第6話:天使と悪魔

"ひかる"たちはかつて神に遣える天使だった。

しかし、"ひかる"たちは決して善い天使ではなかった。

時々、神の目を盗んでは人間にちょっとした罰を与えることを楽しんでいた。

そんな中、人間に興味を抱いた"ホノ"という天使が、天界の掟を破り人間と直接言葉を交わしてしまったことで、神の怒りに触れてしまう。

神は元々目を付けていた素行の悪い天使たちをまとめて地上へと堕落させ、天界に戻ることを禁止した。

こうして、"ひかる"たちはゆっくりと力を失い、人間の体に近づいていったのだ。

そして、この"ホノ"が人間として手に入れた名前が田村保乃なのである。

力を完全に失う前の"ひかる"も人間に興味があったため、真実の鏡『Nobody's fault』や仮想世界『B.A.N』を創り上げて人間の行動を観察することを楽しんでいたのだが、完全にその力を失うと争いばかりを繰り返す人間に嫌悪感を抱くようになっていった。

そして、"ひかる"はそんな人間たちから争いを無くすための実験として"火消し屋"が支配する街を創り上げたのだった。


保乃「ちょっと待って。完全に力を失ったはずのあなたが、どうやってこの街を創ったの?人間にはこんなこと出来ないはずよ」


ひかる「気づいちゃった?私たちは神に見放された存在。もう二度と天使には戻れない。けど、私たちのような力を持った奴らならいる」


保乃「なっ…まさか!」


力を失い、自分が身も心も人間になりかけていることを痛感した"ひかる"は最後の賭けに出た。

かつて、悪魔と恋に堕ちた"カリン"という天使の元へと足を運び、その悪魔を紹介してもらったのだ。


ひかる「私は悪魔と契約した」


保乃「そんな…じゃあ、"ひかる"は悪魔なの?」


ひかる「安心してちょうだい。かつて天使だった私は悪魔にはなれない。彼の力を譲り受けただけ。彼は彼で"カリン"のために人間になりたがっていたから。もちろん、その代償は支払わなくてはならなかったけど」


そう言うと、"ひかる"はサングラスを外して見せた。

"ひかる"の左目は義眼だった。

力を得る代償として"ひかる"は左目を失ったのだ。


ひかる「悪魔が人間になるためには天使の目を食べなくてはいけないらしいの。この力が手に入るんだから、左目なんて安いものよね」


保乃「あなたは天使や悪魔でも…もう人間ですらないのね」


ひかる「そういうことになるわね。私は一体何者なのかしら。人間からしたら、私は神様なのかもね」


保乃「この街はどうなるの?」


ひかる「争いの火種が生まれれば私たちが消しにいく。火が上がらなくなるまでその繰り返しよ」


保乃「そんな…それって何の解決にもなってないじゃない。そんなことをやり続けていたら、誰も言葉を発しなくなってしまう」


ひかる「だから?少なくとも争いはなくなるわ。争いを無くす方法は親交や和解、法律でもない。絶対的な恐怖よ」


保乃「そんなの間違ってる!」


ひかる「だったら!止めてみなさいよ。あんたが友達になりたかった人間たちがどれほど愚かな生き物か、その目でしっかりと確かめればいいわ」


保乃は再び目を閉じて必死に考えた。


保乃(街中を探し回ったけどそれらしい建物は見つからなかった。電力の供給源はどこにあるの?まだ私が探していない場所…)


ひかる「どうしたの?早くしないとこの街から人間が居なくなっちゃうわよ」


その時、保乃は何か答えに辿り着いたのか、ハッと目を見開いた。


保乃「ちょっと、待って…」


そう言うと、保乃は来た道を戻り一目散に走り出した。

そして、辿り着いたのはパーティーの会場である真っ赤な建物だった。


保乃(ここは街の中心部…さっきまで中に居たから勝手に違うと思い込んでいたけど、街中に電力を供給するには一番適している場所だわ)


保乃は再びパーティー会場に足を踏み入れた。

中には"ミナミ"を含む"火消し屋"たちが大勢待機していたが、保乃はお構いなしで建物の中を探索し始めた。


保乃(私から攻撃しない限り、"火消し屋"たちは何もしてこれない。それがこの街のルール…)


保乃の予想通り、"火消し屋"たちは動かない。

そして、とうとう保乃は地下へと繋がる扉を見つけたのだった。

地下室は電力の供給源となっており、同時に街中の声を集めることが出来るようになっていた。


保乃(これさえ止めれば…)


ミナミ「待って!そんなことをしたら私たちはどうなるの?あなたは私たちの居場所まで奪うっていうの?」


後を付けていたミナミが声を荒げて保乃に訴える。

しかし、保乃は首を横に振った。


保乃「大丈夫だよ。こんなものがなくたって、私たちは分かり合える」


保乃は優しく微笑むと、電力の供給源のスイッチをオフにした。

そして、オンに出来ないよう、持っていた拳銃でスイッチを殴り付けて破壊したのだった。

こうして、電力が供給されなくなった街からは一発も銃声が聞こえなくなった。



続く。

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