第42話:協力

 宿に戻った俺へ、すぐにレミティアが声を掛けてくる。


「アリウス、大丈夫でしたか?」


 ギルマスに呼び出されたことをバズズさんから聞いたのだろう、心配そうな表情でそう口にしたレミティアに対して、俺は笑みを返す。


「大丈夫だよ。実はガゼルヴィードのせいで問題があったみたいで、その報告と情報提供をしてきたんだ」

「ガゼルヴィード領で何かあったのですか?」


 純粋に気になっての質問だったのだろうが、俺は口にしていいものか考えてしまう。

 別に隠すことではないのだが、話すことでレミティアたちを巻き込んでしまうことは容易に想像できたからだ。


「部屋で話すよ。でも、判断はみんなでしてほしい」

「……? 分かりました、リディアにも声を掛けておきますね」

「頼む」


 そう口にすると、レミティアは首を傾げながらも、リディアを呼びに女性陣の部屋へと向かう。

 俺はそのまま自分の部屋へ向かい、バズズさんに声を掛ける。


「戻りました、バズズさん」

「おかえりなさい。どうでしたかな?」

「共有しておきたい情報があります。このあとレミティアとリディアも――」


 ――コンコン。


「……ちょうど来たみたいです」


 俺が部屋に戻ってきた数秒でノックって、どれだけ急いできたんだろうか。

 そんなことを考えながら、扉の前に立っていたのですぐに開く。


「お待たせいたしました」

「いやいや、全然待ってないから」

「そうでしたか?」


 いや、マジで待ってないからね、うん。

 俺は急いでレミティアとリディアへ椅子を用意し、全員が腰掛けたところでギルマスからの話を伝えていく。


「ギルマスからの情報で、今回討伐したクイーン、そして隠れているだろうキングが、ガゼルヴィード領から流れてきた魔獣だって可能性が浮上したんだ」

「そうなのですか?」

「あぁ。それで、おそらくだけど、クイーンとキングにガゼルヴィード家の三男、ルーカスがかかわっているかもしれないんだ」


 それから俺は以前にあったゴブリンの番をルーカスが逃がしたこと、追い掛けたが見つけられなかったこと、さらにガゼルヴィード領から領民が逃げていたことなどを説明していく。


「ゴブリンの番を逃がしただと? そいつはなんというか、バカなのか?」


 丁寧な口調が印象的だったバズズさんが『バカ』と口にするということは、ルーカスの行動は本当にあり得ないことなのだろう。

 まあ、俺から見てもあり得ない行動だったわけだし、言葉が悪くなるのも当然か。


「ゴブリンに限らず、番の魔獣を放置するのは愚の骨頂。特にゴブリンは繁殖能力が高いので、見つけたら絶対に討伐するよう教えるのが当然のはずだろうに」

「そんなことも知らず、よくも領主の息子をやっているものですね!」


 バズズさんだけではなく、リディアも怒り心頭だ。


「それで、アリウスはどうするのですか?」


 そこへ冷静にレミティアがそう問い掛けてきた。


「……俺は、キングの討伐に手を貸すつもりだ。ルーカスのせいだってことは認識しているけど、だからといってガゼルヴィード領から流れてきた魔獣を放置していいわけじゃない。俺も実際、討伐できなかったわけだしな」

「そんな、アリウスは悪くないですよね?」

「ギルマスにも言われたよ。でも、俺がどうしても許せないんだ」


 番の話を聞いてすぐに追い掛けることができていれば、こうはならなかったかもしれない。

 ルーカスに殴られ、止められたとしても、追い掛けるべきだったんだ。

 だからこれはルーカスの尻拭いでもあり、俺自身の尻拭いでもあるんだ。


「レミティアたちはゆっくりするか、別の依頼を受けてくれていても――」

「それじゃあ私たちも頑張りましょうね! バズズ、リディア!」

「そうですな。クイーンを討伐できたのですから、キングもきっと大丈夫でしょう!」

「それに今回は冒険者たちの協力も得られるのです!」


 俺がキングの討伐に参加しなくてもいいと口にしようとすると、レミティアたちはやる気満々でそれぞれが発言をしてくれた。


「……い、いいのか?」

「もちろんです、アリウス殿!」

「むしろ、私たちをのけ者にするつもりですかな?」

「最初にアリウスを巻き込んでしまったのは私たちですよ? それに、今はもう、私たちは仲間ではないですか」


 ……仲間、か。

 レミティアたちに気を遣わせないようにしたかったけど、それがもう間違いだったのかもしれないな。


「……ありがとう、みんな。よろしく頼む!」


 今の俺は、一人じゃない。

 レミティアたちと一緒に、キング討伐を成し遂げて見せるんだ!

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