揺さぶるほどではなかった。

 中学生の時に転機が訪れた。


 長期入院していた祖母の死だ。

 見舞いに来た私に、祖母は、

「いつかあなただけの才能が花開くわ」

 と言って笑った。


――祖母が葬儀で火に包まれた時、私のメンタルチェッカーの数値が跳ねあがった。


 両親は泣いていた。


 私も涙は出なかったが、悲しかったように思う。

 それ以上に嬉しかった。


 私は才能を見つけたのだ……!



「ツボミのままの方が良かったっスよね」


 マジックミラーの向こうで取り調べを受ける男を眺めつつ、若い部下が言った。

 俺もまさしくその通りだと思う。


「メンタルチェッカーの数値はあくまで心身健康上の目安の問題なはずなんだけどな」


「医者になっても陰謀論とか都市伝説って信じるんスね。ばぁちゃんの死がきっかけで終末医療に携わるって字面だけなら感動もんなのになぁ~……」


 彼はヘラヘラと笑っているが、私には笑えなかった。


――ガキの流した噂話のせいで何人殺されたと思ってるんだ。

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