「正義の味方」の原因不明な暴走

@HasumiChouji

「正義の味方」の原因不明な暴走

「あの……この前、助監督さんが言われてたのは、このページに書かれてるニュースですか?」

「ええ……ええっ?」

 文字で書けば、どちらも「ええ」だが、続けて口にした2つの「ええ」の意味は違っていた。

 1つ目は質問に対する肯定。2つ目は「どうなってんだ?」。

 あのニュースが載っていたページでは……発端になったSNSの書き込みが「リンク切れ」となっていた。

 話は数日間前に遡る。


 私がプロデューサーをやっている特撮番組の撮影現場から急な連絡が入った。

 連絡の内容は……はっきり言って何を言いたいのか判らなかったが、現場では判断出来ないとんでもない「何か」が起きた事だけは判った。

 上野駅で特急に乗り換え、北関東 (南東北とも呼ぶ) の某駅で降り……待って……何が起きてる?

 サイレンの音……それも複数種類。パトカー・消防車・救急車……全部だ。

 撮影場所になっている大手機械メーカーの工場の入口には……。

「ああ……や……やっと来てくれた……」

「あ……あの、貴方が、ここで撮影されていた番組の責任者の方ですか?」

「な……何て真似してくれたんですかぁッ⁈ 何がどうなってるんですかぁッ⁈ あんたらが、こんなクソヤバい連中だと知ってりゃあああああッッッッ‼」

 山程居るのは、警官に救急隊員に工場の関係者らしき人達……。

 その中で、私に声をかけたのは、助監督に警官が1人……そして……この工場を撮影に使わせてもらう事になった際に挨拶した工場長だった。


「な……何が……起きたの……?」

 撮影場所になった工場は、あちこちが焼け焦げ、壁に大きな穴が空き……。

 いや……その異常事態てんこ盛りの中で、何故、その些細な「異常」に気付いたのかは判らなかった。

 ウチの番組で建物の壁が壊れる時には描写しないが……コンクリの壁の中には本来有る筈のモノが見えない……。そう……鉄筋だ。

「えっ? そ……そんな……う……」

 私は、スタッフやスーツアクターの死体を見て嘔吐した。


「ちょっと待って、何で前番組のキャラが出てんの? そんな脚本だったっけ?」

 カメラと中の記憶媒体ストレージは無事だったので、警察署で録画内容を再生していた。

「い……いえ……良く見て下さい……。少し前にネットで炎上したアレです」

「え……ああ……あれか……」

「何ですか?」

「いえ……いわゆる『御当地ヒーロー』で、ウチの会社が作った前の番組のキャラにそっくりなのが有って、ネット上で炎上してたんですよ」

 しかも……悔しいが……ウチの会社の「ヒーロー」をパクって作ったその「御当地ヒーロー」の方が……若干ではあるがスタイリッシュに思えた。

 流石にクレームを入れた方がいい、と思っていた頃に、その「御当地ヒーロー」の運営が、自主的に全てを取り止め……。

「えっ? あの……まだ、CG処理とか……」

「や……やってません……。本当に起きたんです」

 どう言う手段かでは不明だが、撮影現場に乱入したパクリ・ヒーロー達は……これまた、どう言う仕組みかは不明だが、持っていた銃から謎の光線を出し……そして……戦闘員 (中身は普通の人間だ) や、こっちのヒーロー達 (こっちも、中身は普通の人間だ) を次々と……いや、あの光線は何だよ? どうして、人や物に当たったら、本当に爆発が起きるんだよ?

「一体……何がどうなってんですか?」

 それは、こっちが聞いたい。


 パクリ・ヒーロー達は……数分間、暴れるだけ暴れると……急に倒れて動かなくなったらしい。

 その時には……脈拍が無くなっているのだけは判ったが、どう言う訳かスーツを脱がせる事が出来ず……何故なら、スーツのどこにも継ぎ目やチャックが無かったのだ。

 突然、死んでしまった (多分) パクリ・ヒーロー達の死体 (多分) は警察に運ばれ、解剖中らしい。

 そして……。

「はい……えっ? ……そんな馬鹿な……」

 警察官の1人に、突然、電話がかかってきて……。

「あの……一体、何がどうなってんですか? あいつらが何者か、心当りは本当に無いんですか?」

 何故か、その警察官は泣きそうな顔になっていた。

「えっと……また、何か有ったんですか?」

「あの……事件を起こしたあいつらには……皮膚が無くて……筋肉の上に直接、あの着ぐるみが貼り付いてたらしいんです」

「はぁっ?」

「知ってるなら言えぇ〜ッ‼ 知ってる筈だぁ〜ッ‼ 何が起きたァ〜ッ⁉ あいつらは何者だぁ〜ッ⁉ 答えろぉ〜ッ‼ 誰が仕組んだぁ〜ッ⁉ 目的は何だぁ〜ッ⁉ おい、このクソどもの逮捕状はまだ取れねぇのかぁ〜ッ⁉」

「ちょ……ちょっと……落ち着いて……」

「ううううるるるるせせせせええええ……ッ‼ 何が落ち着けだぁッ⁉ てめえらこそ落ち着かねぇと、ただじゃ済まさんぞおおおおッ‼ おおおお畏れ多くもももも……ここここ国家権力の御下僕様を敵に回しててて……無事で済むと思うなよよよよよ……」

「だ……誰か……警察……」

「阿呆……警察はここだだだだだああああ……ッ‼」


 何が起きたか、誰にも判らないまま、番組の放送中止が決定した頃、私は再び、あの事件を担当している警察署に呼び出され……。

「例の貴方の会社が去年作っていた番組をパクった『御当地ヒーロー』ですが……それを告発したSNSアカウントは有りませんでした」

「えっと……消されてた、って事でしょうか?」

「いえ……SNSの運営会社に問い合わせた所……アカウントそのものを消しても、運営会社のデータベースにはデータは残っていて、運営会社の技術者であれば削除された書き込みやアカウントの詳細を調べる事が出来るらしいのですが……その……単にアカウントを削除したのなら、残っている筈のデータが無いそうなんですよ……」

「えっ?」

「そして……あの記事に書かれていた『御当地ヒーロー』のイベントの日付ですが……その日には、そんなイベントは行なわれていませんでした」

「はぁ?」

「ついでに、あの『御当地ヒーロー』ですが、運営会社、誰がデザインしたか……そもそも、そんな『御当地ヒーロー』が実在していたのか、一切合切不明なままです」

「ええ……ええ……ええっ? 何がどうなってるんですか?」

「本当ですか? 何か知ってるんじゃありませんか? 知ってるなら、正直に答えて下さい。今なら罪が軽くなりますよ。あの『ヒーロー』達は何者で、何が目的で、あんな事をやったんですか?」

 だから……知らないって言ってるだろ。

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