無職の人ば自然が救ふ

満梛 平太老

無職の人ば自然が救ふ。

其の壱



 「諦めろ、君はこの仕事に向いていない」


 「そこをなんとか!なんでもしますから!」


 「おっ、なんでもする、とな?ではやってもらおう、今日から君は無職という仕事で働くのだ!」


 こうして僕は無職になった。

 

 冒頭のやり取り、気にすることなかれ。

 シガナイ男のツマラン作話さくわなんだから。



————————————————————


其の弐


 

 所有する物、無し。

 デジタルフリーは身体に良い。

 ただし、この時代を生き抜く若者から電波を取り上げたら、生きながらにして、死亡フラグを頭に刺して歩いているも同然。

 無一文に人生など無い。

 

 残念だが、世の中は金だ、金で全てが動いている。

 其の証拠に周りを見渡してみてくれ。

 すれ違う人、人、人…ヒトは殆ど毎日働いているだろう?其れはつまり、大好きなお金を稼ぐ為だ。

 異論はあれど好きだから続けられるのさ。

 

 「ふざけるな、出てけ、金が無えのに来るんじゃねえ!」


 「す、すみません」


 惨めだ、捨てられた残飯を喰うしかない日日にちにちの生活。

 身なりも酷くなり、体臭だってなって皆んなが僕を避けて行く。


 「ねぇママ、あの人原始人みたいだよ、今でも生きてるんだねぇ」


 「こら、そんなこと言っちゃダメ!ご、ごめんなさいね、すぐに離れますから」


 (ムム、離れるとは失礼極まれり)


 だが、もう何を言われてもショックは受けまい。境地…

 

 いいんだ、俺は無職だから、何もしないことが仕事なんだ。怒りさえしない。大悟たいご

 

 ここにも飽きた。働からざる、それがイケナイこの世界、ならば今すぐ出て行こう。

 取り敢えずは山へ、人など居ない場所に行くんだ。そう心に決めた。覚悟…


————————————————————


其の参


 

 「此の山はイイ、誰もいない、自然があるだけだ」

 

 「ヤッホー」


 やまびこが友達だ。

 寂しくなんかない。

 

 木の実を食べ、湧き水を飲み、洞窟で寝る。

 昨日は温泉を見つけた。いい湯だ。

 冬は暖かい方へ移動して生活する。

 また冬になったら暖かい方へ移動する。

 それでどうにか生きて行ける。

 気付いた、コレでイイのだと。

 人生観さえ切り替えてしまえば、立派な生き方だと思う。

 ましてや環境に悪い事はひとつもしていない。

 僕は現在、この世界で一番環境に優しい人間であろう。

 

 人知れず生きる、無職の人。

 

 誰にも知られず、地球に優しく生きる無職の人。


 脳内では、以前と変わらず無数の言葉なき言葉が湧いてくる。

 

 けれども、オカシクなんてなりはしない。

 

 無職とて大いなる力を感じる魂がある。

  

 宇宙の真理を把捉した無職。


 怖いモノなど、無い。


 恐れるモノなんて、実はどこにも存在しなかった。


 偉大なる生命の循環に抗い、欲望という遺伝子を紡ぐ愚かなる人間。


 破滅の扉はもう開いた、此処から先は滅亡へのみ進む事が許されるのだ。


 受け入れなさい、あなた方は既にやる事はやった筈です。


 十分です。私は次の次元へ行くのです。

 高次元、階層は幾つもある、その上も、そのまた上も。

 続く続く…。

 終わらないし、始まりもない。

 

 無だよ無。

 無という有。


 ハハハっ、残酷だね。

 無職で無一文なんだボクは。

 なんだか、そろそろ眠くなってきたよ…。


 「おい!そこの君!聞きたまえ!」

 

 大丈夫だ!

 それでも、自然は受け入れてくれるばい。

 思い詰めるなし、誰んもなーんも知りゃせんのが夢現ゆめうつつやろうが。

 存在していればな、まだまだいけるっちゃ!

 理屈じゃねえぜ、お前さん。

 目を瞑って呼吸をすれば力が有るのが分かるだろう?

 其の力、お前の自由に使っていいんだぜ!


 だとさ。

 

 このように、精神の疲弊が顕著ならば。

 カレ同様と迄は云わないが、自然と触れ合う事を強くお勧めするのである。


 了

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

無職の人ば自然が救ふ 満梛 平太老 @churyuho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説