第15話 終焉!現世の因縁

  サーーッ…


 「はぁぁあ!」


 「向かってくるか…ははは、必死だな、ブラックガイド。」


 「俺は、案崎内樹だ。かつてのコードネームで呼ぶな!」


 ガツ!


 「じゃあ本名で呼ばせてもらおうか、案崎!」


 ドカドカドカドカドカ


 俺はこいつを許さない!絶対に…たとえこいつが死んでもだ。4年越しの再開。ここで本当の決着をつけてやる。


 「はっ!」


 「くっ」


 男が一歩後ずさる。


 「どうした。死んでから少しなまったか?」


 「案崎、人を甘く見るのはよくないな。慢心は身を滅ぼしかねない。」


 「あいにく、滅ぶために参加したんじゃない。お前を倒すために参加してるんだ。」


 「倒す、か…面白い!お互い素の実力の差はほとんどない。死ぬ前の続きとでもいくかな?」


 「こっちはエンジョイのためにやってんじゃない。すぐに終わらせる。」


 「悪いが…」


 「はぁぁっ!」


 「それは無理な話だ。」


 「どらっ!」


 「〈タイム〉」


 スッ、と俺の拳が虚無を殴る。あいつ、どこへ!


 「ここだよ」


 「はっ」


 「ふぅん!」


 「おぁっ!」


 重い一撃を食らい、俺は倒れる。


 「何がぁっ、起きたんだ…」


 「だから言ったんだよ。お前じゃ私に勝てないとね。」


 「そんなことはない!」


 フッ、とまた奴の姿が消えた。


 「なら、力ずくで分からせてやろう。」


 「な!」


 ドスっ


 「ぐほっ」


 「お前は強い。スキルを使えど、一筋ではいかないことは認める。だがな、結局は私の〈タイム〉の前に散るのだよ。」


 「タイム?まさか、時間を止められるのか!」


 「ご名答。」


 「そんなのありかよ!」


 「まぁ待て。手の内を明かしてやろう。私のスキル〈タイム〉は、レース中5回までしか使えない。今2回と5秒使ったから残りは2回と5秒。1回に止められる時間は10秒まで。」


 「十分強いなおい…」


 「さて、お前などいつでも倒せるが…遊んでやろう。」


 「舐めやがって!てやぁぁあ!」


 ガツガツガツガツガツ、と、激しい攻防が始まる。こいつは戦い慣れてる。気を抜いてはいけない。


 「くぅぁぁあ!」


 「流石だな!速さもパワーも一流だっ!ぐふっ」


 1発だけ拳が当たる。普通の相手なら勢いでそのまま押せるのだが、こいつが相手だとそうはいかない。


 「ふん!」

 

 「ごふっ」


 俺も1発食らっちまった。鈍い痛みを感じる。


 「どうした?スキルは使わないのか?」


 「あとちょっとしたら使ってやるよ!」


 俺は出せる最大の速さで攻撃する。だが中々当たらない。


 「溜まった!〈ガイド〉!」


 俺の視界に指示が表示される。やつに攻撃を当てるための指示が。


 「はっはっここだっ!」


 「なに!」


 まずは一発!


 「はっ!」


 「なるほど…そういうスキルか。ならなおさら好都合!さほどパワーアップしないんだからな!」


 「そんなの関係ない!うぉぉぉあ!」


 「ぐっ……」


 突然、指示が攻撃ではなくガードをしろというふうに変わる。


 「え?ふっ!」


 咄嗟に腕をクロスさせる。と同時に背中に強い衝撃。


 「どわっ!」


 「ちっ、めんどくさいスキルだな。正面から叩き込もうと思ったんだが…」


 「くっ…」


 もうすぐ〈ガイド〉が切れる、というタイミングで、俺は最後の指示を見た。


 「使


 

 「どうした?スキルが切れたか、案崎。」


 「まぁ…ある意味そうだな。」


 「ふん。ならば、いよいよお前を待つのは敗北だけになった、という訳だな。」


 「はっ、さぁな。ま、来るなら来るがいいさ。」


 「それじゃあ…遠慮なく。せいぜい長引かないようにしてやろう!」


 最後の指示。あれにどういう意味があるのかまだわからないが、それが最善の道なら、俺はそれを行こう。


 「ふんふん!」


 「おぉわっ!」


 激しい肉弾戦。もつれるうちに、俺達はゲート前まで来ていた。


 「ぐむ…さて、このゲートをくぐらせてもらおう。どけ!」


 「行かせるかよ!」


 俺はやつを必死に止める。その時、ゲートと横の壁の隙間から、裏にまだ道があるのを見つけた。これは!


 「そうか…そういうことね!おりゃあ!」


 「ぬわっ!」


 俺は、ゲートの向こうへやつを投げ、自分もそれを飛び越える。高いが、俺の身体能力は伊達じゃない。自分で言うのもなんだけど。


 「よっ、と。」


 「な、何だここは…」


 「何動揺してんだよ。ここはお前の墓場だ。」


 「なんだと!」


 「はぁっ!」


 俺はやつの胸ぐらをつかむ。


 「この先の崖から落ちると、存在が抹消されるらしい。ま、要するに魂ごと消えるってことさ。まさか、このゲート裏にあったとはな…」


 「存在が抹消されるだと!貴様…離せ!」


 「あぁ離してやるよ。お前を落とすためにな!」


 俺は最後の力を振り絞ってやつを崖の方へと押し込む。


 「人生にガイドはいらない…だからああいう指示が出たんだな。確かに、流れに身を任せることも必要だ。」


 「くっ!貴様!私は脱落しない!必ず1位になって、現世でまた、1日でも社会のトップに!」


 「どこまでも自己中なやつだ。さぁ、落ちろ!」


 そして俺は、やつを崖へと突き落とした。


 「ぬぅ!〈タイム〉!」


 ガシッ


 「まだだ…お前が代わりに落ちろ! 」


 

 「はっ」


 「てやっ!」


 どうやら、時間を止めて俺に掴まって登ってきたらしい。だが…


 「はっ」


 「なに!受け止めた?」


 「時間停止してよじ登ってくることくらい予想がついてる。」


 「なんだと!」


 「いいか?俺とお前じゃ、このレースにかけてる覚悟が違う。」


 「貴様!まさか!」


 俺はやつを掴んだまま、自分もろとも崖から落ちる。


 「なんだとぉ!ふざけるなぁ!」


 「俺はな、死んででもお前を消しに来たんだ。死んででもな!」


 「うわァァァあ!私は…私はぁぁぁ!」


 走太…あとはお前と掛釣だ…走太が勝利を勝ち取るところを見たかったが…これでいいんだ。そして翔子…死ぬ前にもう一度会いたかった。天国で…元気でな。


 

 そして俺達は、深い谷底へ落ちていった。



 


 

 「〈ターボ〉!」


 「〈フック〉!」


 くっ…意外と強いな、こいつ!


 「おっとここで選手が1人続行不能!よってリタイアです!残るは2人!」

 

 1人リタイア?案崎さんは?どうなったんだ?


 「よそ見すんなよ!」


 「くっ」


 案崎さんのことだ…きっと大丈夫さ。それに、案崎さんなら「目の前のことに集中しろ」と言うはずだ。2人の協力を無駄にしないためにも、俺は走らなきゃな!

 

 そして俺達は、攻防しながらゲートをくぐる。すると目の前に、荒廃した街のような光景が広がる。何だここは?ルールブックには書いてなかった。


 「さて…来たな、毎年内容が変わる、ファイナルゾーン〈閻魔の気まぐれ〉に!」


 「〈閻魔の気まぐれ〉?」


 「知らないのか?やはり所詮は初心者だな!」


 「なんだと!」


 「さて、ゴースト・ランもいよいよ大詰め!トップ2人がついに、〈閻魔の気まぐれ〉に突入しました!このゾーンでは、何が起きるかわかりません!」


 なんだそれ!聞いてないぞ!


 「ここで閻魔様からのメッセージです。〈ここまでよく来た。ゴールまであと少し。真の実力者となれ!〉だそうです。また、このゾーンではスキルを無制限に使えます。頑張ってください!」


 「ほう、スキル無制限か…なら勝利は確実だ!」


 させない…二身や案崎さんの分まで、走り抜いて、必ず1位になってやる!


 「いくぞ…〈ターボ〉!」

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