第111話 配信 未だ謎多きゲーム・SFO
「それより、先程の火力は何ですの⁉」
ダンジョンの報酬に想像通り微妙な気持ちになったのも束の間、イルは先程メルが出したとんでも火力についての追及を始めた。
そんなイルに便乗するように、こちら側だと思っていたネイカまでもが俺へと言葉を求める。
「そうだよ!お兄ちゃんあれは何なの⁉」
「いや、俺が聞きてえよ…………」
『?』
『あれなんだったん?』
本当に何もわからないのだが、どうやらわからないでは済ませてくれなさそうな雰囲気だ。
俺は頭の中であの火力が出た原因を考え、一つの結論を出した。
「まあ考えられるとしたら…………クリティカルか?」
「クリティカル?」
『それはなくね?』
『クリ強化あったっけ』
俺の発言に否定的な意見が多かった通り、SFOではクリティカル系の能力を上げていない限りクリティカルは出ない仕様となっている。それはデフォルトのクリティカル率0に設定されているからであり、現状クリティカル率を上げる方法が『クリティカル強化』のスキルをセットすることのみだと言われているからだ。
とはいえ、無属性攻撃である『ブレイブアタック』の火力が増えた要因としては、クリティカルか何か未発見の仕様くらいしか考えられない。未発見の仕様については十分可能性はある反面考えたところで意味のないことでもあるので、俺が考えるべきものがあるとしたらクリティカルが出たという可能性の方だ。
「クリティカルといえば、よくわからない仕様が多いよねー」
「たしかにそうですわね」
『わかる』
『演出つけろ』
そんな俺の考えを後押しするように、コロがそんな話を始めた。
その一つとして、コメントでも流れている通りSFOではクリティカルが発生しても演出がないことが挙げられる。クリティカルといえば派生した時に何かしら演出があるゲームの方が多く、その演出に魅入られてクリティカルを出すプレイに精を出す人も多というものだ。
リリース直後はクリティカルの演出がないことは不具合なのではという意見も多かったが、すぐさまそれは公式によって否定された。「クリティカルの演出がないのは仕様」だと、はっきり公式から告げられたのだ。
そしてその後発覚した、『クリティカル強化』をセットしないとクリティカルが発生しないという情報。これによりほとんどのプレイヤーからクリティカル型のビルドは見捨てられ、クリティカルに関する検証なんかも他の検証に比べて出遅れている状態となってしまったのだ。
「そもそも、クリティカルに関するステータスが見れないのが謎だよな」
「そういえば、基本ステータスって結局何なんだろうね」
一度溢れ出ると、次々とSFOの仕様に疑問が湧いてくる。
SFOでは、基本ステータスというものしか確認することができない。それは装備やパッシブスキルを切り替えても数値が変化することなく、そのプレイヤーの素のステータスだと言われているものだ。
そんな基本ステータスなのだが、レベルが上がれば全体的に上昇する一方、レベルが上がらなくても微小な変化をすることがあるのが特徴だ。変化というのは上がるだけではなく下がることもあり、これはスキルを取った時に起こると言われている。つまり、攻撃系のスキルを取れば基本ステータスもより攻撃的に、防御系のスキルを取れば基本ステータスもより防御的になるということだ。
「まあ基本ステータスの話は置いといて、俺が言いたいのはクリティカルが『クリティカル強化』なしでも出るんじゃないかって話だよ。だってクリティカルくらいしかあの火力の説明がつかないだろ?それに、クリティカルに関してはまだ検証も進んでない。俺たちが仕様を勘違いしているっていう可能性は十分にあるだろ?」
「うーん、まあそうだけど…………」
『まああるっちゃある』
『それで?』
『何か説はあるの?』
俺の話に続きを求めるリスナーたち。
俺は自分の考えを整理するという意味でも、声に出して考えられる可能性を洗い出した。
「まず、デフォルトのクリティカル率が0なのは確定だ。現に俺もクリティカルが出たことはないし、『クリティカル強化』なしでクリティカルが出たって話も聞かないしな。
次に、クリティカル率を上げるのが『クリティカル強化』だけだという話。俺の考えが正しいとすると、これは嘘ということになる。だが、『クリティカル強化』なしでクリティカルが出たという話はない」
「じゃあダメじゃん」
「いや、俺たちは多分ここである錯覚をしてたんだよ」
『錯覚?』
『ほう』
俺の話に聞き入る四人とリスナーたち。
俺はそんな彼女たちの期待に応えようと、頭に鞭を入れて思考を加速させた。
「まず、クリティカルの演出がないって話だ。これは俺が前にやったことのあるゲームの話なんだが、そのゲームでは0ダメージでもクリティカルの判定があって、クリティカルになっても結局0ダメージなのにクリティカルのカットインが入るっていう無駄な時間があったんだ」
「SFOでもそういう可能性があるから、演出を省いたってこと?」
「正確にはそれも理由の一つって感じだと思う。よく言われてる、「NPCがこの世界で生きている関係でかなりのリアル志向で作られてるゲームだから、クリティカルの演出も省かれた」っていう意見も理に適ってると思うからな。
まあそれはともかく、俺が言いたいのは、「クリティカルが出ても倍率が等倍である場合がある」っていう可能性だ」
『それはなくね?』
『クリ強化に倍率補正があるだろ』
そんな俺の話は、リスナーたちに即刻否定される。
しかし、俺にはそれをひっくり返す一つの可能性が思い浮かんでいた。
「ありえないって、本当か?よく考えてみろ…………スキルを取ると、基本ステータスが変わるって言われてるだろ?」
「型が変わるというやつですわね。攻撃系のスキルを取ると、攻撃が上がって防御が下がり、より攻撃的に変化するアレのことですわ」
「そうだ。そしてそれは、どんなスキルにもあると言われている。だが、俺はその話から漏れているスキルに心当たりがある」
「それが『クリティカル強化』ってこと?」
『たしかに』
『言いたいことはわかった』
段々と俺の話を理解した人も増えてきたが、一応最後まで説明させてもらおう。
「その通りで、その二つのうちの一つが『クリティカル強化』だ。元々『クリティカル強化』はクリティカル率とクリティカルダメージを上げるスキルだと言われていたが、本当はクリティカルダメージを上げるだけのスキルで、クリティカル率が上がるのは型の変化によるものなんじゃないか?」
『なるほど』
『うーん』
納得したような人も、しないような人もいるコメント欄。
四人の顔を見ると、イルは納得したような、ネイカとコロは納得しないような顔をしていた。雫は無表情だ。
「つまり、お兄ちゃんは『クリティカル強化』を取ったけど付けてない状態だと、クリティカル率はあるけどクリティカルダメージは0だから演出が無駄、だから省かれてるって言いたいわけね?」
「そうなるな」
「でもさ、それだと『クリティカル強化』以外のスキルを取る度に型が変化して、クリティカル率がどんどん下がっていかない?『クリティカル強化10』でクリティカル率5%って皆が口を揃えて言ってることに矛盾すると思うんだけど」
「うーん…………そう言われるとそうだな。クリティカル率だけは固定…………なんて都合が良すぎるしな」
やはり無理がある話だったか。
元々考えながら話していたことだったので、当たっているという確証があったわけでもない。俺は諦めて発言を撤回しようとすると、それよりも先にネイカがこんなことを言いだした。
「でも、ありえなくはないよね。ちょっと検証してみようよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます