第115話 配信 兄とイル


「…………さて、こっちはどうするんだ?普通にダンジョン回るのか?」

「そうですわね。ついでにボスを探そうと思いますわ」


『二人で?』

『危なくね?』


 イルの言葉に、心配するコメントが集まる。

 コメント量は先程から大幅に減っていて、多くの人はネイカの方に流れていったようだ。まあ、話の流れ的にも個人の人気的にも、向こうの方に人が集まるのは当然だろう。

 逆に言えば、こちらに残ったのはイルのファンか配信を切り替えるのすら面倒だと思った流し見のリスナー、あとは向こうにも行っている二窓のリスナーといったところだろうか。あまり俺が出しゃばってもいいことはなさそうだ。

 そんな中で、イルは大丈夫だとリスナーに豪語する。


「もちろん戦うつもりはありませんわ。ですが、宝箱の件が終われば次はボスでしょう?ある程度の位置を把握しておけばスムーズに話が進みますもの」

「たしかにそうだな」

「ええ。ついでに、パーティー内で分散される経験値はある程度近くにいる人にしか適応されませんから、三人の今のうちに雫さんのレベルもガンガン上げてしまいましょう」


『いいね』

『安全第一で』

『メル以外の魔法獣ももっと見たいな』


 俺の予想通り今残っている人はイルのファンが多いようで、魔法獣に関する興味のコメントの比率も上がっているようだった。


「あっ、私もお兄様の魔法獣には興味がありますわ!」

「そうか?じゃあ久々に、普段あまり使ってない魔法獣とかも使っていくか」

「いいですわね!」


『助かる』

『プッチ使ってくれ』

『どんなのが居るの?』


 俺たちは、俺の魔法獣を知らないというリスナーのために、実際に魔法獣を召喚しながらダンジョンを進んでいく。

 やはりというべきか、イルにもリスナーにも人気が高かったのはミニエンジェリックと眠り猫だ。彼らの見た目は王道から外れず、シンプルに小さな天使と普通の猫という感じなので人気も頷ける。ただ、意外と次点で人気を集めていたのは小さなおっさんという感じのプチハンターだった。

 動物組となる、牛型のダイナバッファロー、狸型のジェットラクー、狼型のジャックウルフは、大きな人気はなくとも可愛いというコメントもある。電気を纏うゴーレムのエレキゴーレムは、人気があるわけでもないが人気がないというわけでもない。泥人形のドロペットは、なんだか明らかに微妙な反応が多かった。


「今のところはこんな感じだな」

「意外と少ないのですわね」

「欲しい奴はいるんだが、SPがな。取るだけじゃあんま意味ないから、取るならある程度は強化したいし」

「そうですわねー。私ももっといろいろな魔法を使いたいのですけれど、派生スキルの話もありますから」

「あー、スキルの使用回数を睨んでるんだったか。それじゃあ余計に手広くとるわけにはいかないな」

「そうなのですわ」


『魔法スキルの派生ってまだ聞かないよな』

『ファイボとか明らかに火要素として食われてるだけ』


 たしかに、『ブレイズラッシュ』はあくまで片手剣のスキルで、火属性要素として『ファイアーボール』が『アサルトスラッシュ』に吸収されているというイメージだ。

 そもそも現状、火属性の単体魔法攻撃は『ファイアーボール』しかない。さすがに100レべになっても『ファイアーボール』を使っているというのはあまり想像できないので、『ファイアーボール』の上位スキルは用意されているのだろう。しかし、『ファイアーボール』をすでに10まで強化していて、かなりの回数使っているイルがまだ派生していないとなると、何が別の条件があるようにも思える。


「案外普通のRPGみたいに、レベルで開放されたりするのかもな」

「それもそうですわね。50レベルくらいまで上げてみれば…………あら」


『あ』

『いるな』


 なんて暢気に談話していた俺たちの前に現れたのは、ダンジョンではお馴染みのモンスターの群れだ。

 今までは四人で一方的なバトルしかしていなかったのであまり緊張感はないが、二人でとなると話は別だ。十分に気を引き締めなければ、やられてもおかしくはない。


「どうしましょう?私指示を出すのは苦手なのですけれど…………」

「わかった、それだったら俺が出そう」


『任せた』

『脳筋お姫様』


「誰が脳筋ですの⁉焼きますわよ!」


『www』

『こっわ』


 これはイルとリスナーたちの普段のコミュニケーションというやつなのだろうか。

 そんな声につられるように、群れのモンスターがこちらを認識する。俺たちも改めて戦闘態勢に入ると、俺とイルのコンビでの初陣が密かに始まったのだった。

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