第17話 閉幕!ゴースト・ラン

 俺は、〈ターボ〉を解除した。すると、前から迫るトラックは俺をすり抜け、後ろの掛釣の方へ突っ込む。


 「なっ!」


 掛釣はギリギリフックで上へ移動し、それらを避ける。


 「どういうことだ!何故すり抜けた!」


 「実力を問いつつスキルの使用は無制限…おかしいと思わないのか?」


 「なにぃ?」


 「一見、スキルをいかに応用するか問われるゾーンのように思える。だが本当は違うんだ。現世じゃあスキルなんてものはない。自分の力…自分の実力で勝利を勝ち取るもんだ。このゾーンも同じさ。」


 「スキルだって力だ!実力なんてどうだっていい。僕にできないことはなかったんだ、あの世でだってそうさ!」


 「自分の力で何かをなしたことがないやつには一生わかるまい。悪いが、このレースの決着はついた。」


 俺は、一直線にゲートへ向かう。遠かったゲートが、段々と近づいてくる。


 「待て…っ!邪魔だ!」


 掛釣はフックで物を押しのけ、こちらへ迫ってくる。だが無駄だ。


 「いいか、よく聞け。人生、楽して何かをなすことはできない。地道に積み重ねて、そして求めていたものにたどり着く。それが何かをなすための唯一の方法だ。」


 「なんだと!」


 「スキルという与えられた楽な選択肢を選んで、最後に勝てるわけがないんだよ。」


 「そんな…くっ!黙れぇ!僕は…全てを手に入れてきたんだ!」


 ゲートにたどり着いた。これでお別れだ。


 「じゃあな掛釣。俺の…勝ちだ。」

 

 「待て、後でお前がほしいものをくれてやる!だから僕を勝たせてくれ!」

 

 「この期に及んでそれとはな。少し自分を見つめ直せ。」


 「やだ、いやだぁぁあ!」


 ガガガガガン!と車やトラックが掛釣を閉じ込める音を聞きながら、俺はゲートをくぐった。




 「おおっと!ゲートを抜けてきたのは走太選手です!」


 ゲートを抜けると、歓声が俺を包んだ。そして目の前にゴールテープが見える。


 案崎さんや二身の顔が浮かんでくる。色々なことがあったゴースト・ラン。本当に…長かった…


 そして


 「ゴール!走太選手が今、ゴースト・ランを制しました!」


 俺はゴールした。俺はその場にへたり込む。


 「走太選手!ゴースト・ランで1位になった感想は?」


 「一番印象に残ったことは?」


 俺に色々な質問がとんでくる。だが俺が言いたいことはただ1つだけだ。


 「ありがとう、みんな…」


 


 〜3年後〜


 

 「はぁ…朝か。よし、今日もジョギング行くか。」


 ゴースト・ランで優勝してから3年が経った。

 

 あの後俺は、閻魔様から蘇る権利とトロフィー、あと「優勝者特別チケット」という、レストランとかで見せるとちょっとしたサービスを受けることができるチケットを受け取った。


 まぁ当然ながら、あの後タッグのことについて報告があったそうだが、俺自身はまともにレースをしていたことや、新人だったことなどを踏まえ、なんとかアウトにはならなかった。でも、あれ以来より監視の目が光るようになったらしい。

 

 それから、優勝してから少しの間は歩いてるだけでインタビューされたものだが、今は普通に暮らしている。


 さて、みんなが気になってるであろう俺が蘇ってしたこと。それは親や友達に感謝を言うことだ。そんなことのために?って思う人も少なくない。でも、死んだらそれを伝えることはできないんだ。だから俺は、後悔なんてしてない。あとはみんなと飲み食いした。普通の日常が1番だなって思ったよ。



 「ふぅ。今日も良い天気だ。」

 

 「先輩〜」


 「おぉ二身!今日もいいジョギング日和だな。」


 「そうですね!」


 そうそう、ゴースト・ラン終了後に家に戻ったら衝撃の事実を知ったんだよね。なんと、俺のお隣さんが二身だったのだ!これにはお互いビックリしたよ。


 「さ、行きましょ、ジョギング」


 「あぁ、そうだな。」


 そして今では、毎朝ジョギングするようになった。


 そんな楽しい毎日だが、1つ、しこりが残っている。案崎さんのことだ。


 ゴースト・ラン終了後、俺は案崎さんに会えていない。あれから半年後に、天国住まいでも地獄に行けることを知って、案崎さんを探しに二身と地獄へ行ってみた。でも、いろんな人に聞いても知らないという返答ばかりで、結局、諦めざるを得なかったのだ。


 「先輩、また案崎先輩のこと考えてるんですか?」


 「え、あぁ…まぁ…」


 「案崎先輩のことです。きっとどこかでうまくやってますって。」

 

 「うん…でも、あの時リタイアになった1人が案崎さんじゃなかったらって考えると…」


 「だから大丈夫ですって。そんなネガティブになっちゃだめですよ!」


 「そうだな…」


 タッタッタッタッ


 「おっとっと!」


 俺は石に躓いてコケかけてしまった。


 「あぶねー、転ぶとこだった。」


 「ちょっと何やってるんですか。注意が散漫になってますよ!」


 「でも」


 「二身の言うとおりだ。」


 「はっ」


 「俺のことばっか考えてないで、走るのに集中しないと。」


 この声、この喋り方…


 「案崎さん!」


 「よ、久しぶり。」


 「案崎先輩!どこにいたんすか!それに…隣の方は?」


 「翔子だ。俺の妻。」 


 「はじめまして。」


 「えー!先輩結婚したんすか!てことは…」


 「大変だったんだよ〜色々と。走太が先へ行ったあと、例のトップと戦ったわけだが、結局自分もろとも落っこちなきゃいけなくなっちまったんよ。でも…」


 「も…?」


 「あいつはおっこってったが、俺は運良く木に引っかかってな。そこに救助隊が来て、助けられたってわけさ。まぁ、引き上げられたあと、何してんだ!ってすんごい怒られたけど。」


 「そうだったんすね!いや良かった…」


 「そうなんよ。今じゃあの崖は完全に封鎖されたらしい。まぁそうなるわなって感じだ。で、あの後地獄に帰ったら帰ったで、資料の盗難やらプレイヤーと手を組んだやらで、色々処分を受けたよ。

 そこから1年半経って、ようやく全部の処分がクリアになったから必死に勉強して、天国試験受けたんだ。そしたら受かってな。ちょっと前に天国の人間になったってわけ。」


 「う、うぅ…」

 

 「ん?」


 「うわあぁあぁあぁあぁ!心配だったんですからね!案崎さん!」


 「おうおうごめんよ、心配かけて。あと、3年越しだが…優勝おめでとう。よくやったな。」


 「うわぁぁぁあ!」


 「ねぇ内樹、せっかくだし、今夜うちでパーティーでもしない?」


 「お、いいね。2人とも、今夜空いてる?」


 「はい!」


 「もちろんですよぉ!うぅ…」


 「よし、じゃあ7時くらいにここに来てくれ。」


 「ここ…俺んちのお向かいさんじゃないすか!」


 「お、マジ?じゃあそんな手間かからないな。よし決まりだ!今夜は家でパーティーや!」


 「やったぁ!良かったですね、走太先輩!」


 「うん…良かった…」


 「じゃあ俺らはここらで。ジョギング頑張れよ!」


 「はい!」


 「走太も」


 「はいぃ…」


 こうして俺達はまた再会できた。それぞれの道は、いつよりも明るく照らされている。

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ゴースト・ラン マスターキー @walker1001

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