いつか読もうと思ったら「今」から読んで欲しい

ひんやりとした冬の夜が似合う素晴らしい純文学です。美しく色彩感覚豊かな地の文、テンポよく生身に入り込むような台詞回し、温度を感じる情景描写。それは書き手として「この文章を先に使われてしまった」などと悔やんでしまうほどでした。

純文学に壁を感じる人であっても読み解きやすい丁寧な構成がされています。言葉の扱い方が優しく誠実なところがすきです。


作品は命ついて生活の中で思考する哲学的な内容です。しかし抽象的になりすぎず、まさに現代を生きる人間ドラマ。ときに理不尽な怒りや恐怖を感じ、ときに高揚し、ときに絶望している。

ふと隣をみればいるような「人間」や、今ここにいる「自分の存在」について思考する時間が生まれます。

この作品から摂取した言葉が胸の中に溢れる朝がとても好きでした。いつだって読み返したい、いつだって手元に、心に居て欲しいと願う作品です。

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