Bの対立/穢された友情

第16話 勇者

 「え!?ナニコレ!?広すぎないか!?え!?別邸だよね?こんなに広さいる?」

 「私たちの家はそういう家柄なの。なによりも酷いのは、ここにお兄ちゃんを一人で住まわしたことだよ。」

 「え!?ここに一人で……?孤独感が凄いな…。で、これからどうするの?なんかバイクも持ってきたけど…。」

 「お兄ちゃんのしたことをそのまま再現するわ。でも、そのためには【ユニットシステム】の装着者が必要で…。」


 そう言うと、コハルちゃんは見たことがない、ガントレットのようなものを取り出した。形はドラ〇バイザーに近い。知識が無いから、例えようがない…。

 なんだこれ?


 「なにこれ?」

 「移動中にあらかた説明しているからわかると思うからそれについての説明は省くわ。これは簡易型の【ユニットシステム】。精巧な義肢を作る目的から、単純な兵器を作るために作り出した。いわば、お兄ちゃんへの贈り物の不完全体よ。」

 「それをどうするの?」

 「【ユニットシステム】を起動して、装甲する。そこから全てのメインシステムを任意の数値まで上げて異空転移をすれば、転移完了よ。」

 「えーと……成功する確率は……?」

 「お兄ちゃんのがはじき出した計算を考慮して、私の計算を使ったら成功率は100%よ。問題は、どこに転移するか分からないところよ。」


 それって重大な問題なんじゃ?


 そう思いつつも、俺は渡されたものを受け取る。


 「自然に渡しちゃっけど、泰示さんはそれでいいの?彼女さんとか…。」


 言い出しにくそうにするコハルちゃんから出た言葉は、そう大して気にすることじゃなかった。


 4人いた俺の家族は、数年前に他界している。原因は本当に不明。遺体は直視できないくらいに損傷していて、警察も司法解剖の結果でも原因が特定できなかったらしい。

 その日は、俺以外全員山登りに行っていたので、近所の人は山の霊に呪われたとか何とか言っている。


 そんなことがあってか、近所の人は俺も呪われていると考え、あまり交流を持たないようにと避けられている。

 ケイとはまた違った意味で、俺は独りだった。


 「大丈夫だよ、俺には彼女はいない。この世界にも未練は無いからさ…。コハルちゃんこそ大丈夫なの?親御さんもいるのに?」

 「あんなクソ親、どうでもいいわ。私はお兄ちゃんの方が大事。」

 「そうか、なら行こうか。」


 そう言って、さっき渡された【ユニットシステム】なるものを腕の装着して、起動を待つ。


 …………………………


 え?どうやって使うのこれ?


 「ここからどうすればいいの?」

 「あ、これを渡し忘れてたわ。」


 そう言うと、コハルちゃんはカートリッジを渡される。


 「これは?」

 「クロスバイザーにそれをはめるらしき空間があるでしょ?」


 これ、クロスバイザーって言うんだ…。


 取り敢えず、俺は言われるがままクロスバイザーのそれらしき空間にカートリッジをセットする。すると突然機械音が鳴り始める。


 「うお!?なにこれ!?音楽!?」

 「気にしないで、これはお兄ちゃんの趣味に合わせただけだから。」

 「そうか…で、どうするんだ?」

 「クロスバイザーの先端に親指で押せるようにボタンがあるでしょ?」

 「ああ、これか。」

 「何かを言いながら、それを押して。そうすれば【ユニットシステム】があなたに装着されるわ。」


 え……?何か言わなきゃいけないの?


 「なにか言うって、必須なの?」

 「必須よ。それも、ノリノリで行かないと。」

 「えー、嘘でしょー!?」


 何かねえ。確かに小さい頃、仮面〇イダーとかには憧れたけども…。丸パクリもダメだし、この年齢でやるのも恥ずかしいしな…。


 こうなったらやけくそだ!!


 「雷変身かみなりへんしん!」


 なぜ雷かと聞かれたら、カートリッジに雷の印象を抱いたからだ。


 俺の掛け声とともに、派手な機械音が鳴り、派手なエフェクトが発生し、【ユニットシステム】なるものが、どんどん装着されていき、全てのパーツが俺に付いたことで変身が終わる。


 「これは…。」

 「これで、【ユニットシステム】の装甲が完了したわ。後は私の計算通りにシステムを動かして。――――」


 コハルちゃんは、その後転移に必要な工程を俺に詳しく説明してくれた。


 なんでも、俺が装甲しているのは電気系統の力を使うのに長けており、彗が使った力よりもさらに少ない力で異世界に飛べるらしい。


 こんな話、コハルちゃんじゃなかったら、俺は信じなかっただろうな…。


 異世界に、彗がいる。あいつは今、何をしてるんだろう?ラノベみたいにハーレムでも作って、冒険者生活でもしてるのかな?


 俺はそう思いを馳せる。彗が今まさに国を作っているとも知らずに。


 「よし!調整完了!泰示さん、あとはお願いします!」

 「分かった!えーっと……【ワームホール】!」


 バチバチバチ


 けたましい音をたてながら、黒い穴が出現する。その穴は、俺達を呑み込むために近づいてくる。


 「泰示さん、入りますよ。」

 「わ、分かった。かなり心配になって来たけど、コハルちゃんを信じるよ。」


 俺たちは意を決して、穴の中に入った。


 しばらく黒い空間が続き、気付くとなんか豪華な部屋の中にいた。


 「ここどこだ?」

 「まあ、異世界だからどこでもそんな反応になりますよね。」


 そう言われながら、あたりを見回すと、何かの儀式なのか俺たちの足元には俗に言う魔法陣のようなものが描かれていた。


 その奥には目を閉じて祈祷をしている少女がいた。


 少女が目を開けると、驚いたような表情をするが、すぐに冷静な表情になり言った。


 「召喚に応じてくださった勇者様。私はコムリニア王国第二王女、マルリアナ=B=コムリニア。どうか私たちの国を、悪魔と裏切者の魔女たちの手からお救いください。」


 そう懇願する、少女に俺たちは全く同じ言葉を、それも全く同じトーンで反応した。


 「「は……?」」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「無条件降伏?何言ってんだよ?」

 「いえ、私たちは使わされただけですので。」


 そう言う彼女たちは、王国近衛女剣士団ワルキューレ。名前の通り、王国の女剣士の集まりだ。どちらかと言うと、王女たちを守る存在なので、女性の方が都合が良いから、と編成されたらしい。


 そんな彼女たちは、コムリニア王国から降伏するようにと書かれた信書を持ってきたのだ。


 内容は簡潔で、勝手な領土侵犯に対する罰は、マルコ=シクルトの摘発による功績でチャラにするから、体面上降伏しろ。という身勝手なものだった。


 いや、この場合身勝手なのは俺か?領土侵犯してるし、勝手に独立宣言してるし。まあ、どうでもいいや。


 「にしても、早かったな。俺の見立てでは、あと2,3年は手出ししてこないと思ったんだがな。」

 「コムリニア王国は第二王女が勇者召喚に成功し、そのままガレット自治区を奪還しようとしているのです。」


 ここまで聞いといてなんだが、こいつは本当にワルキューレの一員なのか?


 「そんなに話していいのか?お前、一応敵国に対してベラベラ情報をばらしてるようなもんだぞ?」

 「いいんですよ。私は、エリ王女様の傍付として使わされたので、コムリニア王国というより、エリ王女様の味方ですので。」

 「分かった。信書の内容を拒否したらどうなる?」

 「今の王国は、軍を率いて侵攻。というよりも両国の代表、我々は勇者を代表に、決闘が行われると思われます。」

 「その心は?」

 「仮にも、ここはコムリニア王国の元領土。敵国とはいえ、元自国民を傷つけるようなことは好まない国です。」


 決闘型式。なら、問題ないな。国民を傷つけるのは俺もしたくない。俺の政策から、それを読んだのか?


 ちなみに、今のところ支持率はかなり高い。あのチェス事件からもう2か月も経つが、かなり経済も安定し、人間と亜人たちが共存している国へと変わりつつある。


 この国を見たエシーは、涙目になりながら俺に「自分の夢を叶えてくれた、優しくて強い、私の王子様。」とか言いながら、俺にすり寄ってきた。自分の夢が少しだけ現実になって、嬉しかったんだろう。


 なお、この国にいる亜人は全員、炭鉱の労働奴隷だった者たちだ。その者達には、生活給付金と少ないながらも、割と高額の給料を配布した。


 そのおかげか分からないが、現在人間と亜人の関係は良好だ。


 無駄話が過ぎたが、俺も答えを出そう。まあ、言うまでもないけどな。


 「国王に伝えといてくれないか。俺は降伏するつもりは無い。その勇者との決着で話を付けようって。」

 「分かりました。では、失礼させていただきます。」


 ワルキューレの女性はそう言って去っていった。


 そこからの展開は早くすぐに日取りは決められた。馬鹿みたいに早いと思ったら、何でも王都につながるテレポート地点がすぐ近くにあったらしい。どうでもいいけど。

 決闘は1VS1の形式で行われるらしく。相手が求めるのは、ガレット自治区の返還。エシーの帰宅。


 そしてこちらが求めるのは、これへの一切の軍事的介入をしないこと。ただ一点だ。


 決闘当日


 俺は、コムリニア王国の王都に存在する、コロシアムの選手控室で美麗とエシーと話してた。


 「彗君、死んじゃダメだからね。」

 「ケイ、相手のバックに王族がいるからと手加減はしないでください。」


 美麗やエシーの方が、俺より緊張していた。


 「二人とも落ち着け。俺は死ぬ気もないし、手加減するつもりもない。」

 「でも……」

 「美麗は俺の強さを知ってるだろ?勇者だか何だか知らないけど、任せろ!」

 「そう……だよね!彗君が負けるわけないもんね!」


 美麗はすっかりいつもの調子に戻って俺の腕に絡みついてきた。


 一方、エシーはそれを羨ましそうに見るが、俺に伝えたいことがあるのか言葉を紡ぐ。


 「私は、ケイに助けられました。夢も少しだけ叶えてもらいました。」

 「当然だろ?恋人のために頑張るのは。」

 「そうやって、当然のことの様に私とミレイのために頑張れる姿、とてもカッコいいです。」

 「そう言う事を対面で言われると恥ずかしいな。」

 「ケイ、貴女は私とミレイの王子様です。まぎれもない運命の人なんです。だから、生きて勝ってください。私たちはこれから幸せに生きていくんです。」


 そう言うと、エシーは俺の頬にキスをしてきた。


 「あー!エシー、ずるいよ!」

 「ほお?ならばご自分もすればよいでしょう?」

 「む…。それもそうだね。それじゃあ……彗君頑張ってね!」


 美麗も俺の頬にキスをしてきた。これほど幸せになれることはあるか?


 「二人ともありがとう。これで俺は勝ったも同然だな!」


 俺は、二人にお礼のキスをしてコロシアムの会場に向かった。


 会場は、日本建国反対の貴族たち、それと同じくらいの数の日本国民たちで埋め尽くされていた。


 2勢力は罵り合いを続けている。


 「これより、コムリニア王国代表と暫定国日本の代表の決闘を始めます。」


 アナウンスが入ったことによって会場が静まり返る。


 「最初に暫定国日本の代表、ケイ キリュウの入場。」


 「かえれー!」

 「ケイさまー!」

 「犯罪者―!」

 「英雄さまー!」


 様々な罵声と尊敬の声が入り混じる。想定していたことだ。


 しかし、次に呼ばれる名前は想定することは不可能な者の名前だった。


 「次に、コムリニア王国の代表、タイシ オオタの入場。」


 そうして入って来たのは、誰よりも見覚えのある相棒の姿だった。


 「泰示…。」


 ごめん、美麗、エシー。俺、本気出せないかも…。

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マキシマムアーム~俺と委員長が転移した世界はとことん俺たちに優しくない。だからって見捨てるのはお断り~ 波多見錘 @hatamisui

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