第2話

真っ白な診察室の扉を開ける。

40歳くらいの医師がパソコンの画面を見ながら

「竹内さんのご家族ですか」と口を開いた。

『はい。あの…父は』

「ご説明しますので…これ、見て下さい」

肺のレントゲン映像が映し出された画面に思わず私は言葉を失った。

医学の知識が無くてもその肺はあきらかに歪な形になっている。肺を押すように何かが肺の周りにある。

『………』

「肺嚢胞だと思いますが、もう少し詳しく検査しないと」

『あの、悪性腫瘍とかではないんでしょうか』

「それも調べましょう。まだわかりません。詳しく検査するために大学病院に転院してもらいます」

『え、あ、はい…』

病室を開けると父は不安げな表情を隠せずに

「どうだった」

『まだ、わからないって。医大に転院して検査しないと』

「そんなに悪いのか」

『だから、まだわからないって』

一番不安で辛いのは父なのに、こころに余裕の無い私は、優しい言葉ひとつかけられない。

 お金どうにかしなきゃ。限度額適用認定証貰ってこなきゃ。

どうして、こんな事しか考えられないんだろう。私のお父さんは一人しかいないのに。


…携帯が鳴る。母だ。

「お父さんどうなの?買い物もしてきてもらいたいんだけど」

『どうって、お母さんどうして病院来ないの?』

母は一度も病院には来ない。

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ごみと母と私 @mumumuro

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