4景

廃駅

降雨

白骨死体に紅葉

白いベンチ

座る星野と仲川


星野 キミもあのぐうたらな占い師と出逢っていたのか。

仲川 ろくでなしだったわ。

星野 俺,ああはなりたくないなって思ったよ。

仲川 私も。

星野 でもなってしまってもおかしくないなって。

仲川 人生何が起こるかわからないもんね。

星野 あのじいさんも色々あってああなったんだろうな。

仲川 だからって今が肯定されるわけじゃない。

星野 間違いない。

仲川 人生が辛すぎるからって、自分まで痛めつけたら話にならないわ。

星野 覚えておくよ。

仲川 貴方もいつまでもこうやって碌でなしな道を歩み続けるわけじゃないんでしょう。

星野 僕は劇団でも作ろうかって思ってる。この町で。

仲川 劇団!? それはまた一風変わってるわね。

星野 僕は演劇部の部長だったんだけど、演出方針でみんなと対立して追い出されたんだ。もう何も希望がなかったときにキミの噂を聞いて此処にやってきた。此処はなんだか不思議だ。みんなに忘れられて、そのくせ何か死にきっていない。

仲川 人間ってやつなのかも。

星野 そうなのか。

仲川 名も存在も知らない人間はゴマンといる。みんなそれぞれに苦労しながら、紆余曲折の果てまだ生きている。それは誰かに語られる必要がなくても尊重されるべきモノではないかしら。

星野 仲川さんには夢がありますか。

仲川 私は星と一緒に生きたい。誰かが私をみたとき輝いていたねって思われるような私でいたい。

星野 なれますよ。仲川さんなら。

仲川 いったいあなたは私の何を知っているというの。

星野 なにも。

仲川 言葉には気をつけた方がいいと思うよ。いつか手痛い目にあって、また劇団も追い出されるよ。

星野 その時はそのときです。受け止めます。

仲川 ならいいけど。


白骨死体に近づく星野、仲川


仲川 警察に電話しないとね。

星野 この場所を誰かに知られるっていうのは癪だけど、流石にこれをそのまま放っておくというのは人間としては反しているもんな。


やってくる久坂

ベンチへ着席

読書をする


仲川 星野くんにもみせたかったな。

星野 なに?

仲川 此処ってこの町で一番星が綺麗なんだ。

星野 梅雨でもないのにずっと雨降ってるもんな。

仲川 こんなんだから暗い話しか浮かばないんだよ。


やってくる占い師


久坂 ごきげんよう。

占い師 こんにちは。

久坂 その後いかがお過ごしで。

占い師 私のことを覚えておいでで?

久坂 わるい?

占い師 意外です。

久坂 そうですか。

占い師 私のような人間。貴方と再び逢う権利など。

久坂 自分で自分を卑下しすぎよ。愚かなモノ。

占い師 認めます。

久坂 救いようがないわね。


項垂れる占い師


久坂 報われ続けると思い込みたいけれど、物語だってたった一つ。貴方もたった一つを糧に生きてきてどうでしたか。人生は。

占い師 苦しかった。でもそれだけではなかった。なかった。

久坂 私はただ過ごすことしかできません。誰にどのように扱われようが関係ない。それでもこの日々は麗しかったですわよ。平和に幸せとはいかなかったかもしれません。でもこうしてお話しできる機会を持てるなんて幸いではありませんか。

占い師 幸いです。


ベンチに座る占い師 


占い師 僕は成仏するまで此処で見守っていきたい。

久坂 お好きにどうぞ。

占い師 此処に縁をもちやってくる生命にせめてもの幸いが降り注ぐことを願って。


雨が止む

光が差す


星野 やんだ。

仲川 星だ。

星野 きらきら星。

仲川 ひかり。

星野 うつくしいな。

仲川 うつくしい。


暗転


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【戯曲】廃駅 容原静 @katachi0

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