インターネット怪談

高黄森哉

のっぺらぼう


 現実世界に怖いものがあるように、ネット世界にも怖いものがある。


 暗く汚いインターネット街道を、提灯の明かりを頼りに歩いてると、ある男が道の真ん中でしゃがみ込んでいた。面白そうだったので声を掛ける。僕は驚いた、その人には、顔があったからだ。


「ここら辺は物騒なんで、顔を晒して歩かない方がいいですよ」


 僕はしゃがみ込む彼が、ネットに巣くう、カオナシお化けに襲われてしまわないよう忠告をした。面白いものを見つけるなり、ハイエナのように湧いてくる怪異にバラバラにされないように。


「そうですか、ありがとうございます。私は蕎麦屋でねぇ、なんだか商売がうまく行かなくって。まずいと評判なんですよ。家内と喧嘩して家を飛び出してね」


 おでこが痒いので提灯を持ったてでぬぐう。すると私の顔が、ぼんやりとした赤い光に照らされる。彼はそんな私を見るなり、一目散に逃げてしまった。




 それから、一週間がたったある日、私は友達と蕎麦屋に来ていた。それは車と合体した屋台で、店主は不愛想に背を向けていた。


「いやぁ、あの蕎麦屋マズイよねぇ」

「引っ越したみたいだけど」

「へぇ、引っ越したんだ」


 店主は後ろを向きながら、そばをすくう私たちのこういった。


「それは、長良川の近くの蕎麦屋でありませんでしたか」


 ふりかえる。私たちは驚いた、なんと、その蕎麦屋の店主には顔があったからだ。そして、その顔は以前に会った、あの彼と同一だった。


「ぎゃ!」


 といって、店主は、その場で失神してしまう。友達と顔を見合わせた。その友達には顔がなかった。まるで、つるんとした白玉である。そう、二人はのっぺらぼうだったのだ。友達は言う。

 

「インターネットで顔がない僕らと、顔がある彼ら。果たしてどっちがちゃんとした人間なんだろうね」

「どっちも、ちゃんとした人間じゃないよ」


 私は答えた。

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インターネット怪談 高黄森哉 @kamikawa2001

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