第23話

ここは薄暗い監獄。


「め、メシェア様!?」


そこに転移して来た俺を見て声を上げたのは、ゴーカツとその手下達だ。


「捕まったみたいだな?」


「も、申し訳ありません!教会のせいで任された商売が上手く行かず!本当に申し訳ありません!」


ゴーカツたちが体を震わせながら、その場に勢いよく頭を叩きつけて土下座する。


痛そう?

いやいや、デーモンの与える痛みに比べたら屁でもないよ。

この程度。

だからこいつらは必死に土下座しているのだ。


まあそんな事はどうでもいい。

何故こいつらが牢獄にいるのかというと、その理由は至って単純だ。

聖水の販売の事で教会に睨まれ、国に働きかけられた為である。


ま、権力を振りかざしての同業潰しって奴だ。


もちろんこれは想定済みである。

何せ、初めっからこうなる事は分かり切っていたからな。


格安で売られる教会産よりも高性能な聖水が、結構な数出回る。

そりゃお金の大好きな教会様が黙ってる訳もない。


――因みに、ゴーカツは元々教会より高値で売って、更に儲けた金で賄賂を贈る事でその摩擦を押さえるという立ち回りを取る予定だった。


「別に謝らなくていい。それより……お前らを捕縛するのは正当な名分だったか?」


震えながら土下座しているゴーカツに向かって尋ねた。

これは重要な事である。

元々ゴーカツは悪徳商人として有名な奴だったので――俺が矯正しはしたが、それ以前の罪が完全に消えた訳ではない――それを名分にして捕まっている可能性もあるからな。


――名分は重要だ。


「い、いえ!以前までの事は可能な限り綺麗に清算していますので!今更それで捕まったりはしません!」


当然の事だが、ゴーカツ達には色々な揉め事の清算をちゃんと済ます様に俺は指示している。

何せ、商会な訳だからな。

ある程度クリーンでいて貰わないと。


「つまり、完全な言いがかりと思っていいんだな?」


「はい!誓って!完全に言いがかりです!」


「それならいい」


ゴーカツにきちんと確認しているのは、俺自身にかけた縛りの為だ。


俺の目的はアレーヌの復讐で、その為なら手段を選ぶつもりはなかった。

とは言え、関係ない人間達にまで大きな影響を及ぼすのはどう考えても宜しくない。

その程度の良識は弁えているつもりだ。


だから自分の行動に制限を課していた。

可能な限り、無関係な人間に過度な干渉しないという制限を。


――だが、相手の方から此方に攻撃を仕掛けて来るのなら話は変わって来る。


ゴーカツ商会は、今や俺の商会だ。

正規の取り締まりならともかく、言いがかりで俺の商会に仕掛けてきた以上、それは紛れもなく俺に対する攻撃以外何物でもない。


つまり、俺は名分を得たという訳だ。

教会や、この件に関わった貴族共を制圧する名分を。


「この件に関わってそうな奴は分かるか?」


「全ては無理ですが、ある程度でしたら……」


「確実に関わっている奴で、一番トップは誰だ?」


「教会の司教、ゴルダンはこの手の事には確実に関わっている筈です。金にがめつい奴ですんで」


金にがめついとか、きっとたらふく私腹を肥やしている事だろう。

巻き上げ甲斐があるという物である。

ゴーカツ商会の時は、清算のために結構な金が必要だったのでたいして儲からなかった――聖水販売以外で――からな。


「よし、直ぐに出られる様に手配してやるから待ってろ」


「あ、ありがとうございます!メシェア様!」


別に礼は良いさ。

お前らはちゃんと、俺の予定通りの仕事をしてくれている訳だからな。


さて……じゃあゴルダン司教に挨拶しに行くとするか。

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処刑された悪の侯爵令嬢に代わり、彼女の心を歪めた相手を処分します。 まんじ @11922960

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