第113話 配信 クリティカルの仕様検証
「よっ…………と?」
『ん?』
『どうした?』
『え』
それは、ダンジョンに入ってから六回目の戦闘の時に起こった。
二回目の戦闘にて再び『ブレイブアタック』で先制攻撃をした俺たちだったが、その攻撃は先程のとはおおよそ半分程度の、いつもの火力へと戻っていた。
つまり、一回目の時のあの火力はやはり何らかの仕様によってダメージが増幅していたのだ。常時起こるような仕様ではないとなると、やはりクリティカルだったのではないかという考えが増していく。
そんな中でクリティカル検証のためになるべくネイカに戦闘を任せながらダンジョンを攻略していた俺たちだったのだが、六回目となる戦闘の最中、突然ネイカの動きが止まったのだ。
とはいえ最前線で戦うネイカにそんな余裕が与えられるわけもなく、ネイカは慌てたように戦闘に戻る。俺たちはそんなネイカにまさかという思いを感じながらも、戦闘が終わるまでは何も言わずにその戦闘をサポートすることしかできなかった。
そして無事に群れのモンスターを全て倒しきると、報酬に見向きもせずにネイカがこちらへと駆け寄ってくる。
「さっきのちょっと…………みんな見た⁉」
「いや…………」
「何もわかりませんでしたわ」
「ウチもー」
『クリ出たん?』
『まさか?』
『マジで出たの?』
ネイカの様子に異様な空気となるコメント欄。
しかしネイカはどこか歯切れの悪い口調で、何かを迷うようにこう言った。
「うーん…………多分…………ちょっと削れが大きかったような…………」
「…………マジか」
『乱数じゃなく?』
『こっちからはわからん』
『ちょっと見返してくる』
SFOでは、ダメージを与えても具体的なダメージ量が表示されるといった仕様は存在しない。その代わり敵のHPバーは可視となっているので、その減り具合を見てダメージ量を推定するしかないのだ。
また、具体的なダメージ計算は(そもそも具体的なステータスが明記されていないので)わかっていない。しかし、全く同じ状況でもダメージに最大二割程度の差が出ることから、ダメージ計算の最後にダメージ量を少しだけブレさせる乱数が存在するということだけはわかっているという状況だ。
この仕様に加えて、ネイカのクリ武器によるクリティカルダメージの数値が257…………つまり1.257倍のクリティカルダメージとなるので、クリティカルが出たとしても非常にわかりづらい状態となってしまっている。ネイカはHPバーの削れ方が想定より多かった一撃があったというのだが、どこか確信しきれないという様子だった。
「でも、1.25倍って意外と大きな差だと思うぞ?もちろん乱数が絡んでくるとはいえ、ネイカが違和感を覚えたならクリティカルが出たっていうことだと思うんだが…………」
「そうですわね…………ただ、与ダメージが低ければ低いほど削れる量も少なくなりますから、違いもわかりにくくなりますわ」
「ネイカさん今は火力低めだもんねー」
『双剣だしな』
『むしろ良く気づいたわ』
『ブレイブアタック』のような強力な一撃を放つスキルならば、クリティカルが出た時もそのダメージがまるまるクリティカルダメージ分増える。
しかし、双剣のスキルは基本的には連撃だ。ただでさえスキルレベルが少し低めであるのに加えて、一撃一撃のダメージ量が少ない双剣のスキルでは、その一発がクリティカルヒットしたとしても気がつくのは至難の業だろう。
「いやー、ちょっとこれ…………でも多分増えてたよ!二撃目デカかった!誰かアーカイブ見て!」
「二撃目」
『うん』
『誰か見た?』
『わからん』
『見てきたけどわかるわけねえw』
俺たちはおろか、アーカイブを見返してきたというリスナーでもわからないならお手上げだ。
とはいえ、状況的に考えれば、クリティカルの仕様が勘違いされているというのは明らかだった。
「本当に出たって!お兄ちゃんも何か言ってよ!」
「わかってるって。状況的に、『ブレイブアタック』の火力が増えたこととネイカの証言があればクリティカルの仕様について疑問を呈するのには十分だ。ここまでやれば、あとは『クリティカル強化』を10まで上げてるやつらがしっかりと確かめてくれるだろ」
「むー…………私たちが見つけたんだからね!これ!」
『www』
『俺たちが見つけた』
『わかったわかった』
そこかよ、なんてツッコミはしなかったが、ネイカにとって大事なのは自分たちが見つけたというところらしい。気持ちはわからんでもないが。
とはいえ、今までそうだと思われていたクリティカルの仕様が違ったとしても、それは俺の予想が正しいと証明する材料にはならない。ネイカ自身が言っていた「型の変化でクリティカル率が薄れる」という反論は尤もだし、何かまた別の、俺たちが発見していない仕様が絡んだ結果が今回の検証結果になったという可能性も十分に考えられる。
結局のところ、俺たちは何かを見つけたようで何も見つけていないのだ。既存の説を壊しただけで、新たな説を確立させたわけじゃない。
とにかく、あとは検証団体が何とかしてくれることを祈るしかないだろう。クリティカルの仕様が根本から覆るとなると話題性も十分だし、三日もすれば彼らの検証結果が上がってくるのではないだろうか。俺たちはそう残りのことを丸投げすると、再びダンジョン探索へと本腰を入れるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます