第4話:火消し屋

街の中心部には真っ赤な建物があった。

他の建物が全て黒一色であるため、その建物は一際目立っていた。

そして、その建物はパーティーの招待状に書かれていた場所と一致していた。

保乃はこれが罠だと知りながら、建物の中に入っていく。

すると、真っ赤なドレスを身に纏った女性が受付に立っているのが見えた。

どうやら他の招待客はまだ誰も来ていないらしい。


??「ようこそ、おいでくださいました」


保乃はその女性の顔を見てゾッとした。

その女性は保乃の隣の家から出てきた人物だったのだ。


??「私は受付の"ミナミ"と申します」


保乃("ひかる"じゃない…)


ミナミ「おめでとうございます。お客様が初めてのパーティーの参加者でございます」


保乃「初めて?どういうこと?」


ミナミ「招待した方々はどういうわけか会場を訪れる前に行方不明になってしまうんです。不思議ですよね」


保乃(招待客は私以外全員BANされたんだ…"名無し"もきっと"ミナミ"に…)


ミナミ「どうかされましたか?」


保乃「いや、なんでもないわ」


隣の家から出てきたときの凛とした表情とは違い、笑顔で話しかけてくる"ミナミ"が逆に不気味だった。


ミナミ「それではお部屋にご案内致します」


"ミナミ"の案内するままに大部屋へと入った保乃に緊張が走った。

その大部屋には真っ赤なドレスを身に纏った女性が何人も居たのだ。


保乃「ねえ、来ている招待客は私だけじゃなかったの?」


ミナミ「彼女たちは招待客ではございません。全員こちら側の人間です」


保乃「こちら側?」


ミナミ「最初から分かっていたんでしょ?私たちが何者なのか」


"ミナミ"の表情があの時のように鋭くなった。


保乃「"火消し屋"…」


ミナミ「分かっていてなぜここに来たのかしら」


保乃「知りたかったからよ。外の世界がどうなっているのか。どうして外に出ただけで命を狙われなきゃいけないのか。誰のせいでこんなことになったのか」


ミナミ「なんだ。肝心なことは何も分かっていないのね」


"ミナミ"は落胆した表情を浮かべた。


ミナミ「あなたはどうして外に出ると命を狙われると思ったのかしら」


保乃「みんなが外に出てはいけないと言っているし、それに毎日のように銃声が聞こえてくるから。外に出た者は"火消し屋"にBANされてるんじゃないかって」


ミナミ「あなたがこれまで聞いていた銃声。それって本当に外で鳴っていた音なのかしら」


保乃「え?」


ミナミ「あなた、一度私を目撃しているわよね」


"ミナミ"は保乃に見られていたことを知っていた。

知っていて放置していたのだ。


ミナミ「その時に聞いた銃声は隣の家の中からではなくて?」


保乃「それは…口封じのためでしょ。"ひかる"の正体をしゃべろうとしたから」


ミナミ「そんなことをする必要はないじゃない。"ひかる"は招待状にもはっきりとの名前を記しているし、あなたみたいに勘の良い人ならすぐに彼女が"火消し屋"だと気が付くわ」


保乃「じゃあ、なんのために"名無し"はBANされたっていうの?」


ミナミ『"火消し屋"に会ったら決して攻撃してはいけない』


"ミナミ"が言い放ったのは唯衣の言葉だった。


ミナミ「正確には『他人を攻撃してはいけない』なんだけどね。それは肉体だけではなく、もちろん精神も含まれる。『言葉の暴力』を取り締まるのが私たちに与えられた役目。誹謗中傷の火が上がれば、火の元へ駆けつけて鎮火する。これがあなたたちの言葉で言うところの『BAN』するってことね」


保乃「言葉の火を鎮めるから"火消し屋"…」


ミナミ「私は"名無し"に拳銃を渡しただけ。拳銃を受け取った"名無し"は銃口を私に向けて撃った。その拳銃で他人を撃てば、その弾は自分に返ってくる。それがこの世界のルール。他の"火消し屋"たちも同じ。私たちは渡すだけ」


保乃「唯衣も"火消し屋"を狙って拳銃を撃ったから、その弾が自分に返ってきた…唯衣を撃ったのは唯衣自信だった…」


ミナミ「彼女の場合は誰かが残した拳銃を拾っていたみたいだけど。言葉の暴力もしていなかったみたいだし、外にさえ出なければ撃たれることはなかったのに。残念だけど、ルールはルールだから」


保乃「BANされた人間はどうなるの?別世界に飛ばされるって聞いたけど。実際、唯衣は撃たれた後に消えてしまった」


"ミナミ"は保乃にこの世界のルールについて説明を始めた。

"火消し屋"が渡した拳銃で撃たれた人間に与えられる選択肢は特例を除いて2つある。

1つは真実の鏡『Nobody's fault』の審判を受けるというもの。

Nobody's faultは覗いた者の未来を告げる鏡である。

天使が見えたら『天国』行き、悪魔が見えたら『地獄』行き。

他人を攻撃するような人間の行き先など鏡を覗かなくとも分かりそうなものではあるのだが。

もう1つは『Battle Archives Nobody's fault』、通称『B.A.N』と呼ばれるオンラインゲームを模した異世界への転生である。

転生させられた人間たちはチームを組み、無数のゾンビが蔓延る世界で生き残りをかけたサバイバルゲームに参加することになる。

元の世界に戻る方法はゲームで優勝すること。

ただし、一度でもゾンビに噛まれてしまうと自分も永久にゾンビとしてその世界で生き続けなければならないという。


保乃「特例って?」


ミナミ「武元唯衣のように一度も他人を傷つけていない人間が防衛本能で拳銃を撃った場合にのみ与えられる選択肢がもう1つだけあるのよ」


"ミナミ"は右手を高らかに掲げて指を鳴らした。

すると、部屋の扉が開き、真っ赤なドレスを身に纏った女性がまた一人現れた。


保乃「ま、まさか…」


現れたのは消えたはずの武元唯衣だった。

驚きを隠せない保乃の表情に"ミナミ"はニヤリと微笑んだ。


ミナミ「もう分かったかしら?特例で与えられるもう1つの選択肢。それは…」

 

 

『"火消し屋"になる』

 

 

唯衣は深々と一礼をすると、凛とした表情で保乃を見つめた。


唯衣「お客様、お飲み物はいかがなさいますか?」



続く。

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