第7話:無言の宇宙
電力の供給がなくなり、唯一の交流手段であったパソコンが使えなくなった住人たちは言葉を形にする手段を失った。
街は静まり返り、毎日のように聞こえていた銃声も鳴らなくなった。
すると、異変に気づいた住人たちが次から次へと外に飛び出してきたのだ。
そして、隣人同士で互いに顔を見合せるとそれぞれが自己紹介を始めた。
誰が決めたわけでもなかったが、誰も彼も自分の事だけ語り合った。
皆、本当は誰かに話かけたかっただけなのだ。
聞こえなくなった銃声に保乃は安堵の表情を浮かべた。
美波「あ、あれ?私、今まで何を…」
どうやらこの瞬間、"火消し屋"たちの記憶も元に戻ったようだった。
それを察した保乃はとある場所に向かって走り出した。
保乃「ただいま」
唯衣「おかえりなさい」
保乃が向かった先で待っていたのは"火消し屋"から元に戻った唯衣だった。
住人たちがたくさんの言葉で語り合う中、2人だけは多くは語らずに見つめ合っていた。
まるで、無言の中に生まれる宇宙の光を読み取るように。
唯衣の記憶が戻ってどれほどの時間が経っただろうか。
2人は照れ笑いを浮かべながら、ようやく言葉を交わし始めた。
保乃「ずっとここで待っていてくれたんだね」
唯衣「必ず帰ってくるって言ったでしょ。それも3回。待てずに外を飛び出しちゃったこともあったけどね」
保乃「3回?1回多くない?」
唯衣「あれ?そうだっけ?言われてみればそんな気もする」
1回は保乃が家から出る決断をした時。
そして、もう1回は保乃が人質に取っていた唯衣を解放した時だ。
では、唯衣はなぜ3回だと勘違いしたのだろうか。
その答えに2人が辿り着くことはおそらくないだろう。
天使だった"ホノ"が初めて出会い友達になった人間。
それこそが唯衣の前世にあたる女性だった。
自分が天使であることをその女性に告げた"ホノ"は、それでも友達だと言ってくれた彼女に向けて「必ず帰ってくる」と言ったのだ。
つまり、唯衣は前世の記憶が微かに残っていたということになるが、きっとこの場は唯衣の勘違いで済んでしまうだろう。
真実を知ったところで、2人が友達であることに変わりはないのだから。
住人たちが外に出たことを知った"ひかる"は、信号機の上から天に向かって唾を吐いた。
ひかる(この街は捨てる。どうせ住人たちはしばらくすればまた争うようになるわ。あんたに分け与えた記憶も返してもらうわ)
こうして、"ひかる"は自身が創り上げた街を捨てて、どこか遠くへと旅立っていった。
ひかる(そういえば、天界にいた時、"ホノ"になんで人間が好きなのか聞いたことがあったわね)
"ひかる"はふと天使だった頃の記憶を思い出していた。
ひかる「どうして人間が好きなの?確かに人間の行動や感情には興味があるけど、私は好きにはなれないわ」
ホノ「うーん、なんて説明したらいいんやろ」
"ホノ"は目を閉じて必死に考えた。
ホノ「分かんない」
ひかる「は?なによそれ」
呆れ果てた"ひかる"を見て、"ホノ"はにこりと微笑んだ。
ホノ「理屈じゃないんだ」
完。
流れ弾 @smile_cheese
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