第108話 配信 コロの派生スキル


「おぉ!これが噂のメルさんですのね!」


 そんな声を上げながら、メルへと手を伸ばすイル。

 どこかで見たことあるような光景だなあと思いながらその様子を眺めていると、メルはイルが伸ばしてきた手に対して、それを避けるようにバサバサと上空へ飛んでいった。

 あからさまにメルから避けられたイルだったが、めげずに笑顔を見せる。


「まあ!恥ずかしがり屋さんですのね!」

「イルさんが嫌われてるんじゃないのー?」

「そんなことはありませんわ!」


『www』

『容赦ねえ』

『コロもやってみろ』


 そんなコメントに乗せられるように、俺の元へと戻ってきたメルに対してコロが手を伸ばす。


「ほーら、大丈夫大丈夫…………あぁ!」

「ほら!コロさんも嫌われているではありませんの!」

「もって…………そう言っちゃったら自ら認めてるようなもんじゃ…………」

「ああっ⁉今のは失言ですわ!」


『お馬鹿』

『かわいい』

『おばかわ』

『俺のメルに気安く触れられると思うなよ』


 いや、誰だよお前は。俺のメルだぞ。

 なんて茶番はともかく、おそらくメルは俺以外のプレイヤーやモンスターなどの全ての生物に対して、近づかれると距離をとるという行動をするのだろう。ただのプログラムされた動きなのだろうが、俺にだけ懐いていると思うとメルのことが一層可愛く思えてきた。


「まあ、俺の魔法獣は基本的にこのメル一本だな。特に今回は少し格下ってことで小細工もいらないだろうし、基本はメルで『ブレイブアタック』しながら、壁役が必要な時は追加で何体か出すって感じで」

「『ブレイブアタック』はかなり強烈だと聞いておりますわ」

「そうだな。純粋な火力なら現状トップクラスなんじゃないか?その分、もう伸びしろはないんだが」


『そうなのか』

『スキルレベルマックスなん?』

『見てみたい』


 そもそもの話、『ブレイブアタック』はねねこで言うところの『ひっかく』に該当するスキルなのだ。ねねこで言うところの『ニャイトメア』のように、未だに取得不可のスキルはメルにもある。解放条件が見当もつかないので現状諦めてはいるのだが、最終的にはそちらのスキルがメルのメインスキルになるのであろう。そう考えると、今でもトップクラスの火力を誇るメルが今後どうなってしまうのか楽しみだった。

 …………実を言うと、純粋な高火力というのはあまり俺好みではないのだが。


「まあ『ブレイブアタック』を見せる機会は後でもいいんじゃないか?特に使いにくい点はないしな。それより、俺的には二人の魔法スキルが気になるな。詠唱とか必要なんだろ?」

「そうですわね。詠唱時間などの感覚を掴んでもらわないと連携も取れたものではありませんから、私たちのスキルを見せておく方が大事ですわ」

「おっけー!まずは普段どんな感じでやってるかの説明からかな?」


『魔法二人って火力ゴリ押しって感じ?』

『脳筋じゃないよー』

『結構高度なことやってると思う』


 そんなコメントに、二人の話への期待が高まる。

 先程も言った通り、俺は純粋な火力や耐久力でのゴリ押しというのはあまり好みではない。俺の魔法獣で言うならば、ねねこやエレゴレのような異常状態、プッチのように色々な立ち回りをすることができるタイプなど、『どのようにしてうまく立ち回って活躍させるか』を考えられる性能が好みなのだ。もちろんそこには最終的にダメージを出す火力役が必要であり、そういった点ではメルの立ち回りも色々と考えることができるのだが、直接的な好みというわけではない。…………まあ、圧倒的に強いのでメルを使ってしまうのだが。

 とにかく、二人が魔法スキルで面白い立ち回りをしているという話は俺の興味のど真ん中といえる話なのだ。


「とりあえず、役割分担としては火力がイルさんでサポートがウチって感じだねー。イルさんはわかりやすく火力特化って感じだから、如何にイルさんをうまく使い回すかって話!」


『使い回す⁉』

『言い方www』

『エッ』


 ノータッチでお願いします。


「普段はウチがイルさんを一人でサポートしてるわけだから、ウチはちょっと変わった属性の攻撃スキルと、妨害系のスキルをメインに取ってる感じかなー。あっ、『二重詠唱』っていう派生スキルも持ってるよ!」

「派生スキル⁉」

「二重詠唱ってことは、同時にスキルが使える…………なんてわけないか」

「いやいや、それで正解!実は派生条件がよくわかってないんだけど、突然手に入れてたんだよねー」


『マジで謎』

『結局誰か手に入れた人いるん?』

『多分スキルの使用回数って話じゃなかったっけ』


 思わぬ派生スキルの情報に、俺もネイカも食い入るようにその話へと興味を示した。

 コロはそんな俺たちに少し苦笑するような表情を浮かべてから、二重詠唱に関する詳しい話を始めた。


「えーっとね、『ながら詠唱』っていう詠唱しながら他のことができるようになるスキルがあるんだけど、それと『詠唱短縮』のスキルを10まで上げることは多分確定なんだよね。でも、それだけだと手に入らないみたいなの」

「スキルレベルだけじゃ派生しないのか」

「多分ねー。ウチは詠唱関係のスキルはそれしか取ってないから、他の魔法スキルが派生に関わってるとかなら話は変わるけど、そうじゃないと思うから何か必要なものが他にあるっていうのがウチらの見解」


 どうやらそれ以上の話はないようだが、それでも派生スキルに関する新たな情報としては十分なものだった。

 この例で行けば、例えば俺が今派生を狙っているミニエンジェリックも、ただスキルレベルを上げているだけでは派生しない可能性があるというわけだ。その条件というのは全くの不明だが、とりあえず積極的にテンシを使っておいた方がいいのかもしれない。


「それで、『二重詠唱』は詠唱時間がちょっと長くなる代わりに二つ同時に詠唱できるっていうスキルだねー。使いどころが難しすぎるから実はあんまり使ってないんだけど」

「『二重詠唱』を活かせる戦い方も考えてはいるのですけど、どちらかと言えば私が使えた方が色々やれることがありそうなのも惜しいところですわよね」


『妨害系スキル同時に使ってもなんだよな』

『まあシンプルに広い範囲を見れるようにはなってる』

『コロの単独行動が強くなっただけでも十分』

『連続で出すことでコンボになりそうなスキルがあればな』


 イルの言う通り、火力魔法を唱えつつ先に詠唱が短めの妨害スキルを挟めるといった使い方であれば一人での立ち回りも増えて有効そうだが、妨害スキルを多重に詠唱できても、結局は火力を出せる人に頼らなければならないので効果は薄そうだ。とはいえ大きな可能性を秘めているスキルであることは間違いないので、持ってもいない俺がなぜか心躍らせていた。


「とりあえず口での説明はこんなものかなー。後は実際に見せて詠唱時間の確認だね」


 コロのその言葉を皮切りに、俺たちはそこらのモンスターを蹂躙しながらアールの街へと足を進めていくのだった。

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