第7話 174号基地
ガレージに私とブレンダ班の4人が、地図を広げて頭を寄せている。
この地図には、植物変異前後に周辺に配置された、基地の情報が記されている。
凡その中央に、第170号基地。
そして、第170号基地から直線距離で40から50キロ離れて、北から時計回りに第171号基地、東に第172基地、
南に第173基地、西に第174基地。
そして、170号基地と174号基地の間に、170号基地の補助施設兼航空基地として、第175号基地が存在する。
単純に、距離が近くて規模が大きいのは、この地域の中心拠点だった170号基地である。
ここは、私が来る前でも少し無理すれば、辿り着ける程度の距離だったらしい。
実際に付近まで行って、通信を試した事も有るようで、何のリアクションも無かったそうだ。
その為、全滅してるんだろうと判断。
喫緊で物資等に困窮している訳でも無かった為、自拠点の安定に注力した結果、生きるのに飽きる迄は困らなくなってしまい、下がりきったモチベーションに任せて、完全に放置していたそうだ。
併せて、今後の他の基地調査の際、道中で立ち寄る事になるので、更に優先度は下がる。
なので、次に近い174号基地が、最初の調査候補地になっている。
「西は山がちだし、一回で終わらせたい所ではあるよな。
そっち方面、他に見るところ無いし」
スカーレットさんが、174号基地の周辺を見ながら呟く。
「そうね、距離の割に時間が掛かりそうですし、何度も行きたい場所じゃないですね」
シルビアさんが、此処から174号基地への行程を、指でなぞりながら同意する。
「まあ、174号基地から他にアクションを起こそうとすれば、此処に寄らないって事はないでしょう。
だから状態は、良くて此処と同じように身動き取れないか……それ以下だと思うわ。
良くも悪くも、何度も行く事にはならないでしょうねー」
最後にブレンダさんが、割と非情な事を仰って締める。
確かに物資を回収は出来るとしても、これ以上備蓄が増えても状況に大差ないし、わざわざ道中が険しい所から回収しなくても、170基地から回収出来るなら、其方からで良い。
万が一つに生存者が居るとしても、可能性としては女性が数人って位だろうから、身一つで来て貰えばいい。
それなら影響も、何度も行く価値も必要性もないか、有っても極少ないって判断だろう。
決して、海に遠いからって事じゃないと思いたい。
翌朝、シルビアさんとスカーレットさんが、最低限の装備と私を巨人体に合わせた特性背嚢に突っ込んで、174号基地へと出発した。
当初は何かに固定されるか、抱えられていく予定だったが、下手に固定すると揺れが逃がせなくて私が死ぬので、背嚢の中で掴まりながら立ってる事にしたのだ。
これなら地面の荒い所を移動しても、膝で幾らか吸収できる。
まあ、何時間もってなると疲れるし、メートル単位で上下動されると吹っ飛びそうで、固定されてる方が安全だろうが。
そこはスカーレットさんに安全運転して貰いたい。
「おい、ツネオ生きてるか。
一旦休憩するから、周囲を切り開いてくれ」
「な、何とか大丈夫です。 少々お待ちを」
スカーレットさんに背嚢ごと地面に降ろされると、採集を使って周囲に空き地を作る。
道中の山あり谷ありが森の密度と相まって、想像以上の難所と化していた為、到着予定を1時間ほど超えてしまった。
お陰で、かなりグロッキーになってしまったが、やっとこ休憩できる。
「お疲れ様、難所は越えたから、この後は多少楽な筈よ」
シルビアさんが、そう言ってレーションを手渡してくれる。
ただ、スカーレットさんもシルビアさんも、種子の狙撃警戒の為、SETA着たまんまなので、あんまり癒しにならない。
カロリー補充に取りこぼしの野菜とか丸かじりしてるし、俺もレーションは少し食べたけど、バナナの方が良いな。
後は猫ミルクを鍋に入れて、レーション付属の砂糖とココア入れて、ヒーターで加熱した物で、水分補給。
脳みそに染みる位甘いが、疲れは取れた気がする。
「お、いいもん飲んでるじゃねーか、アタシにもくれ」
一服してるとスカーレットさんが、インスタントコーヒーとシュガーの包装を取り出して投げて来たので、再度鍋にミルク入れて温め、コーヒーとシュガー入れてかき混ぜる。
それを鍋ごとスカーレットさんへ。
「あ”ーーーーー、カフェインと糖分が効くー」
鍋ごと啜るスカーレットさんが、なんだか危ない薬をキメてるみたいになってるが、私も気持ちは判らなくは無い。
その後、チラチラ見てたシルビアさんが、ミルクティー作って似たような事やってたが、誰も笑わなかった。
それから、再度移動を開始して2時間程。
何とか終盤に挽回して、最終的にちょっと遅れた程度で、予定地点まで辿り着いた。
当初の計画では、森の活動が安定するAM8時頃に出発し、全行程30キロの内で一番険しい部分の10キロを3時間かけて移動。
途中で休憩とカロリー補充の後、残りの割と平坦な20キロを3時間かけ移動し、日が落ちる前に174基地近辺にべースを設営する予定だった。
しかし、前半で1時間ロスしていたので、後半でむりやり挽回した。
森の挙動は日の出と日の入り付近にランダム要素が強まるので、その時間帯は安全地帯作って籠るのがセオリーらしいので、そうしたのだが……上下酔いでかなり気持ち悪い。
少し休んだ後、私が採集で大きめに森を切り開き、巨人体2人で地面に塹壕を掘っていく。
どちらかと言えば蛸壺だが。
そうして狙撃対策を行った後、塹壕内にテント張ってベースの完成。
途中休憩してカロリーを摂取してはいるが、朝から常時動きっぱなしで約6時間、稼働限界まで残り半分くらいとの事。
安全確保の後、SETA解除して休憩アンド食事。
やはり装着状態だと、味が微妙になる上にカロリー摂取の効率が悪く、装着者の精神的な疲れも取れないそうだ。
この辺、多少の差はあるそうだが、満腹から待機状態で24時間、移動等で12時間、戦闘状態だと6時間持たないとか。
更に男性は半分以下の稼働時間になるとか、確かに実験兵器で欠陥品。
正式配備するには厳しいスペックである。
「正直、ツネオが居なけりゃ、175基地まで帰れない場所だよな」
「片道でなら何とかなるけど、調査して戻るには途中にベースが必要ね」
スカーレットさんとシルヴィアさんが、夕食分のレーションとシチューもどきをかっ込みながら言う。
昼と違って、SETA解除しているので、ほぼ水着にコートみたいな恰好の美女が二人。
癒やし効果は抜群だ。
流石にマジマジ見てると殴られそうだが。
今日は、ここで一泊して、明日から調査を行う。
何かしら、成果があればいいんだが。
で、翌朝
「なんじゃこりゃ~!!!」「嘘でしょ」
「………うわぁ」
三者三様とは言うものの、呆気にとられる反応。
テントから数十メートルを切り開きつつ調査して、基地の場所を確認できたと思ったら、敷地はおろか建屋の中まで森の木々に浸食されていた。
というか、採集して敷地の樹々を取り除いて、形の残っている建物を調べたが、破壊は外からの森の圧力に負けたんじゃなくて、中から引き起こされた物だった。
詳しく言えば、地下から吹っ飛ばした形跡がある。
エレベーターどころか、メンテ用らしきパイプシャフトまで崩落して埋まっていた。
しかも、樹脂や金属が高温で炙られて変形していたり、真っ黒に焦げていたりと凄惨な光景だった。
一体何があったのか。
「絶望した奴が基地ごと心中騒ぎ起こしたとかか?」
「流石にそれはないと思うけれど。
身動き取れずに最後の一人になった人物が、機密保持とかな理由で基地を破壊というのはありうるかも」
「シルヴィアさん、そういう基地放棄の手順はあるんですか?」
「有るでしょうけど、基地のトップ辺りなら兎も角、私じゃ詳細は判らないわ」
「取り敢えず、一回り調べてみて何も無けりゃ、帰るしかねぇな」
という訳で、地下への侵入は諦めて、見える所だけ再度確認するべく、三人で建物の残骸を捜索する。
その中で崩落しそうな場所や、扉の破壊が必要そうな所は巨人体の二人に任せ、比較的に形の残っている場所を私が調べる。
まあ、施錠されてない所なんて、会議室だのミーティングルームだの何も無いところか、清掃用具やら作業着を突っ込んであるロッカーとかの、さして重要じゃない物がある位で、どこぞのTRPG動画みたいに目星がクリった所で、真相書いてる手記とかが見つかる筈も……。
「おや?」
清掃用のツナギを探ってるとポケットに手帳が。
「えーとなんだ」
パラパラめくっていくと、とんでもない物だった。
「これは、事実かなあ。 事実なんだろうなぁ」
内容的には、いよいよ先が見えなくなった時点で、死に場所は自分達で決めたいと下士官からの突き上げがあり、それに上層部も迎合。
自分達も故郷や家族に一歩でも近づいて死にたいと、出発の準備をしている的な内容と、最後の寄せ書きの様な頁があった。
ざっとスマホで記述の写真を取る。
「最後はどこまで行けたのか」
私は暫く手を合わせた後、手帳は元の場所に戻した。
そして、三人で合流後に、スカーレットさんとシルビアさんに手帳の内容を報告した。
「結局、この基地は放棄されたって事なんでしょうか」
「まあな、荒らされた様子も戦闘の痕跡も無ぇみたいだから、秩序だっての行動って可能性は高いな……うぁ、この野菜炒めやばいな」
スカーレットさんが、昼食の野菜炒めを摘みながら、確認した様子を話す。
「軍人としてどうかという気はするけど、当時の状況で指揮統制の維持なんて夢物語でしかないわ。
私達に此処の人達の決定がどうこうは言えないけど、後悔の無かった事だけを願うわ……あら、本当ね美味しいわ」
シルビアさんは、野菜炒めの出来に満足したのか、チョット嬉しそうである。
「失礼、確認した場所については、車両類は残置されてました。
ただ、一部物資の持ち出しを確認。
この基地が火葬場という可能性は低いわね。
あ、ミルクティー頂けます」
照れたのか、ちょっと堅苦しい感じになってるシルビアさんに、ミルクティー作って渡す。
「それで、これからどうします?」
「流石に今から帰るのは、ちょいキツイよな」
「そうね……特になにか出るとは思えないけど、午後からもう一回廻って確認後、一泊して帰還ね」
「何にも出ないんなら、半日駄弁っててもいいんじゃないか」
「いやまあ、気持ちは判りますが」
「一応、何か出る可能性もあるから、半日我慢してレティ」
「へいへい」
「が、頑張りましょうね」
まだ日も高いというのに、今一つ盛り上がらない三人だった。
ハロワの邪神窓口は、オッサンに異世界短期就労を斡旋する。 桂木K @katuragi_K
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