第110話 配信 ダンジョンでの初陣


「居た!居た!あれ!」

「本当ですわ!ようやく見つけましたのね!」


『おおおおお』

『長すぎ』

『分かれなくてよかったな』


 フォレ山を登り始めて数時間。

 ダンジョンというのは明確な区切りがないため、その場所の情報もあやふやなものが多かった。その上、ダンジョンだと判断する方法も異なる種類のモンスターの群れを見つけるか宝箱を見つけるかの二つしかない。しかも、マップがあるとはいえ洞窟の中は現在位置が非常にわかりづらい。そんな理由から、俺たちはダンジョンだと言われている洞窟に入ったはいいものの、なかなかダンジョンエリアを見つけられずにグダついていたのだ。

 そんな中で、ようやく発見した異なる種類のモンスターが群れている集団。つい先程全く見つからないし分かれて探そうか、なんて話も出てき始めていたので、なんとか見つかってくれてありがたい話でもあった。


「とりあえず記念すべき一組目!お兄ちゃんやっちゃって!」

「俺か?よし…………いけ!メル!」


『きた』

『いけええええ』


 薄暗い洞窟の中、先手必勝とばかりにまだこちらに気づいていないその群れに対して『ブレイブアタック』をお見舞いする。

 するとその群れのモンスターは、HPを半分以上───中でも耐久が低いモンスターはもう少しでワンパンできそうなほどのHPを失い、あまりの火力にイルとコロはもちろんのこと、俺とネイカまでもが思わず目を見開いてしまった。


『やばwww』

『は?』

『つっよ』


 コメント欄も、俺たちと同様に騒然となる。

 このフォレ山のダンジョンは、適正レベルが30前後らしい。つまり、敵のレベルも30前後ということだ。そのくらいのモンスターならば、だいたい今のメルの『ブレイブアタック』で半分削れれば柔らかい敵だなという認識だったので、ほとんど一撃というのは俺にとってあり得ない話だったのだ。

 それに、『ブレイブアタック』は属性を持たない攻撃だ。なので、有利属性でダメージが増えたということも考えられない。つまりは、単純に敵の耐久が低かったということに…………いや、もしかすると、メルが何らかの理由で普段以上の火力を出せたのかもしれない。


「…………どういうこと?」


『こっちが聞きたい』

『こんなに火力出るなら全部メルでよくね?』

『なんで驚いてるの?』


 呆然とする俺たちの中からようやく捻り出てきたのは、ネイカのそんな言葉だった。

 俺は想定外の結果に口より頭を動かしていたし、イルとコロのダメージ感的にも今のは相当な衝撃だったようで、二人は俺やメルのことを凄い眼で見てきていた。

 とはいえ、メルが想定外の火力を出しただけで、敵はまだ倒れていない。陣形も何もなくただ立ち尽くしていた俺たちに対して、奇襲を受けたモンスターの群れは怒り狂ったようにこちらへと飛び込んできていた。


「やばっ!」


 それにいち早く気がついたのは、ネイカだった。

 先頭に立っていたネイカはそう短い言葉を吐きだすと、慌てて後ろを振り向く。


「二人とも詠唱は…………」

「ごめん、できてない!」

「私もですわ!」


『あ』

『まずい』


 これって俺が悪いのか?

 なんて答えのないことを思いながら、俺も慌てて行動を開始する。

 まず最優先にすべきなのは、雫の近くにモンスターを寄せないことだろう。今は『ブレイブアタック』により全てのモンスターのヘイトが俺に向かっているが、こいつらのターゲットの移り方が不明な以上、一番狙われたくない人から遠ざけておいて損はないはずだ。


「俺が出る!ネイカは二人を頼んだ!」

「了解!二人とも詠唱始めていいよ!」


『前衛いると楽だな』

『ナイス』

『巻き込まれないようにな』


 俺は時間稼ぎにエレゴレとねねこを出し、異常状態のコンボでモンスターの足を止めさせる。そしてその間に詠唱を終えたイルとコロが、魔法スキルで次々と敵をなぎ倒していく。

 幸いなことに変なターゲットを取るようなモンスターも居なかったようで、そのままその群れは魔法の波にのまれていった。


(…………すごいな、二人とも)


 SFOはフレンドリーファイアがありということで、共闘する際の立ち回りにはとても高度なものが求められる。それは特に魔法使いに言えることで、詠唱時間が必要となる魔法スキルは発動してから実際に魔法が出るまでにタイムラグがある上に、一度詠唱を始めるとキャンセルもできない。なので、詠唱を始める前ではなく魔法が放たれる直前に狙う敵を決めなければ、狙ったモンスターとの射線上に味方が入ってきてしまう恐れがあるのだ。

 俺ももちろんイルとコロの射線上に立たないようには気を付けているが、二人の放つ魔法はまさに百発百中といった感じで、俺の方から息を合わせる必要を感じないほどうまく敵を狙い撃っていた。


 その後も危なげなく敵を処理していき、無事に群れの全てのモンスターを倒し終える。

 すると、例の追加ボーナスとやらが表示された。


「おー、これが噂の…………」

「んー、まあ…………」

「ほほー…………」

「…………微妙ですわね」


『おー』

『しょっぱ』

『www』

『まあまあ』


 俺たちは今、雫を含めた五人のフルパーティーだ。SFOではパーティーメンバーが倒したモンスターはパーティーメンバー全員で均等に報酬が配分されるので、雫視点で配信画面を見ているリスナーにも追加ボーナスは見えているようだった。


「これって追加ボーナスもパーティーメンバーで分配されてるのか?」

「あー、どうなんだろ。こういうボーナスって固定値な気がするけど」

「分配されているとしたら、経験値が群れ全員の合計のおおよそ二割ほどでしたので、一人ならば倍ですわね」

「それなら美味しいねー」


『固定割合だよ』

『分配じゃなかったはず』


 夢も希望もないコメントが流れてくる。


「んー、あとはお金か」

「これも、さっき落ちた素材を全部売却したと考えるとちょうど二割くらいだな」

「まあ直接お金が手に入るのは楽ですわね」

「でも、お金目的なら換金アイテム落とすモンスター狩った方が早いよねー」


『あーあ』

『言っちゃった』

『それはそう』


 お金に関してはコロの言う通りだし、経験値に関してももっと効率よく稼げる場所はいくらでもある。

 正直これは、前情報の通り苦労に見合っていないと言わざるを得ないのだった。

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