第16話 激走!無制限のターボ

 ギュィィィン!と足の管から火が出る。やつの〈フック〉のスピードより速く走って、ゴールへつながるゲートへ突っ込む!


 「はあっ!」


 「待て!〈フック レベル2〉!」


 俺は、止まってる車や、倒れかけている標識を避けつつゲートの方へ向かう。


 「スキル無制限の状態じゃ、お前より俺の方がまさってるな!掛釣!」


 「なにを!」


 このまま行けば、余裕で1位!だが、そう上手くはいかなかった。


 「うわっ!」


 突然、車がこちらへ飛んできた。ギリギリそれを避ける。


 「ふぅ…ってうわぁっ!」


 すると今度は標識や看板が飛んでくる。しかも追跡もしてくる。最後はそういうゾーンか!


 「ちっ!これじゃあフックで思うように進めないじゃないか!」


 「くそぅ、なら、常時スロー状態にしてやるっ!〈ターボ レベル2〉!」


 これならなんとか…というわけにもいかなかった。

 スローがかかっているはずなのに、それを無視していろんなものが飛んでくる。それに、無制限とはいえスローは一定時間すると切れてしまう。そしたらまたレベル2を発動しなきゃならない。


 「だったらターボで疾走したほうが楽だ!〈ターボ〉!」


 俺はレベル2を解除する。ふと後ろを向くと、すぐそこまで掛釣が迫っていた。


 「僕にはできないことはなかった。貧乏な庶民とは違って、勉強なんてしなくともお金でなんとかなったし、不良がいたら僕の側近がなんとかしてくれた。このゴースト・ランだって、そうさ。僕が攻撃されたら他の奴らを盾にして進んできた。僕の力でここまでのし上がったんだ!負けてたまるか!」


 後ろで掛釣がそう叫ぶ。こいつ、相当なおぼっちゃまらしいな…


 「おい、お前本当に自分の実力だと思ってるのか?」


 「違うはずないだろう!僕の力で人を従えてきたんだぞ!僕はすごいんだぞ!」


 「呆れるな。お前が従えたんじゃなく金が従えたんだ。それに、お前はただ何かを使っただけ。自分の力では何もしてない。ほんと、よくここまで残れたもんだな。」


 「うるさい!うるさいうるさい!僕ができなかったことなんてないんだ!このレースだって!僕が!」


 まさか最後の相手がこんな野郎だなんてな。冷めた。


 「あーあ。どうせならもっとマシなやつが残ってほしかった。まさか勘違い坊っちゃんが相手だなんてな。」

 

 「ぐぬぬ…何をぉ!」


 相当お怒りのようだ。丁度いい。ものを避けつつ進むより、こいつを脱落させてひとり残ったほうが容易い!


 「脱落させてやっから、少し自分を見つめ直してみろ。じゃあな!」


 「うるさい…僕に向かって偉そうにするな!うぉぉあ!〈フック レベル3〉!」


 「な、なんだと…」


 レベル3だと!こいつ…

 

 「はぁぁあ!」


 すると、掛釣の全身からフックが出てくる。それらは車やらなんやらを跳ね飛ばしていく。


 「終わるのはお前の方だ。僕に大口を叩いた罰をくらえ!」


 シュルルルと数本のフックが伸びてくる。しかも自由に操作できるらしい。


 「くっ…」


 俺は〈ターボ〉でそれを避ける。だが、飛んでくるものが逃げ道を狭める。


 「うわっ!」


 と、前から飛んできた看板に当たってしまった。よろめく。だが走るのを止めるわけにはいかない。


 「まだゲートにたどり着けないのかよ!ちくしょう!」


 「ゲートに行く前に倒してやる!」


 何気にフックがうざい。軌道がわからないので、とにかく距離をとるために走ることしかできないのだ。


 少しでもフックから逃れるため、道を曲がったり不規則な動きをしたりしてみる。だが、動ける範囲が狭いため、思うように動けない。


 後ろを振り返る。まだ掛釣が追いかけてきている。面倒くさいやつだ。


 再び前を向く。


 「嘘だろ…」


 俺の目の前から大型トラックが数台迫ってきていた。後ろへ戻ることもできない。


 「終わり…かよ…」


 俺は負けるのか?自分の力で何かを成し遂げたことがないやつに負けるのか…


 〈真の実力者となれ〉


 ふと、頭の中にその言葉が響く。真の実力…何かが引っかかる。真の実力者になれ、と言いつつ、このゾーンはスキル無制限。そんなの、スキルで勝敗が決まるようなものだ…


 その時、霧が晴れた。


 「そういうことか…」


 「もう逃げ道はない!これで最後よぉ!」


 俺は振り返り、〈ターボ〉を解除した。

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