第5話:Dead end
"火消し屋"になることを選択した唯衣はBANされる前の記憶を失っていた。
保乃に対してもパーティーの招待客という認識しか持っていなかった。
保乃「これから何が起きるの?」
ミナミ「何って、パーティーよ。知らないの?」
保乃「ずっと家の中に居たのに知ってるわけないじゃない」
ミナミ「確かにそうよね。まあ、いいじゃない。知らなくったって。せっかくのパーティーなんだから楽しんで。今日はあなたが主役なのよ」
保乃「私が主役?」
ミナミ「そりゃあ参加者はあなたしか居ないんだから、あなたが主役よ」
その時、19時を告げる鐘が鳴り響いた。
ミナミ「さあ、パーティーの始まりよ」
すると、会場に設置されている巨大なモニターに映像が映し出された。
それはこのパーティー会場をリアルタイムに中継している映像だった。
そして、映像の隣にはどこからか書き込まれたコメントが表示されるようになっていた。
『なんだこれ?』
『LIVE?どこからか中継しているのか?』
『部屋も女も真っ赤だな』
『どうやったらそこに行けるんだ?』
保乃「なによこれ…」
ミナミ「この映像は街全体に配信されているわ。これは映像を見ている住人たちの声よ。真っ赤なドレスを身に纏ったあなたは、住人にはどう映っているかしらね」
同じ部屋に居る同じような格好をした女性たち。
第三者からすれば保乃も"火消し屋"もきっと同じに見えるだろう。
『こいつら、"火消し屋"じゃないか?』
『何が始まるの?怖い…』
『何、黙ってるんだ!何か言えよ!』
『俺たちを解放しろ!』
住人たちの声は次第に荒々しくなっていく。
『アップで映っているこいつがボスか?』
『地獄に堕ちろ!』
『ぶっ殺してやる!』
『死ね!死ね!死ね!死ね!』
すると、遠くの方で銃声が鳴る音が聞こえてきた。
それも一発ではなく、何発も鳴っている。
保乃「まさか!これって…」
ミナミ「さあ、どうする?あなたが罵声を浴びれば浴びるほど、この街から人が消えていくわよ」
同じ街の住人とはいえ、言葉で人を傷つけるような会ったこともない他人を助けるべきか。
そもそも、この状況でどうやって助けるのか。
保乃は目を閉じて必死に考えた。
必死に、必死に、必死になって考えたが答えはでなかった。
気がつくと保乃は持っていた拳銃を唯衣のこめかみに突きつけて人質に取っていた。
ミナミ「面白いことするのね。それで?どうするのかしら?試しに撃ってみればいいじゃない。その距離ならもしかしたら彼女をもう一度BANできるかもしれないわよ」
保乃はゆっくりと部屋の出入口へと足を進めた。
保乃「『他人を攻撃してはいけない』が、この世界のルールなんでしょ?だから、私は何もしない。当然、あなたたちも私を攻撃することは出来ない」
ミナミ「だったら、何のためにそんなことしてるのかしら?」
保乃「自分でもよく分からない。けど、少しくらいは効果があったみたい」
そう言うと、保乃は唯衣を連れたままパーティー会場から逃げ出した。
その後をカメラが搭載された機械が追いかける。
『なんだ、なんだ?仲間割れか?』
『鬼ごっこでも始めるつもりか?』
『いいぞ!撃っちまえ!』
『殺せ!殺せ!』
相変わらず攻撃的な発言はあるものの、保乃の突然の行動に関心が集まったおかげで、先程まで燃え上がっていた火は少し弱くなっているようだった。
しかし、火は完全に消えたわけではなく、銃声はあらゆる場所から聞こえている。
パーティー会場からある程度離れた場所まで逃げてきた保乃は唯衣を解放すると、その場で力強く抱き締めた。
保乃「ここで待ってて。必ず帰ってくるから」
唯衣「・・・」
唯衣は何も答えなかった。
保乃はある目的のため、唯衣を残し、再び走り出した。
保乃(私たちが他人と交流する手段はあのパソコンだけだ。だったら、この街に電力を供給している場所を見つけて破壊すれば…)
鳴り止まない銃声。
一心不乱に街中を走り回る保乃だったが、いくら探してもそのような建物は見つからなかった。
シャッターの閉まった商店街のような場所も、ネオンが切れている寂れた裏通りも、ただ走り抜けることしか出来なかった。
そして、残された最後の一本道を進む保乃だったが、そこはただの行き止まりだった。
このままでは世界が終わる。
保乃は目の前の壁を叩きながら、何度も何度も大声で叫んだ。
??「楽しかったけど、これで終わりみたいね」
保乃は声のする方を見上げた。
すると、不自然に立てられた信号機の上でサングラスを掛けた何者かが棒キャンディーを舐めながら笑っていた。
保乃「あなた…誰?」
??「やれやれ。私のこと、すっかり忘れちゃってるってわけね。悲しいわ」
保乃「一体、なんのこと?」
??「"火消し屋"…それはつまり、"火を狩る者"。この街を創ったのは私よ」
保乃「"火を狩る"、"火狩る"…あ、"ひかる"!」
ひかる「ご名答。人間ってこういう言葉遊びが好きでしょ?」
保乃「あなたは何者なの?どうしてこんなことを…それに、私たちは知り合いだとでも言うの?そんなはずはないわ!」
ひかる「いちいち説明するのも面倒だわ。私の記憶を分け与えてあげる。これで少しは思い出すんじゃない?元を辿れば全てはあんたのせいなんだから」
そう言うと、"ひかる"は何やら不思議な力で保乃を包み込んだ。
保乃は欠けていた記憶が少しずつ埋められていくのを感じた。
保乃「"ひかる"…久しぶりね」
ひかる「おかえりなさい。愚かなる堕天使"ホノ"」
続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます