チェリストの悪夢 その名はカノン
柴田 恭太朗
チェリストの悪夢 その名はカノン
あなたはご存じだろうか? パッヘルベルのカノンという曲を。
おそらくほとんどの人が、ああ、あの曲ねって、ニッコリ笑みを浮かべるはず。
では、あなたはご存じだろうか?
三人のバイオリニストが紡ぎだす優美で妙なるメロディ、
それが三層に折り重なって華麗なレースのように空間を
チェリストは何をしているのか……
チェロ弾きは呆けたように口を半開きにしながら、
ただひたすらゴオゴオと同じ音の塊を弾いているだけなのだ。
なんせ音符が二小節ぶんしかないんだから。
なんなら、楽譜も要らないんだから。
試しにYouTubeかなんかで弦楽四重奏版のカノンを聴いてみて。
イントロを担当しているのがチェロね。
らーらーらーらー……ってとこ。
バイオリン入ってきた?
はいそこでストップ。
イントロからそこまでの8つの音がチェロのすべて。
それを曲が終わるまで延々と、
ただただただただ、ひたすら繰り返すのよ。
呆ける理由分かるでしょ?
口も半開きになっちゃうよね?
少し気を抜くとゴオゴオ弾きながら、スゥーッと睡魔に襲われる。
曲がいつ終わったのかも分かない。
ふと我に返ったら、演奏を終えたバイオリニスト三人がニヤニヤしながら、
こちらを見つめている、なんてことはしょっちゅうある話。
チェリストにとってまさに天敵。
悪夢の曲なのだカノンってヤツは。
もし知り合いにチェロ弾きさんがいるなら、
試しに訊いてみるといいと思う。
「カノン弾くの好き?」って。
きっと、ぎこちない作り笑いで顔を引き
「それほどでもないかなぁ」と答えるはず。
さもなければ恐怖に蒼ざめて、無言で
そのまま音信不通になる。半年ぐらい。
そのどちらかだから、ぜひ試してみて。
結果に責任持たないけど。
チェリストの悪夢 その名はカノン 柴田 恭太朗 @sofia_2020
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