第114話 配信 宝箱の仕様
ダンジョンの探索を始めてから、一時間ほどが経過した。
俺たちは右も左もわからない状況の中、闇雲に洞窟内を進んでいた。敵と出会っては戦い、敵と出会っては戦い。何度か奇襲を受けたりもしたが、今のところは誰一人欠けることなく探索が進んでいる。
「出なーい!」
『出ないな』
『もう敵無視すれば?』
もう何度目かとなる行き止まりに辿り着いたタイミングで、ネイカが突然そんな叫び声を上げた。
出ないというのは、ダンジョンの魅力のうちの一つ…………宝箱のことだ。
「宝箱って、こんなに出ないものだっけー?」
「どうでしょう?ダンジョンはあまり情報が出回っていませんから…………」
『さすがに少なすぎん?』
『実は隠しておいてあるとか?』
「いや、普通に置いてあるって…………まあネットの情報だけど」
ネットの情報を鵜呑みにするなとは言うが、流石に今回の場合は信じてもいいだろう。ダンジョンに入ってみた人が一人や二人という話ではないし、宝箱を発見したという話も多い中で、そんな嘘の情報が出回るとは思えない。宝箱を実際に見つけた人たちが訂正するはずだ。
「そもそも、宝箱ってどういう条件で発生するんだろうな?」
「それは、そこら辺にポンと湧いてくるものではありませんの?」
『そもそも宝箱ってパーティーメンバーで分けられるん?』
『まず宝箱の仕様を知らん』
「宝箱は開けた人のものだねー。ウチらは五人だから、五個見つけないと全員には行き渡らないって感じー」
『やば』
『無理だろ』
とはいえこんなところにソロで潜るのは無謀というものだし、普通に考えればもっと宝箱が見つかるべきというものなのだが。
しかし、こうなるとやはり、頭に思い浮かんでくるのは────
「また、何か見つかってない仕様が絡んでるのか?」
「えー!お呼びでないんですけどー!」
『勘弁してくれ』
『まあダンジョンも中々検証されてない分野だしな』
分野て。
リスナーの言い方はともかく、実際に俺が少し目を通した記事でも、一時間もダンジョンを探索すれば宝箱は見つかるという話だった。ただ中身のランダム性が故に宝箱目的でダンジョンを徘徊するのはリスクに見合っていないという結論が多く、俺たちのようにそもそも宝箱を見つけられすらしないのならば、ダンジョンの価値は絶無といっていいだろう。
「出ない理由かー」
「私たちが適正レベルより高いからでしょうか?」
「いや、適正レベルに関係なく出るって話だったんだけどなー」
『てかボスは?』
『似たような話転がってないん?』
一度探索を中断して、全員で原因を調べてみる。
ちなみにダンジョンボスはダンジョン内の奥地を徘徊しているらしいので、出会えるかどうかは運次第だ。
「一旦運が悪すぎるっていう選択肢は考えないとして、今の俺たちに何か宝箱の発生をブロックさせる原因があるってことだよな」
「うーん…………そうなると、この状況で発生すると運営的には都合が悪いってことだよね?」
「運営の意図にそぐわない何かってことだよねー…………あ、もしかして」
コロが何かを思いついたような口ぶりを見せる。
俺たちが全員コロの方を向くと、そんなコロはカメラの────正確には、雫の方を向いていた。
「このゲームって基本的に経験値とかドロップ品はパーティーで均等に分散されるけど、レアドロップ品は違うんだよねー?」
「ああ…………そういえばそうだったか」
『あったな』
『だから宝箱もってことか』
レアドロップ品。そう聞けばドロップする確率がとても低いレアなアイテムに聞こえるかもしれないが、SFOでは少し違う意味だった。
基本的に、モンスターを倒すと経験値とドロップ品が確実に手に入る。この確実に手に入るドロップ品というのは、武器や防具、中ではアイテムの生成に使うための素材アイテムだ。
その一方で、レアドロップ品というのは倒してみるまでドロップするかどうかわからないアイテムのことだ。中には三割ほどの確率でドロップするというアイテムもあるので、レアドロップ品と呼ばれているだけでレアアイテムとは限らないというわけだ。
そんなレアドロップ品だが、パワーレベリング(レベルの低いプレイヤーとレベルの高いプレイヤーでパーティーを組み、レベルの高い方のプレイヤーがレベルの高いモンスターを倒すことでレベルの低いプレイヤーに大量の経験値を与えて一気にレベルを上げる方法)をしていたプレイヤーたちから、この状況ではレベルの低いプレイヤーに一切レアドロップが発生しないという話が上がってきたのだ。
この状況でも経験値が均等に配分されることから、SFOではパワーレベリングを容認しているが、ドロップに関しては何か悪い都合があってブロックしているのではという結論でネットの議論は終わっていたはずだ。その何かというのは、何なのか定かではない。
「つまり、雫さんがパワーレベリング状態になっているから、宝箱が発生しなくなっているということですわね」
「ありそう!このダンジョンの宝箱を雫ちゃんに開けさせるのは、運営的に都合が悪いのかな?」
「いやー、可能か不可能かは置いといて、低レベルの人だけでこのダンジョンに来れば宝箱も湧くはずだろ?何か、運営的にはアイテムの入手に関しては楽させたくないんだろうな」
「でも、SFOってトレードに制限ないよねー」
『謎だな』
『いっそ不具合だろ』
『何のための仕様だよ』
俺たちは謎の仕様に文句を垂れながらも、この説が正しいのかどうか二手に分かれてダンジョンを探索することにした。最初はパーティーを解除するだけでいいのでは?という意見もあったのだが、宝箱はドロップと違ってパーティー単位で起こるものではないので、仕様の意図を考えるとパーティーを組んだまま別行動する方が湧きそうだということでの結論だ。
班分けは、ネイカとコロ、俺とイルと雫という別れ方だ。宝箱組はネイカの配信から確認してもらい、コラボ配信の方は俺とイルの二人で続けるという話でまとまった。コロが「宝箱を見つける側がいい」と言うのでこの別れ方になったのだが、俺とイルでは二人の不在中を回せる気がしない、なんて言ったらイルに失礼かもしれないが、俺はどうにも不安が拭えなかった。
…………イルみたいなキャラの子と二人の時ってどんな対応をすればいいんだ?
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