第3話:真っ赤なドレス

名無し『"火消し屋"は一人ではなく集団らしい』


名無しからの情報は当たっていた。

保乃はパーティーの会場であるビルを探す道中、"火消し屋"と思われる者たちを何度も目撃した。

そして、その全員が真っ赤なドレスを身に纏っていたのだ。

ビルに到着する前に"火消し屋"に見つかってしまっては元も子もないと思い、保乃はまず赤い衣装を探すことにした。

この街の住人は機械が運んでくる必要最低限の物資で生活をしているため、お金というもの自体が存在していないはずなのだが、なぜか物を売り買いできるような建物がいくつか存在していた。

しかし、どの建物も人の気配はなく、ただの倉庫と化していた。

保乃は数ある建物の中から洋服が置かれている場所を見つけ出して中に入った。

その建物の奥には真っ赤なドレスが陳列されていた。

保乃がどのドレスを着ようか決めかねていると、誰かが建物の中に入ってくる気配を感じた。


??「動くな!」


この瞬間、保乃は死を覚悟した。

振り返ると真っ赤なドレスを身に纏った女性が拳銃を構えていた。

その女性は隣の家から出てきた人物とは別人だった。

保乃は両手を挙げて抵抗しない意思を示した。

しかし、その女性は拳銃を構えたままで何もしてこなかった。

よく見るとその女性の手はひどく震えていた。

そのまましばらくの間、硬直状態が続いた。

ここで保乃はある結論に行き着いた。


保乃「あなた、"火消し屋"じゃないの?」


すると、その女性は驚いた様子だった。


??「違うけど…そういうあなたこそ、"火消し屋"なんじゃ」


保乃「違う!私は"火消し屋"なんかじゃないわ。"火消し屋"から逃げるために真っ赤なドレスを探しに来たの」


??「なるほど。私と同じ考えってことか」


女性は少し警戒心が解けたのか、保乃に向いていた銃口がゆっくりと下へと下がっていった。


??「ところで、あなたの名前は?」


保乃「保乃。田村保乃」


??「え?」


その名前を聞いた瞬間、女性の目には涙が浮かび上がってきた。

そして、その女性はそのまま膝から崩れ落ちていった。


??「会いたかった…分かる?私、唯衣だよ」


保乃「え?唯衣?唯衣って、あの唯衣なの!?」


唯衣「ごめんね。保乃のこと止めてたくせに、私も我慢できなくなって家から出ちゃった…へへっ」


涙を拭いながら笑う唯衣の顔を見て、保乃は安堵の表情を浮かべた。

しかし、その表情は一緒で崩され、保乃の顔は段々と険しくなっていった。


保乃「唯衣…あなた、つけられてるわ」


唯衣はゾッとした顔で後ろを振り返る。

すると、建物の入口から真っ直ぐな目で保乃たちを見つめる人物が居ることが分かった。

真っ赤なドレスを身に纏ったその人物はゆっくりと保乃たちに近づいてくる。


保乃「あの人、唯衣のお友達?…じゃないわよね」


唯衣「いやあああ!!!来ないで!来ないでよ!」


取り乱した唯衣は拳銃をその人物に向けた。

しかし、その人物は怯むことなく近づく足を止めようとはしなかった。

さらに混乱した唯衣は拳銃の引き金に手を掛ける。


唯衣『"火消し屋"に会ったら決して攻撃してはいけないんだって』


保乃の脳裏には唯衣の言葉が咄嗟に浮かんだ。


保乃「唯衣!駄目よ!」


一発の銃声が鳴り響いた。

反射的に目を閉じてしまった保乃はゆっくりと目を開けた。

すると、倒れていたのは真っ赤なドレスの人物ではなく、発砲したはずの唯衣だった。


保乃「唯衣!?」


保乃は慌てて唯衣の元に駆け寄った。

唯衣の体には拳銃で撃たれたような痕があったが、なぜか血は一滴も出ていなかった。

さらに不可解なことに、真っ赤なドレスの人物は拳銃など持っていなかったのだ。

この建物には他に誰かが隠れているような気配はない。

では、一体誰が唯衣を撃ったというのだろうか?


??「武元唯衣はBANされました」


真っ赤なドレスの人物は何をするわけでもなく、その一言だけを残して立ち去っていった。


保乃「唯衣!一体、何が起きたの!」


唯衣「分からない…確かに私が撃ったはずなのに…うぐっ…ごめんね…私…」


保乃「分かった。分かったから…」


血が出ていれば止血をすればいいが、血は一滴も流れていない。

病院といったような施設もこの街には存在しない。

唯衣が撃ったはずの弾は跡形もなく消えている。

保乃は苦しんでいる唯衣に何をしてあげれば良いか分からなかった。


唯衣「保乃…初めて話したときのこと覚えてる?」


保乃「なによ、こんなときに」


唯衣「もう話せないかもしれないから…ねえ、私に何て言ったか覚えてる?」


保乃「もちろん覚えてるわよ…『衣かい!』でしょ?」


すると、唯衣は苦しみながらもクスクスと笑った。


唯衣「良かった、覚えててくれて」


保乃「忘れるわけないやろ。唯に衣で唯衣。まさかの衣やもんな」


唯衣「ふふっ。私、保乃と友達になれて…良かった…」


震えた声でそう伝えると、唯衣はそのまま意識を失った。

すると、その瞬間、建物の中が眩い光に包まれた。

あまりの眩しさに保乃は堪らず目を閉じた。

そして、再び目を開くと目の前から唯衣の姿が消えていたのだ。


『武元唯衣はBANされました』


保乃は大きな声で泣き叫んだ。

この感情が怒りなのか悲しみなのか、それすら分からずにただ叫んでいた。 

保乃は泣きながら真っ赤なドレスに着替え始める。

ここで止まってしまっては外に出た意味がない。

唯衣の分まで前に進むしかないんだと自分に言い聞かせ、保乃はパーティー会場へと向かった。

その様子を信号機の上から"ひかる"が見ていた。



続く。

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