幕間

幕間

 わたくしは、器。

 サアレを生み出すための、器。そうしてこの地を動かしていく、駒のひとつ。


 許せなかった。岩の下の女が得られるものはなにもない。自由などない。自由がないことすら知らない者ばかり。けれどもわたくしは気づいてしまった。

 許せるはずもないのだ。

 わたくしの産んだ子が、サアレを作り上げるという意思にしかなれないなど。


 わたくしは神に問うた。

 強く正しくあれと神は答えた。


 多くの選択肢を持ちなさいと。

 強い男児を産みましょう。正しく育てましょう。そして自由を与えましょう。

 わたくしの子を、サアレとして、クストとして生かし続けるために。


 わたくしには魔力がある。ならば父となる者は魔力の受け皿が望ましい。

 ヨナの男が好むような視線を、言葉遣いを、仕草を。


 そうして産まれたのが女だなんて。

 絶望する。びりびりと岩が震えて、わたくしの魔力に包まれた子は石となった。

 わたくしはそれを飲み込んだ。

 わたくしの中でなにかが変化した。


 大丈夫、まだ機会はある。神のために、美しい自然のためにと祈っていれば、彼らはわたくしを必要としてくれる。


 ……何度繰り返しても、失敗ばかり。美しくないものばかり。

 いけないわ、これでは。

 でも。こんなふうに広がった身体から産まれた本当のわたくしの子は、きっととても正しいはずだから。強いはずだから。


 岩の下で生まれた男にはキナリという将来がある。けれどその先を望めるのはクストの子ばかり。

 あとはみんな、いなくなる。サアレの意思と飲まれてしまう。


 そうなる前に、わたくしが飲み込んでしまいましょう。

 広がって、拡がって。そうして産まれた愛しい子。未来を持つ意思のある子。


 ああ、なんて可愛いのだろう!


 強く在りなさい。

 正しく在りなさい。

 なにもかもを飲み込んで、広がってゆきなさい。


 すべてはマクニオスのために。すべては神のために。

 愛しい、わたくしのウォロア――……!

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雨音は鳴りやまない ナナシマイ @nanashimai

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