3 This way

 ふと我に返る。

 障子に畳、こたつの上にみかん。そして毎日気まぐれに文章を表示する掛け軸。

『家族みんなで生レバーたまにユッケ〜♪』

 このメッセージは一体誰に何を訴えかけてるのか。

 ぼんやりとした頭で目の前の情報を整理する紫髪少女こと魔王様。

 紫色の暗雲漂うここは異世界。魔王様の住まう魔王城。玉座には紫水晶の大男が大口を開けて怒りの表情で壁にめり込みつつ高速縦回転し、緑色の縦軸Yさんが指し示す天井裏の隠し和室。

「確かPS誤を買って帰途のところに秋葉原が無人になって黒尽くめ達に追いかけられて……気がついたら体がおっさんに……」

「……うさま、魔王様大丈夫ですか?」

 魔王様の目に光が戻る。

「This wayな無表情で帰ってきたんで何事かと思ったのですが、本当にどうしたのですか?」

 魔王様のこたつの左側に座っているのは執事姿のカラスの獣人。名をクローニン

「髪逆立ってた?」

「逆立ってましたし、なんならロングになってますよ」

 そう言って姿鏡を持ってくるクローニン。

 耳が隠れるくらいのボブカットの髪型は腰まで届くロングになっていた。

『人払い』の効果だったのだろうか。秋葉原駅はコ”ンさんで溢れかえっていたようである。満員電車の鮨詰めで乗客全てThis way。

 ヒ⚪︎トーが居なくてよかったとホッと胸を撫で下ろす魔王様。一般通過人のハゲの人大歓喜だったのではなかろうか?

「で、何があったんです?」

 クローニンにこれまでの経緯を話す。

 甘皮まで剥いてもらったみかんを口にしながら、一度は手にしていたPS誤が今はないことに改めてガックリと肩を下ろす。

「あのエロガキ、次会ったらボッしてやる」

 下の階でホログラムが連続ハイキックしていた。


 分厚い窓、ゆっくりと遠くの星々が視界の奥へと遠ざかって行く。そんな未来感漂う宇宙船のロビーの一画。突っ伏したロボが一つ、悪魔が一体、肩に見えないオウムを乗せた(点線で輪郭だけわかる)マッチョなジュウシマツの鳥人が一体。

「ということで、PS誤、手に入れられませんでしたorz」

 文字通りorzのポーズで壁にゴリゴリしている漆黒のオーラを放つクリスタルロボ。頭の上に魔王と記載されており、首が動くたびに文字も踊る。

「よしよし、魔王さん泣かない泣かない」

 閣下の名前の悪魔。山羊のツノを生やした細身のサラリーマンスーツの男性アバター。声はイケメン青年なのだが、若干の合成音が残っている。言葉遣いもなんとなく女性っぽさが隠しきれない。『仲間』内では性別は触れないでおこうと暗黙の了解である。

「しかしコントローラーだけでも買った方が良かったのではと」とは鳥人。

 負けた感じがしてヤダヤダと壁にゴリゴリ中。

「しかし気になるのは、『人払い』の能力ですね。秋葉原かなりすごい状況だったようです。車に乗っていた人もすぐ引き返したみたいですが混乱が無かったのは全員洗脳状態だったからのようで」

 その区画の空白状態は一時間で解消し、その後はいつもの秋葉原に戻ったとの事。

 ういーっすとボイスチャットではなく文章で淡々と語るのは、黒い馬に乗り黒いボロボロのフードに身を包む鎌をもつ青年? 中性的な顔なのでこちらも性別は不明アバター。†死神†の名前が浮かんでいる。


 オンラインゲーム『ファイファンスターオンライン14(略FSO14)』最新の美麗グラフィックでアクションRPGなのだが、魔法職が昔のウィザードオィィを模して詠唱を文字入力で手打ちしなければ発動しない仕様。

 それが一部のマニアに刺さりヒットする。前衛がアクションを駆使して後衛を守り、魔法職が詠唱を駆使して大ダメージを繰り出す。

 長い詠唱であるほど高威力ということもあって一時期外部プログラムを使って詠唱を自動化するチート行為があり揉めに揉めた時代があったが、運営会社は逆にマクロという小プログラム文章を詠唱に組み込める作りに変更した。このおかげでコンシューマゲーム機でも展開可能となり大ヒットとなる。

 一部のユーザーには昔ながらのキーボード手打ち勢がいるとかなんとか。


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東京メメント 深呼吸しすぎ侍 @kanpouyakushi

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