後編

「ありえないんですけど」


「あっ・・・逃げた」


 ギャルっぽい女の子たちが私を睨むけれど、私は聞こえない振りをする。

 逃げたわけじゃない。トイレに行きたいんだ。

 私は早歩きでトイレを目指す。


「ふぅ・・・」


 私は手を拭き、前髪を整えて、廊下へと戻る。


「やぁ」


「・・・っ」


 ユウマくんがいた。

 私に話しかける人なんてほとんどいないし、トイレから出たところを男子、それもクラスでも人気があるユウマくんに話しかけられて、全く準備していなくて固まってしまう。


「あのさ・・・嫌だった?」


 ユウマくんの方が身長が高いのに、上目遣いを使ってきて、前髪の隙間から見えるうるっとした瞳がキュンとしてしまう。


「・・・いやじゃ・・・ありません」


 素直に言えない私。

 調子乗っていると言われるのも怖いので、同級生であっても丁寧語や、敬語になってしまう。


「じゃあ、良かった」


 にっこり笑うユウマくん。

 爽やかな顔がかっこいい。


「よろしくね、アオイさん」


 ユウマくん手を差し出す。

 大きくて、筋肉質? 私の手のように脂肪がほとんどついていなくて、指も長くて、シュっとしつつも、血管が少し浮き出ているのを見ると、ドキドキする。そういえば、こんな風に男の子の手をまじまじと見るのは初めてだ。


 私も手を差し出すと、力強そうな手なのに優しく握ってくれる手。

 その手はとても温かかった。


「でも・・・委員長大変ですよ?」


 私の言葉に反応したユウマくんの顔を見て、私は思わず目線を逸らす。

 こういう風にネガティブなことを言ってしまうから私は友達が少ないのだろう。


「前の委員長も、具合悪くなっちゃいましたし、自分からやるなんてすごいなって・・・」

(私には無理・・・)


 眩しいな。

 太陽の光もだけれど、ユウマくんも・・・。


「というか、やる気があるなら、ユウマくんが最初からやれば・・・前委員長のハルナさんも・・・」


 私ってなんて悪女なんだろう。

 人の善意にケチをつけるなんて。


「うーん・・・っ」


 悩むユウマくん。

 謝らないと。


「ユ・・・」


「でも、アオイさんとなら楽しいかなって」


 私の謝罪を遮って、ユウマくんは無邪気に笑う。


「誤解しないでね。僕だって、委員長は面倒くさい」


「えっ・・・」


 私のため?

 だとすれば、それこそ申し訳なさで、いっぱいだ。


「そんな・・・」


「でも、僕って打算的なんだ。だから、前は副委員長すら御免って感じだったけどさ、さっきのあの感じで、僕が立候補すれば、アオイさんと一緒にできるかなってね」


 なんか・・・とっても恥ずかしい。

 私は人の前に出るのも、人の視線を集めるのも嫌いだ。

 でも、彼の瞳だけは照れるんだけど、私を捉えてほしいと思った。


「じゃっ、さっそく打合せしない? 美味しい喫茶店知ってるんだ」


「わかり・・・・・・うん」


「うん」


 私にはまだ彼の手を自分から握る勇気はない。

 けれど、また彼と一緒に繋ぐ日を夢見て。

 副委員長を頑張ってみようと思う。


 FIN

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【2話完結】あなたになら、見つかってもいい。 西東友一 @sanadayoshitune

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ