6羽

学校とは幅広くいえば成人までを迎える子らの教育機関だが、【神国】においては未だ世界に蔓延る魔物を討伐する『魔物討伐科』と【神国】に仕える人間を育成する『人柱育成科』と大きく別れ、特殊な能力を持つものは大抵が人柱育成科に推薦される


今回ペンギンが潜入ならぬ入学するのは魔物討伐科で、サポートとして魔物討伐科と人柱育成科の両方を元首席で卒業したかなめも性別を男にして声色は低く、高身長、体重を増やし変化させて入学している


「男とは不可解だの、男性器はないが……マッチョであればあるほどおなごに目をつけられるか」

「《顔がいいのもある》」


口元を覆う白い布マスクに会話機能を常に起動しているペンギンは名前を『桜 辺銀』に変えており、金の【神国】特有の文様が入った黒い制服の下に拘束ベルトを胸周りに巻き付けている

常に両腕をまとめて拘束しているためか、開放された当時はチェリーに5度殴り込み2勝3敗している


「《どこだっけ?》」

「変な任務を与えたものよな、上層部も」

「《ここか》」

「まだ若いヤツらもおるというのに、背丈の低さなんぞで白いのを選ぶなんぞ……入るぞー」


教室内は扇状に講義机が広がっており奥に行くほど高く設置されていて、ほぼ満席状態であった


魔物討伐科の敷地面積は極端にでかく、教室が広ければ運動施設も広い。理由としては、魔物を相手することを想定しているという建前だが、賭け事好きな理事長が浮遊ボードでのレースを学校の中でもやりたいという無茶苦茶な理由もあったり

当然賭け事は禁止されたが、敷地面積は削除されず結果的に土地が余ったのが現状だ。生徒からの要望があれば、施設の増設も検討しているらしい


「忙しいのは相変わらずだの、1年は」


慌ただしい教室内で、要は愚痴ると空いてる席を見つけペンギンと共に座る


「《何かあるのか?》」

「あたいらには関係ないが……成人まで付き合っていく仲間でもあるし、中退する者も卒業する者もなにかの巡り合わせで出会うことはあるからの」

「《顔や名前だけは覚えておこう、ってこと?》」

「自己紹介は生存率が上がるからの、あたいはせんかったが」


”なんせあたいの目標は、数ではなく質の問題だ”


そんな目をペンギンに向けてくるが、ソワソワと落ち着かないペンギンに要は苛立った


「何をソワソワしておるか白いの」

「《学校、初めてだから》」

「そういえば白いの、お主はスラム育ちだったの」

「《才能なかったと思う》」

「──……今にして思えば、才能云々以前に正解だったのかもの。白いのがここに来なかった理由」


ペンギンは疑問符を浮かべるが、教壇に立つ男性が声を荒らげる


「諸君!!静かに願う!」


ピタリと騒音が止み、目元を黒い前髪で隠す男性の顔が強ばっていく


「あ、あの、そんな怖い目して見てこないで……」


途端に身体を震わせ、身を縮める男は着衣している白衣を顔で覆う


「相変わらずだの、あの男も」

「《知ってる?》」

「魔物討伐科内で現最強の男だ」

「《要は?》」

「あたいがここにいた時も変わらず最強だったの、チェリーの輩と肩を並べるでないか?」


ペンギンはふぅんと息をこぼし、男を見ると小声で男を避難する声が起き始める


「あ、ぁあ、わかった、待って、今話すから……えぇと……こ、これからなんですが、あ、違う、ご、ご入学おめでとう……ございます……」


なんとも頼りなさに、小声の騒音もざわつきへと変わる


「ま、待って待って!静かに……こ、この教室での担当をさせてもらいます、『斑鳩 つとむ』です」


『斑鳩』の名前に反応したのはペンギンのみ、他はピンと来ないようだ


「《う?》」

「聞いたこと有る名か?」

「《中ツ国、【九龍】の『五龍』》」


そのワードで要は【斑鳩】を思い出す


現在『五龍』は【斑鳩】が統治をし、手の届く範囲は全て救い、いつの日か【九龍】に牙を剥く準備の最中だと聞いたペンギンは、勤もまた関連があると思っていた


「ないの。勤が【斑鳩】との血縁であれば、生き別れの悲しい過去を持つことになる」

「《見えないね、悲しい過去なんて持ってなさそう》」

「最強、故に演技力にも長けておる可能性は否めんが」


「こ、こらそこ……静か……に?うん?」


要とペンギンを見つけた勤は、一瞬だけ笑みを零し、また顔を強ばらせるも2人は見逃さなかった


「……あやつと接触するかの」

「《味方になってくれればいいけど》」


2人の愚痴は、魔物討伐科の最強の耳に届いたかどうかは不明だ


──────


午前はこれからの説明、午後は科からの運動能力試験


入学前に運動能力の試験は一通り行うが、あくまでもそれは入学レベルに達していたらの話

本気で行って欲しいこともあり身体能力が高ければ高いほど、成績に響く



体操着に着替えた要とペンギンは昼休みに『初めまして』の体で勤と合流した


「せんせ、初めまして」

「《ども》」

「おや……?あぁ、注意したふたりだね。なにか御用かな?」

「とぼけるの無しで頼むの、久しぶりだの勤」

「《【神国】特殊部隊隊員 ペンギン》」

「……」


斑鳩 勤は2人の自己紹介を聞いて、指を髪に絡ませくるくるし出す


「任務は?」


一瞬にして雰囲気が変わり、ペンギンの目には勤が赤黒いオーラを纏うように見えた


「《これが本当の姿?》」

「これ白いの、真面目にせぬか」

「悪いが早急に。このあと科内の会議が迫ってる」

「理解したかの?白いの」

「《目標の護衛》」

「……おかみの出す任務はわからんな」

「あたいもだよ」

「《関係ない、果たすまで》」

「して、目標は?僕も目を光らせてもらう」

「助かるの、勤が居れば万人力だの」

「《華家彼方はなやかなた よう。元華族の落ちこぼれ》」


聞いた斑鳩 勤は、難しい顔をして絡ませる指を抜く


──────


遥の姿を確認したのは平凡な家を出てから、科の敷地に入ってから、教室内で座ってるのを見てから

どれも当てはまり、もはやストーカーにジョブチェンジしかねない特殊部隊のペンギンはその日の午後に屋外のグラウンドで会話を始める


「《華家彼方さん、初めまして》」


嘘ここに極まれり

会話自体初めてだが、概要資料、生年月日、血液型、身長体重、好き嫌い全てを頭に叩き込んでいるペンギンにとっては、どんな初めての相手でも相手を手玉に取れる


「あ、ど、どうも」


初見、斑鳩 勤のようなタイプだと勘違いしかねないが勤には裏の顔がある。遥はない


「《午後、2人組みで行う競技があったらお願いしてもいいかな?》」


ペンギンの口から出るありえない言葉の組み合わせは、特殊部隊に配属している国語を得意とした者、コミュニケーション能力に卓越した者、精神科の医師、詐欺師に至る者までから伝授されている


「あ、私からもお願いしたかったの!」


思わぬラッキーにペンギンは自身が会得した”努力”に無駄がなかったことを安心した

一方相手からはそんなこと思われていないのだが


「みんなほら、殺伐としてるじゃない?空気というか、ピリピリしてて……声掛けてくれる人なんて中々居ないし、組んだら組んだで邪魔してきそうじゃん?」


一理あった為に、言葉を紡ぐ”努力”しても意味無くない?と思えた時、勤から声がかかる


「よ、よし、君たち、動きやすい服装だね?」


朝礼によって勤のよわよわモードを見ていた生徒たちは、完全に舐めきった顔で勤を見る


「そ、そんな怖い顔しないで……じゃ、じゃあ先生がお手本見せるから記録係は配置しててね」


まずは短距離走

勤はクラウチングスタートからのスタートダッシュを見せ5秒でゴールし、生徒たちを納得させた

これで威厳を取り戻せた訳では無い。このレベルならゴロゴロいるし遅くても8秒で走りきるのが一般的な時代だ。次々と走り込んでいく生徒たちを見送る勤は、ペンギンと遥を呼びスタートに立たせると、ペンギンに小声で話しかける


「くれぐれも」

「《う》」

「う?」

「《う》」


もはや言葉に意味は無いと、努力とは無駄だったと思えたペンギンは言葉を失い、クラウチングに構える

「宜しく」と隣から遥に声をかけてくるが、スタートの掛け声に反応してペンギンは足に力を入れ、地面にヒビをいれてゴールした


「は?」「え?」「う、うそ……」「違うそうじゃない」「遅いのー、白いの」


後半2人、頭を抱える勤と要の発言はペンギンに届かずゴールを過ぎてから急ブレーキをかけ、勤に声をかける


「《斑鳩、早く、次》」

「……次のやつは華家彼方と一緒に走ってやれ……先生が記録するから」


体操着で顔の汗を拭うペンギンの肌には、火傷跡の刺青が淡く揺れた


──────

短距離走による秒間瞬発テスト、2日かけて四山を超えるところを20分で行軍往復をすることによる長時間走破耐久テスト、レスリング選手などが行い反射神経を鍛えるセンタータッチテスト等々を終え、最終テストに備えるため敷地内の建物に入るペンギン含む生徒たちは、データチップを渡されて脳内へインストールする

中では街を想定にした建物が建ち並ぶ他、少し移動すれば木々が生い茂げ、魔物が街に入り込むシュチュエーションを仮想空間によって先程のデータチップが再現していた


「で、電子媒体で建物や、ま、魔物を再現してるとは言っても、魔物、から攻撃されれば現実の肉体に、も痣ができるからね。一日に、1回……や、2回程度なら傷が残ることは無いけど、あまり頻度が多いと後遺症も残るから、き、気をつけてね……?」


勤の話を聞いてか聞かずか、街に進んでいく生徒たちは事前に目的を聞いていた通りに動き出す

5人1組のパーティや2人1組、要はソロのつもりで動くらしく、ペンギンは護衛のために遥と組んだ


「よ、宜しくね……?」

「……」


こくりと頷き返したペンギンは、遥の装備を今一度確認する

赤の短パンに上は体操着、その上から身につける防弾チョッキは胸の膨らみのせいで少し隙間が空いており、背中には対魔物用M4カービンを背負い、防弾チョッキと腰にマガジンをこれでもかと付けている

弾切れの心配だろうが、死んでは無駄になるので意味が無いのだが

水色の髪の毛を守るはずヘルメットには髪が大量に溢れ出し、枝か何か引っかかれば戦闘の妨害になりかねない


近接用にと、右胸辺りにあるナイフに怯えながらペンギンの後へと着いてくる

ちなみにペンギンは鍛刀1本のみ。要と討伐記録を競い合うために縛ったルールだ

進み出して5分、遥はペンギンに問う


「あ、あの辺銀くん……ホントにその剣1本で大丈夫なの?」

「う……あ、《大丈夫》」


必要ないと思って切っていたマスクの会話機能をONにして、森と建物の境界線へと進むペンギンに遥は急ぎ足でついて行きながら、詠唱するように目的を言葉で反復する


「目的は魔物の討伐で……加算式による評価……え、ええと……後は」

「《複数相手による評価は加算される。妨害有りにつき、1人戦闘不能に加算。魔物のサイズによっても加算、他にも────》」

「え、辺銀くん全部覚えてるの?」

「《必要な事だから》」


もちろん護衛にとは言わず、迫り来る体長140はある魔物犬の群れを捌き始めるペンギンに、ハッと遥も加勢し出す


「魔物犬……コイツは核があって……頭、だっけ」

「《頭に核が固定されてる、希少種は胸。そっちに行かせないから冷静に殺して》」

「殺す……私ならできる、殺せる」


不穏だが、何もしないよりはマシかとペンギンは思考を巡らせながら体を逸らし、魔物犬の突撃を避けると同時に頭に鍛刀を突き刺す

瞬時に遥の向ける銃口と引き金を引くタイミングを見計らい、ペンギンは射線から離れると魔物犬の頭に銃弾がぶち当たった


「……っ!」

「《休む暇ないよ》」

「う、うん……」


魔物犬の群れを数分かけて殲滅したペンギンと遥は、散った血が電子の世界に溶け込むのを見る


「《リアリティが無いな、やっぱり実践じゃないと……》」

「はぁー……はぁー……う、げぇぇ……っ!」

「《こっちは堪えるか》」


華家彼方 遥にとって電子の世界とはいえ、殺しの初体験は堪えた

嘔吐感は感覚によるもので、吐瀉物はない。口から出るのは『何かを吐き出した感覚』だけ


「《華家彼方さん、これからどうする?》」

「はぁー……はぁー……どう、するって?」

「《このまま殺しを続けるか、辞めるか。身体能力と判断能力のテストだからリタイアしたら成績に響くけど、先生も後遺症を残すほど無茶はさせないと思うし、僕もやめた方がいいと思う》」


これを機に後方へ下がってくれれば御の字だ。前線希望ならばまた護衛期間が伸びてしまう


「でも、私が前に出ないと困る人もいるでしょ?」


幸か不幸か、遥の出した疑問にペンギンは


「《いや》」


素っ気なく返した


「《魔物狩人ハンターの需要は伸びつつあるし、医療も充実してる。腕1本失った程度でも治る時代だし、必要かって言われたらそこまで必要ではない》」


近年では魔物の需要が高まったことで、ハンターたちの懐も潤ってきているのは事実だ。大金持ちになれるかは別としても、魔物御殿と呼ばれるほど一軒家を立てる若者も増えているほどだ、元華族の遥にとっては小遣い程度しか稼げない


「え、えぇ……じゃ、じゃあ後方に回ろうかな」

「《いいと思う。判断能力は僕より長けてると思うし、先生にも推薦しておくよ》」


こうして、華家彼方 遥の護衛をペンギンは無理やり終わらせた


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『ペンギン』 黒煙草 @ONIMARU-kunituna

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