三景

廃駅

窓から差すノスタルジックな光

舞う紅葉

ホームの紅葉を掃除する駅員

大勢の人でごった返すホーム

白いベンチ

座り読書する大正ロマンな久坂翠

流れる蛍の光

どんどん減っていく人

ゆっくりフェードアウトする蛍の光

時間は昼間→夕方→夜へ

最後に残る久坂翠と駅員


駅員 お勤めご苦労様でした。

久坂 待って。今いいところなの。


黙って待つ駅員

鼻を擦る久坂


久坂 貴方のほうこそご苦労様でなくて。

駅員 私はなにもしておりません。

久坂 晴れの日も雨の日も。誰が見ていなくても貴方は仕事を全うした。素晴らしいこと。

駅員 お褒めいただいてもなにも出せませんよ。

久坂 私は充分頂いたわ。

駅員 貴方はこれからどうなさるんです。

久坂 朽ちていくしかないわ。貴方が自分の仕事を全うしたように私も駅として電車も客が来なくなっても廃駅として存在し続ける。

駅員 あんまりだ。貴方のような方がどうしてこんな仕打ちを。

久坂 関係ありませんわ。私は所詮文明を護るために一時的に必要だった場所でしかありませんもの。

駅員 僕に力があれば貴方にこれからも活気を魅せてあげられるのに。

久坂 私をこれ以上悩ませないで。貴方は仕事を全うしたから価値があるというのに。自分で自分の人生を汚したら台無しじゃない。

駅員 僕は貴方のことを忘れません。この駅を忘れません。

久坂 どういたしまして。平和に幸せに生きなさい。


駅員退場

降雨

現実味を帯びるライト

やってくる占い師


占い師 駅は完全に潰されることなくまだ残っている。彼女の耽美さが運命をこのようにして導いたのだろうか。駅員だった私はあれからろくでなしとして生きてきた。誰に対しても、自分自身に対しても胸を張れるように生きてこれなかった。それだというのに私は恥を承知で貴方に逢う為に此処へやってくる。貴方はもう2度と私のことを見てくれないだろう。私はあの日を境に一度もあなたの顔を見ていない。愛と幻想の日々は幕を閉じたのだ。


やってくる仲川

占い師を見つめる

気づく占い師


占い師 私の話を聴いていたのか。

仲川 聴いていたら何か支障があるの。

占い師 ふん。なんだっていいのだ。

仲川 ここもすっかり騒がしくなって。私に行き場なんて許してくれないのね誰も。

占い師 この世界は孤独を許さない。いつまでも中途半端な繋がりが続くんだ。

仲川 おじさんは暗いね。

占い師 人生に絶望しているからね。

仲川 お好きにしてください。してると思うけど。

占い師 違いない。

仲川 可哀想な場所。可哀想なわたし。可哀想な男。みんななにかうまくいってない。一体全体どうしてなんでしょ。

占い師 それがわかったら苦労しないよ。

仲川 おじさんは努力したんですか。幸福になる。

占い師 幸福になることが一番とは限らないだろう。

仲川 私、順番なんて聞いてません。したか、していないか。聴いているんです。

占い師 しなかったね。結局は。

仲川 それでよく生きてこられましたね。

占い師 現実に押しつぶされないように体を身固めていたら、この歳さ。遅いなんてもう通用しない。

仲川 これからどうするつもりなんですか。

占い師 自殺したい気持ちはあるが怖くてできない。これからも醜く、そしてもっと醜く生きていくばかりだ。

仲川 すっごく人間ですね。逆に尊敬できる。

占い師 君には何か夢とかあるのかい。若者らしい夢が。

仲川 あります。

占い師 教えてくれるかい。

仲川 今は星を見たい。雨が降っていても、輝きが曇らない星を見たい。

占い師 そんなの夢っていうのか。

仲川 夢です。何事も願わなければ叶うこともないのです。

占い師 そして動かなければ。キミの夢は叶えるつもりか。

仲川 どうでしょう。私でもわかりません。

占い師 では叶わないかもしれませんね。

仲川 貴方は碌でもない大人ですね。軽蔑します。

占い師 してください。

仲川 早く此処ではない何処かへいかないといけない。星のように地上で瞬いている場所へ行かないと窒息しそうだ。

占い師 だから此処へくるのかい。まだ旅立てない自分を呪い、せめてもの安息を求めて誰にも求められていない廃駅でお茶を濁すのかい。

仲川 私は未熟だ。若くて愚かだ。くだらない人間と話しているうちに自分もそうなってしまうんだ。そんなの嫌だ。


仲川、退場


占い師 自分の碌でなさ。理解している。一体どうして生きているのか。社会のゴミ。私にとって夢とは。願わない夢。叶わない夢。あの方にもう一度あって私は何を。


自分の首に手をかける占い師


暗転

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