smoking dead

恐山にゃる

smoking dead


俺の名前は『志賀 烈人』

40歳。遅咲きの映画俳優だ。

先日、出演した映画の演技が、ようやく認められて、アカデミー賞候補になる所まで来た。

俺の俳優人生これからって時に・・・

健康診断で『肺癌』が見つかり入院する羽目に。

『暇だなぁ。煙草吸いてえなぁ』

御禁制の物ほど求めたくなる。

人間の自然な欲望は、入院していても健在の様だ。

そんな妄想をしている間に、俺は眠りこけてしまった。

んんん〜。

寝ぼけ眼で自分の足元を見ると、何やら黒い塊がある。

あると言うか『居る』。

『何か居る!』

眠い目を擦り、黒い塊を凝視する。


『こんばんは。私、死神です。』

余りの定型的な挨拶に俺は吹き出してしまった。


志賀『死神?って事は俺を迎えに来たのかしら?』

混乱してオネェ言葉も入っている。


死神『時間より少し遅れて誠に申し訳ございません。』


志賀『そんな時間なんて知らねぇし、むしろ遅れ倒して、最悪来なくても良いのに。』


死神『そう言われましても、私も仕事ですので。』


志賀『まぁそうだよな。責任感って大事だよな。』


死神『でも遅刻してしまったお詫びは、しなければなりません。』


志賀『お詫び?何?見逃してくれんの?』


死神『そのような訳には行きませんが・・・ではこう言うのはどうでしょう。私とアナタでとあるゲームをします。それにアナタが勝つ事が出来たならば、今回は帰る事としましょう。勿論、私の上司にも、その経緯を伝えて了承を得ます。如何でしょう?』


志賀『マジで?まぁどうせ死んで元々。やるよ!で・・どんなゲームなんだ?』


死神『そうですねぇ・・アナタの大好きな【煙草】を使うゲームにしましょう。』


死神はそう言って黒いマントから5本の煙草を取り出した。


死神『この5本の煙草の内、1本だけ毒の入った煙草が含まれています。私とアナタ、交互に1本づつ吸っていって、生き残った方が勝ちとしましょう。』


志賀『5分の1で【死】。でも考え方を変えれば、5分の4で大好きな煙草を蒸しながら【生】を噛み締められるハッピータイムって訳だ。』


志賀『でも待てよ。死神に毒って効くのか?てかそもそも死んでるんじゃねぇのか死神って?』


死神『死神といっても職業ですので、ここには生身の身体を与えられて来ています。毒を吸えば苦しいですし死にます。さらに死神もクビになって、今度こそ地獄に送られるでしょうね。私にとってもなかなかリスキーなゲームって訳です。』


志賀『ふ〜ん。そんな職業もあるんだな。知らんかった。地獄行きとかキツそうだな。知らんけど。』


死神『さぁ。早く始めましょうよ!私、こう言う職業をしていますが、若い頃は結構有名なギャンブラーだったんですよ!アドレナリンが沸き出してくる!!』

ギャンブルとなった途端、死神の人格が豹変した。


志賀『コイツマジか!でも俺もここで負ける訳には行かない!やっと巡ってきた俳優人生の春。終わらせてたまるか!いざ勝負!』


死神『アナタ。先行か後攻、選んで良いですよ。』


志賀『ここで弱気になっちゃ駄目だ!先行で行く!』


死神『承知しました。先行ですね。さぁ煙草をお選び下さい!』


志賀『俺は右端の煙草を選ぶぜ!』

実は俺が煙草を選ぶ時に、一瞬だけ中央の煙草に目線をやったのを俺は見逃さなかった。

大当たり【死】は真ん中の煙草か。

まぁそれでも大当たりを引いちまったら俺の運もそこまでだった事で仕方ない。元々、死神が迎えに来てるんだしな(笑)


死神『火をどうぞ。』


俺は口に煙草を咥えながら、ゆっくりと死神の差し向けたライターの火に顔を近づける。

死神の顔がライターの火に照らされる。

正直キモい。

その時だった。

俺の肺に半年振りの煙草の煙が入り込んでくる。


志賀『ふぅぅぅ。やっぱり煙草は美味ぇなあ。この芳しい香りも堪ら・・・グッ!ヴヴ!の、喉が焼ける様に熱い・・・肺が苦しい!まさか!』


死神『あらま。1本目から大当たりですか!何と運の悪い。私にも少しスリルを味合わせて下さいよ!私の勝ちは勝ち!ヒャッハハッハ!先行を選んで負けるなんて!こんな馬鹿は見た事がないねぇ!』


志賀『・・・クソっ!お、俺は負ける・・いや死ぬのか・・。』


死神『さぁ勝負は決しました!私はアナタの苦しみながら死ぬ様を一服しながら楽しませて貰うとしましょう!ヒャッハハ!この安全な煙草、アナタの大好きな煙草を4本まとめて吸っちゃいますね!アナタにはもう必要ないものなのですから!』


死神は残った4本を口に咥えて火を付ける。


死神『完全な勝利!勝利の確定した時に吸う煙草は甘美な味わいですねぇ!これがまた堪ら・・・ウッ!グググ・・苦しい!喉と肺が張り裂けそうだ!まさか!』


志賀『クックック。誰が完全勝利したって?俺はハズレの煙草、つまり安全な煙草を吸って、苦しんでいるフリをしていただけだが。死神のくせに、まんまと騙されて。俺がアカデミー賞候補の俳優だった事を忘れてたみたいだな。』


死神『お、おのれ!役者風情が!この俺様を騙すとは!グググ・・・』


志賀『死神さんだったっけ?煙草の吸い過ぎは身体に障るぜ。【命は大事に】しねぇとな。ヒャッハッハ!』


死神『ゥヴヴ・・・このままじゃ死んでも死にきれん!』


志賀『それじゃサヨナラだな。もう2度と俺の所には来れないだろう。そうなると俺って不死身になっ・・ん?ガガガガッ!ングッ苦しい・・息が出来ない!まさか!何故だ!これは毒入り煙草⁈』


死神『ふぅ。疲れた。苦しむ演技も結構疲れる物ですね。喉が渇いてしまいましたよ。実は私、最近、暇してまして、最近、あの世で会った俳優に厳しい演技指導を受けていたんですよ。確か生前は【座頭市】とか言う映画の主演をされていたとか。』


志賀『でも何故だ!最初は普通に美味い煙草だったのに!・・そうか!フィルター部分にだけ毒が仕込まれていたのか!』


体内の酸素が奪われて行く。

意識が段々と遠くなる・・・

俺のアカデミー賞・・・

真っ白になる。


ハッ!

俺は病院らしき場所のベッドで目覚めた。

夢か?

夢だったんだな?

ふぅ。危ねぇ。

夢オチである意味ラッキーだったぜ。


『志賀さん。』

医者らしき人物が入ってくる。

医師らしき人『志賀さん。アナタ。役者をやってるんだってね?』


滋賀『ハイ。アカデミー賞にノミネートされているんです。』


医師らしき人『おぉ!それは凄い。でもねぇ。診察の結果、余命が後30日なのよ。アカデミー賞には間に合わないみたいだね。残念だ。』


志賀『30日だって‼︎先生!何とかなりませんか?俺、まだこれからなんですよ!アカデミー賞とったら金も入るし、先生に恩返しも出来ます!なんとかお願いします!』


医師らしき人『そっか。それならば一つ寿命を伸ばす手段があるんだが、リスクも大きいよ。それでも良いかい?』


志賀『先生!その手段を聞かせて下さい!お願いします!』


【実は死神と言う職業があるんだが・・・】


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