第112話 配信 クリ武器
「検証?何をどうしますの?」
『クリの仕様?』
『クリ強化って誰か持ってたっけ』
ネイカの突然の言葉に、イルの言葉を始めに様々な疑問が集う。
そんな中でネイカはとある武器を取り出すと、それを雫の方へと向けた。
「これこれ。ほら、この前双剣集めてた時にさ、偶然クリ武器が落ちたじゃん?今日双剣の練習する機会があるかもって思って、持ってきてたんだよね」
『あれか』
『無駄に運良かった奴』
クリ武器というのは、武器のオプションにクリティカルダメージがついた武器のことだ。
オプションというのは本来の武器の性能に加えて追加で様々なステータスを得られる機能のことで、武器にオプションを付けるには今のところ鍛冶スキルでプレイヤー自身が武器を作るという方法しか発見されてない。武器屋で購入、或いはNPCの鍛冶職人に素材を持って行って武器を作ってもらうのでは、オプションがない武器となってしまうのだ。
しかし、それはあくまでオプションを付ける方法だ。モンスターのドロップ品やボスの討伐報酬から得られる武器には、既に何らかのオプションがついている場合がある。そして、鍛冶スキルで武器を作る場合には素材によってどんなオプションを付与するかある程度の方向性を定めることができるのだが、ドロップ品では完全にランダムとなっているのだ。そんな中でもクリティカルダメージのオプションはかなりレアなのだが、それに対しての需要がほとんどないので、SFOプレイヤーの間では残念品として扱われていた。
そんなクリティカルダメージのオプションがついた武器なのだが、つい先日「そろそろ双剣をメインにしていきたい」というネイカの意向により、双剣の武器を集める回を開催していたのだ。その際に偶然にもドロップしてしまったのが、このクリ武器というわけである。
そして、ネイカは今回レベル的に余裕がある相手ということで、双剣の練習をする機会があるのではと不要な双剣武器としてそのクリ武器を持ってきていたようなのだ。
「SPはちょっともったいないかもしれないけど、まあ4までなら無理せず取れる範囲だし、『クリティカル強化』を4まで取ってこのクリ双剣使ってみようかなって。そしたら、お兄ちゃんの説も検証できるでしょ?私も双剣の練習になるし」
「そうだな」
俺の説が正しければ、『クリティカル強化』を取っておけばセットしなくてもクリティカル率がある状態となる。『クリティカル強化4』ならば、確率にして2%か。
『クリティカル強化』を取っているがセットしていない状態でクリ武器を使っていたらクリティカルが出たなんて話を聞いたことはないが、そもそもそんなことをしてみたという話を聞いたこともない。SFOの仕様について様々な検証をしている集団はいるのだが、彼らはそれを一つの仕事としてやっている。そんな中で需要が高いと思われる検証を優先するのは当然のことだし、クリティカルに関する情報の需要が見込めない今、そんな検証をしている余裕はなかったのだろう。
…………いや、それよりは、クリティカルの仕様が俺の唱えた説とは違うもので浸透しているため、その検証が候補として浮かび上がってすらいないという可能性の方が高いかもしれない。
「二人もそれでいい?ちょっと私のスキルが弱くなっちゃうけど」
「ええ、構いませんわ」
「おっけー。雫ちゃんのカバーはうちらに任せてよ」
『いいね』
『話が難しくなってきたな』
二人にも確認を取り、武器やスキルを入れ替えるネイカ。
そもそも今回の話は、実際に話を進めている俺たちですら難しく感じる点が多い。流し見程度に見ているリスナーには少し疎まれそうな内容になりつつあるなと思いながらも、俺たちはクリティカルに関する検証を始めるのであった。
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