第109話 配信 洞窟か、毒沼か


 その日の配信はアールの街までの移動で終わり、俺たちは翌日の昼過ぎからダンジョン攻略の配信を開始していた。昼にイベントをやってから、そのままコラボ配信という流れだ。

 アールの街はというと領主が死んだという割には既にかなり落ち着きを取り戻していて、アーシーの奮闘具合が窺える光景だった。街のNPCからもちらほらとアーシーの噂話が聞こえてきて、領民からはかなり受け入れられているようだ。もちろん、中にはアーシーが家族の死の原因を追究しないことに対する疑問の声なんかも上がっていたが。


 俺たちはそんなアールの街の広場にて配信を開始すると、軽い挨拶を済ませてから、近くのダンジョンに関する話を始めた。


「昨日軽く調べた感じだと、この近くで見つかってるダンジョンは二つみたいだね。フォレ山に洞窟のダンジョンと、サンケ平原に毒沼のダンジョン」

「毒沼…………あそこは厄介ですわね」


『毒沼は怖いな』

『洞窟も普通に暗いから危ないぞ』

『前行ったとこは?』


 サンケ平原の毒沼は俺たちも行ったことがあるが、あそこのどこかにもダンジョンがあったらしい。探索まではせずにバルバルを少し狩ったらすぐに退散してしまったので、あの時は気づく気配もなかったのだが。


「私たちが行ったのはアールの街から北の方でしたわね」

「フーラの里の方?そっちにもあるんだ」

「ええ。といっても、アールの街とフーラの里の間にあるネヴィスの街から少し北へと足を延ばしたところでしたので、ここからだと少し遠いですわね。環境的にはただの平原でしたので、楽そうではありましたが…………」

「んー、さすがにちょっと遠いね」


 つまり、選択肢はやはり洞窟か毒沼の二択だ。

 とはいえ、即死の可能性がる毒沼は論外だろう。そしてそれは議論をするまでもないことのようで、他の三人もリスナーも、洞窟に行こうということですぐさま意見は一致した。


「二人ともアイテムは大丈夫?私たちはさっき物置小屋買ってきたけど」

「ええ、私たちはポーレの街に置いてきているので平気ですわ」

「念のために武器だけいくつかこっちに預けといたよー」


『用意周到だな』

『賢い』


 二人の行動に、ネイカも満足そうに頷く。

 しかし、逆に言えばそれだけデスの危険も高いというわけだ。洞窟ということならば、咄嗟の連携力や狭い空間での戦闘技術が求められてくる。それが俺たちにあるのかと聞かれると、満足に頷くことはできないだろう。

 そしてなにより、カメラ役の雫のカバーが大変だ。雫は常に配信の絵面を気にしていなければならないので、周囲に対してそこまで注意を払うことができない。しかも四人を映そうと思うと先頭か最後尾にいなければならないので、奇襲される可能性も高い立ち位置となるのだ。幸いなのは、雫自身もリスナーたちに受け入れられている存在なので、声が入ったりしても特に文句をつけてくる人もいないところだろうか。


「それじゃあフォレ山の方だね!昨日来た道を戻ることになるけど、しゅっぱーつ!」

「おー!」


『がんばれ』

『明かりの準備した?』


 元気よく声を出すネイカとコロ。

 最近よく思うのだが、連日長時間配信をしていてこのテンションを保てるネイカは本当にすごい。底なしの体力…………いや、ネイカからするとこのテンションは体力を使うようなことでもないのだろう。素の姿がこのテンションというか、なんというか。ああ見えてかなり気も使える子だと思うし、他の大人にはウザがられそうではあるが、配信者という職業はネイカにとって天職なのかもしれない。


「あ、明かりは持ってきてるよ!絶対洞窟だろうと思ったから用意しといた!」


『いいね』

『それはそう』

『有能』


「でしょー?」


 なんてコメントと楽しそうに話すネイカを見ながら、そんなことを思うのだった。

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