第50話 帰るべき場所
みんなと話し合った翌日、俺たちは将軍に別れを告げ、王都へ最大速度で戻った。
山も森も砂漠も何もかもを無関係にただ最短距離で進んでいるとあっという間に王都が見えてきた。
そして、不要な警戒を生まないために速度を緩める。
「…………やっと帰ってきたんだな」
離れた時間はそれほど長くない。だが、王都にいたのがはるか昔に感じる。
そして、一つだけ聞いておくことがあったので、船首で風を浴びているフェアリスの方を向いて尋ねた。
「フェアリスも今回は一緒でいいんだよな?エルフのいる森に降ろしていってもいいけど」
前の時は王都が見えると別行動だった。念のために聞いておく。
彼女はこちらを振り返ると口を開く。
「別にいいわよ。なによ?カズトは嫌なわけ?」
「いや。俺はそっちのが嬉しいな」
正直な気持ちを伝える。帰るならみんなで、どうせならフェアリスのこともちゃんと紹介したいし。
「…………そう。それならいいわ」
フェアリスはそれだけ言うと再び前を向いた。風で髪が流され、その耳はよく見える。
それがどうなってるかを確認すると俺の顔は自然と笑みになった。
彼女の機嫌はけっこうわかりやすい。少なくとも上機嫌なときと不機嫌な時は。
レイアはその言葉を聞いたのだろう。フェアリスに近づく。
「屋敷は広いからフェアリスがいいなら住んでくれてもいい。カズトが来てから人も増えた。私はそれを嬉しく思っている」
素っ気ない言葉ながらも、レイアの表情はどこか穏やかだ。
そちらを横目で見ると少し笑った。
「そうね……それもいいかもしれないわね」
「ああ」
サクラはそれを少し離れたとこから見つめて優しく微笑んでいたが、しばらくして俺の方に近づいてきた。
「いろいろありました。ですが、やっと終わったんですね」
「ああ、終わったんだ。過去最高の人生の濃さだったよ」
そう言うとサクラは吹き出した。
「そうですね。カズトに比べれば誰もが平坦な人生でしょう」
彼女たちは俺の名前を呼ぶようになった。それが、俺たちの関係の変化を否応なしに伝えてくる。だが、それは歓迎すべき変化だ。
俺は、本当の俺のままでみんなと仲良くなりたい。
流石に、他所では勇者で通すが、せめてカエデとアオイ、アインには伝えておこうと思う。
王都に着き、刺激しないようにゆっくりとした速度でレイアの屋敷に向かう。
出発するときに一度船の姿を見せているからだろう。下では歓声が響き、多くの人が手を振っている。
俺たちはそれに応えながら、我が家に帰った。
庭に降り立つと、カエデとアオイ、アインがこちらに向かって飛びついてきた。
ぶつかる衝撃を少し後ずさることで弱めながら抱きしめるとその頭を撫でていく。
感じる温かさに改めて帰ってきたという実感がわく。
そして、彼女たちは満面の笑みで言った。アインも尻尾をちぎれんばかりに振っている。
『「おかえりなさい!!」』
いろいろなことがあった。
この世界に転生し、勇者に化け、神もどきになり、魔王を倒した。
話さなくちゃいけないこともたくさんある。
でも、今言うべきことはただ一つだけだ。
「ただいま」
大切な場所がある。大好きな人達がいる。
世界がどうのこうのは関係ない。ただ、俺は俺のしたいことをする。
みんなを守る。そのためになら俺は何でもしよう。
もう空っぽなんて思わない。今、俺の手にはその両腕から溢れそうなほどたくさんのものを抱えているのだから。
【以下、後書き的な物】
とりあえず、ここで終わりにします。
サクラの背景にある王都の闇、後日談。勇者の強大な力への思惑。
描写すべきことはたくさんあります。
ですが、一番書きたい部分だったので切り良く一旦ここで切ろうと思います。
もしかしたらまた書くかもしれせんが今のところは完全に未定です。
転生先がドッペルゲンガーだった俺。引継ぎないのに勇者の仕事なんて務まりませんよ!? A @joisberycute
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