逃走劇インVRMMORPG【Dream】

名無しのGさん

勢いのまま突っ走れ!

 やあ!何はともあれここはゲームの中!夢の中でっす!

 なのでなのでー!俺いま絶体絶命のピンチだけども―!きっと目が覚めたら大丈夫だよネ!!

 何を隠そうここは超大人気(だった)VRMMORPG「Dream」の中!アイムプレイヤー!今は祈る人ってか!HAHAHA冗談きついぜ!


 現在ドキがムネムネしちゃうような女の子と一緒の大逃避行劇~って感じなんだけど、なんでかって今流行りのやべーウィルスでゲーム内の全AI(NPC含む)が敵対関係になっちゃって、プレイヤー全排除しようとしてるらしいんだよね!

 ちなみに俺のハンネは「アサヒ」!

 こっちの黒いのが俺たちをさっきまで捕まえてて、今猛ダッシュで追いかけてきてる「ウィザード」!

 さっき一瞬あいつの射程範囲内にうっかり入っちゃったんだけど、いやー冗談きついわー!こいつとの戦闘は正直言って無理だわー!戦うって想定一切なかったんじゃねってレベル差だったんだよね!


 あとあと~「ゲームの中」「夢の中」っていっても、今回のウィルスのやばい所は、この状況でHP削り切られたらゲームから出れないって噂がある所だよネ!!

 関連は否定されてるけど、やけに最近VRMMORPGプレイヤーが植物状態になってるっていうのも聞くんだよネーー!!


 ……目が覚めたら大丈夫だって言って!!オネガイ!!



「独り言すらもムカつく奴だなお前」

「辛辣ゥ!!ていうかユーキちゃんこそヒールちゃんとかけてよ~!」

「さっきのでMPは使い切った。アムリタはまだ一本だけあるけど…飲んでるうちに追いつかれそう」

「ピンチじゃーんがんばって逃げるしかないじゃーん」

「そうだな」


 あっ、こっちのドキがムネムネしちゃうような俺のド好みの見た目のアバターとド好みなツンツンした性格の女の子、さっき『魔術師の鳥かご』ステージで一緒に囚われの身になってた「ユーキ」ちゃん!

 職業的にはメディック!なんだけど今はMPが切れて可愛い女の子、以上だ!ついでに俺はソードマン!

 ちなみにちなみに~現在やっとステージを抜けて、安全にログアウトできる場所まで今走ってるんだけど、そこまで逃げ切れるか分からない的な状況~!他のNPCだったり、ウィザードの手下っぽいのがずっと追いかけてきてるんだよね~!


「……にしても、本当に、ずっと追ってくるな…!キリないぞ、どうするアサヒ!」

「どうするって言われてもこれむりじゃね?ここで死ぬ運命的なやつじゃね?」

「諦めたらそこで試合終了っていうだろ!」

「ユ、ユーキちゃん……そんなかっこいいこと言われたら俺惚れちゃう……!」

「無駄口叩く余裕はあるんだなお前!」

「てへぺろー」


 ステージを抜けたら何とかなると思っていた時期が俺にもありました。

 いや~街中っていうの?商店街とかは普段は陽気に薬を売ってくれる商人NPCがゲスな笑顔で毒薬振りまいてきたりとか、見知った人がゾンビ化してる中を駆け抜けるって最悪通り越して笑っちゃうレベルだよね!ついでにまだログアウトできる広場までは遠いんだぜ!HAHAHA!


 ちょいちょいNPCやウィザードの手下が立ちはだかるたびに、手に持った両手剣で一刀両断していく、のは別にMPもいらないのでなんともない。

 良心の呵責は有るが、こちとら実生活が植物状態になるって噂を知ってる以上、なりふりかまってられないのだ!

 (ついでに戦闘になると、隣のユーキちゃんも髪を振り乱しながらロッドで殴っている。結構なダメージが出て、倒し切らないまでも相手を昏倒させたりしてる。まさかお前……殴りメディック型だったのか……?)


 見知った町の中を駆け抜けていく。ついでに俺たち以外のプレイヤーの姿は見えないのが不安なポイントだね!

 他の人達は逃げたのかそれとも……と思うとやっぱり怖いから考えるのは無しにしようそうしよう。

 何回目かの戦闘を挟んで、ひぃこらいいつつ広場までたどり着く。着いたぁ!!


「つ……ついた……!!」

「やったなアサヒ!」

『フフフ……よくぞここまでたどり着いたな、選ばれし冒険者達よ……今こそ我が秘術の前に塵芥に帰すがいい……!!』

「なんで先回りしてんねんこいつ」


 つい本音が出た。ぬか喜びはやめて!!心折れちゃうから!!

 手下たちはどうしたの!!ボスがそんな簡単にでてきてどうするのよ!!

 こっちの弱音の虫が顔をだしちゃうぞ!泣きそう!


「ユ、ユーキちゃん、これ無理では……?俺たちここで終わりなのでは……?」

「くそ、まだわからねぇよ、諦めたらここで試合終了だっていうだろ……!」

「ううう、ユーキちゃんほんとイケメンだね?無事ログアウトしたらオフしよ?とりあえず俺の端末番号メッセで送っておくね!」

「思ってる以上に余裕じゃねーかお前心配して損したわ爆ぜろ」

「てへぺろ-」


 他愛無い話をしているけど、こっちも実は必死で考えてるよ!逃げ道を!

 ついでにお約束として、イベント戦闘扱いらしく、パーティリーダー(認定されてるらしい)の俺が行動するか、ユーキちゃんが二回行動しない限り相手のターンは来ないようだ。逆に言えばなんか行動したら問答無用で相手がなんかするってことだね!知ってる!ついでにスキルとかじゃ逃げられない戦闘扱いだね!知ってる!


 こっちの勝利条件は、広場エリアに飛び込みさえすれば、後はログアウトするだけでオッケー。

 位置関係的には、広場エリアの入口手前にちょうど立ちふさがるように、二キャラ分のスペース取ってるウィザード。

 ウィザードの正面に、俺たち。アサヒ&ユーキペア。

 相手をどうにか移動させるか、動きを止めれたら、その隙に広場に滑り込むことはできそうだ。

 ついでにステータス的には、ウィザードに物理も魔法もダメージは通らないけども、状態異常はなんとかなるかもしれない。

 相手の攻撃は射程が長く全体攻撃ばかり。だが詠唱時間が長いので、一度無駄うちさせればリチャージの隙に広場に逃げ込める……?

 しかしウィルスに感染して強化されてるウィザード、 二回攻撃とかしてきてもおかしくはないんだよな……。

 さっきまでの戦闘で必殺技ゲージがたまっているが、それも『ダブルアタック(必中で二撃当てる)』『恵みの雨(全体に大回復)』『ファストステップ(任意の対象を最速行動させる)』のうち一つが使えるだけで、決め手に欠けるだろう。

 何とか初撃をしのいだとしても、その隙に広場に逃げ込めなければどうしようもならない。消し炭になってしまう。

 うーん無駄うちなんて都合の良い事起きるかな?起きないよなーー!



 ……やっぱり無理じゃないかな、ここまで来て、悔しいけども……この戦いで死んだら、リアルの自分も実質死ぬの?死にたくないけど、こんな相手にどうすれば?……ああやだやだ、弱虫め!サレー!去ってくれー!!


 歯の根がガチガチとかみ合わなくなるのを、必死で抑えようとする。剣を握る手すらも震えてくる。

 考えがまとまらない。いつものアサヒのようなお気軽な思考を取り戻せない。くそ、どうしたらいいんだ。どうしたら……ユーキちゃんもアサヒも生き残ることができる……?


 ぐるぐるとネガティブ思考に陥って、ウィザードが絶望にしかみえなくなってきた、ところで。

 ぽん、と肩に手を置かれた。

 ユーキちゃんだ。


「大丈夫、なんとか、なる。なんとかして、ログアウトしようよアサヒ」


 本人も余裕がないだろうに、ユーキちゃんはクッと口角を上げて見せる。

 ああ、ああ、なんてイケメンなんだ。ド好みの見た目のアバターに加えて、中身がイケメンなんて惚れてしまうじゃないか!卑怯だ!!


「ユーキちゃんほんっとかっこいいんですけど……マジで無理……」

「ことごとく緊張感ぶち破ろうとしてくるなお前。……なんか策はある?」

「HAHAHA、あると思うかい!」

「あっないやつだなこれは」

「まってまってまって、一応、一応考えはしたけど、具体的にどうっていうと無理な気がする奴しかない」

「どんなのさ」


 自信がない、が、一つだけ思いついた策をぽつぽつと述べる。

 一個だけ、賭けでしかないけれども、思い付きはしたんだ。

 話を聞くユーキちゃんが不審げな顔から、目をキラキラさせて自信満々な顔になっていく。待って。なんでそんなキラキラしてるのかな?かな?


「なんとかなる気がする!」

「ほんとかな~~~!?」


 他に案もないし、言ってしまえば分の悪すぎる賭けでしかないんだけども!頭の悪い話でしかないんだけども!!

 ええい、いつまでもウィザードと膠着状態でいるのもあれだし、やるしかないってやつかな!?


「アサヒ、準備が出来たらやるよ」

「う、ううう、頑張る!ユーキちゃんにかかってるからよろしく頼む!」

「うん、任された」


 作戦会議終了!

 改めて、広場の入り口を見やる。広場の中でさんさんと輝く、近くて遠いログアウトボタンがみえるぞ!

 深呼吸を一つつく。

 隣のユーキちゃんが鞄から取り出したアムリタを一気に煽る。

 くそう、こんなときでも可愛い子は可愛いのだ。アバターの力ってすごい。

 中身がイケメンだったからっていうのもあってめちゃくちゃ笑顔がやばい。何その、俺に向ける不敵な笑顔。ほれてまうやろー。

 此方も負けていられない、とぎゅっと剣を握り直し、ウィザードへ向き合った。


 ウィルスがなんだ、俺、ログアウトしたらこの天使とオフするんだ……!!


 ユーキちゃんのMPが半分ほど回復したのを再度確認して、俺は叫ぶ。


「……必殺技使用『ファストステップ』!ユーキを最速行動!」


 ゲージが一気に減り、どこからか風がユーキちゃんの足元へ集まっていく。

 彼女の体を光のエフェクトが包み込み、まるで天使ともいえよう。

 そんな天使のユーキちゃんはロッドを構えなおし、


 そして、


 跳躍した。

 

 軽々と、羽が生えたみたいに、ウィザードの真上から迫るメディック。

 白衣の天使が黒衣の死神に迫るような、そんな錯覚を覚える。


 ロッドを大きく振りかぶるユーキちゃん。

 その重く、鈍器としても使える杖を、彼女はウィザードに容赦なく叩きつけた。


「ヘ ヴ ィ ス ト ラ イ ク !」


 ロッドがドゴン、と音をたてて、ウィザードの頭部にヒットする。やばそうなSEがするが、ウィザードの防御力は物ともしていないだろう。


 だが……グラリ、とウィザードのグラがよろめき、頭を押さえる動作をする。

 そして、来るはずの消し炭魔法がこのターン来る気配はない。


 昏倒状態、つまり状態異常、スタンがはいっている!!


「ユーキちゃん、いける!」

「アサヒ、はやく!」


 叫び声が重なる。

 全力で広場の入り口に駆けていく。


 はやく、はやく、はやく!あいつのスタンが解ける前に!


 先にユーキちゃんがたどり着いたのが見えた。

 俺もあと十歩もない!もう少しだ!もう少しで、このゲームからログアウトでき……



 ……ゾワリ、と背筋を冷たいものが走った。



 反射的に、地面を蹴って、広場の入り口に向かって飛び込んだ。


 一瞬おいて、熱気が襲ってくる。

 振り返れば元居た場所が爆炎に包まれていた。

 立ち上がったウィザードが杖を構え、ローブの間から爛々と輝く赤い瞳で睨みつけている。こわい!


 広場エリアを覆う見えないフィルターで、広場自体は特に問題もなさそうだ。

 が、今の一撃で少しだけフィルターに亀裂が走っている。まじかよ。


 再度ウィザードが杖を此方に向け、詠唱を始める。

 MPが杖に集まっていくのが可視化されていくけど、俺の知ってる規模の魔法じゃない。ちょっとこれまじでまずい。


「ゆ、ユーキちゃん!!マジでやばいっぽいからログアウトしよう!」

「そうだな、三十六計逃げるに如かずだ!」

「あっ端末番号教えとくね!オフしようね!」

「最後の最後までそれか馬鹿!じゃあな!」

「冷たい!」


 慌ただしく、二人で同時にログアウトボタンを押す。


 ログアウト間際に、ウィザードが放った炎が広場を包むのが一瞬見えた。



―――――


「……朝だ」


 VRMMORPG用の、俗称「棺桶」と呼ばれるプレイ用の装置から抜け出すと、窓の外から穏やかな朝日が部屋に差し込んでいた。

 大きく一つ、ため息をつく。

 なんとか抜け出せたんだ。生還したんだ!


 もそもそと長い髪を一つにまとめて、机に放っておいてた端末を見る。着信アリ。

 ユーキちゃんだったりしないかな~と思いながら、操作していくとそんなことはなかった。

 VRMMORPG「Dream」運営チームから送信されているメッセージだ。暫くの間、長期メンテという形で休止するとのこと。そりゃそうだよねぇ。

 実質、「Dream」は昨日が最期の日だろう。時間が経って再開されても、自分もまたやるかと言われたら迷うし……。


 複雑な気持ちをかかえつつ、ゲーム内の直近のメッセージのバックアップをダウンロードできると書いてあったので申請しておいた。

 ユーキちゃん、ほんと可愛いし中身はイケメンだったし、冗談抜きでお疲れ様飲み会できないかな~なんて邪心があったのだ。

 きっと真面目な女の子なんだろうな。飲み会とか言ったらやっぱり引かれるかな……?


 いや、こんなときこそネガティブ思考をぽーんとほっといちゃうのだ!

 いつか連絡来たら、その時に色々考えることにしよう。



≪アサヒ――本名、日野朝子、しがないOLは、うっかりしていた。

  自分が女性だと、一言も言っていないのである!≫


―――――


「あーーー……どうしよ……」


 俺は夜野勇樹。

 高校生。

 男。ハンネはユーキ。ゲーム内の職業は殴りメディック撲殺天使。


 現在は端末を目の前にして頭を抱えているところ。


 お世話になったし、あのテンションになんやかんや気がまぎれたところもなくはない。

 あともう「Dream」内で会う事もできないだろうし、別に会っても同性同士なにがあるってわけじゃないよな。俺、全然性別偽ってなかったし、相手も中身男って知ってておちょくってたかんじだし……。


 開いているのはメッセージアプリ。ゲーム内で教えてもらった端末番号を宛先にいれ、「先日はありがとうございました」で始まるメッセージも既に書いてある。後は、送るだけ。


 ええい、送っちゃえ!


 いつになく真面目な顔で、夜野勇樹は端末のボタンを押した。




<おわり>


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