組織
高黄森哉
痴漢組織
[僕]
僕が痴漢に目覚めたときは十三、場所は電車の中であった。といっても、痴漢をしたわけではなく、満員電車でお姉さんに囲まれただけだが。僕は中年になったあともその体験を大切にし続けた。だが、いくら待てども似たような体験はやってこない。だから、僕はお姉さんの体を求め、電車の中でだけ、捕食者に回ることに決めた。
それから数か月がたったある日、僕は痴漢仲間の南原さんに痴漢組織への勧誘を受けた。なんでも、もしもの時の保険だという。そのシステムも保険に似ていて、会費は捕まった時の罰金返済や保釈金に充てられるらしい。さらにその組織は痴漢斡旋してくれるというのだ。僕に迷いはなかった。月に二千円払っている。
それから三日後、僕は満員になった電車であるお姉さん、といっても僕より年下である、に這いよる。そこは組織によってあらかじめ決められたポイントであった。どういうわけか、組織は人間の行動パターンを把握してるようだ。
指定された位置に来ると、山本さんが遅れてきた。山本さんは、僕と同じ痴漢グループに所属していて、今回は不測の事態が起こった時、無実を証明してくれる係である。僕もなんども担当したことがあるが、この作戦の要だ。しかし、その係が必要になったことは一度もない。組織からの指示はいつも的確で、マニュアル通りにやれば警察に行かなくて済むのである。
僕は指定された時間になったので、作戦を開始した。
[私]
私は痴漢されている。なんとも言えない充足感だ。三か月前、入会した痴漢斡旋組織とやらには感謝している。私が学生だった時は痴漢がまだ生きていた。それが正しさによって排除された時、私の楽しみが一つ減った。世の中の女性がすべて私のようであったらなと思った。
実際、私のように思ってる人間はまあまあいたらしい。そういう人間が非営利組織として設置したのが痴漢組織なのだ。痴漢されたい人、痴漢したい人、その両方を満たすためのシステムを組織は構築した。
私はお尻を揉みしだかれながら、この世の中にはきっと、もっと風変わりな組織が存在するに違いないと思った。カルト宗教だって、騙されたい人のためのガス抜き組織なのかもしれないし、バス事故だってバス事故で死にたかった人のための地獄行きツアーだったのかもしれない。私の知らない所で世界が回っていると考えると不思議な感じがした。
[俺]
フヒッヒヒヒヒヒヒ、もう止まれない。もう止まれない。いまからブレーキを操作したって遅いんだ。脱線、脱線、脱線。こんな世の中くそくらえ。あの組織には猛感謝、整えてくれて感謝、こんなにも人を集めれくれて感謝、電車の動かし方を教えてくれて感謝、車掌の殺し方を教えてくれて感謝。俺は会社に、社会に報復、復讐、破壊、破戒、打開。見えてきた人ゴミ、ゴミ、ゴミ! 駅だ、駅だ、駅だ。ヒッ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ、イヒヒヒヒ、死ねぇぇぇえええええええええぁぁああああぁああ。
組織 高黄森哉 @kamikawa2001
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