熱狂ネクロマンシー
ヘイ
輝くヒト
死者も生者も踊り明かそうか。
今日は特別さ、と。
えいやそいやと大騒ぎ。
「おーい! 皆んな元気にしてたー!?」
カランカランと音が鳴り、衆目を集めたのはたった一人の少女。丈の短い、ファッションという要素の強そうな着物を着て、手にはマイクを握り、彼女は叫んだ。
「えびばでぃ?」
「ヘイ、セイ!」
「あーゆ、れでぃー!?」
「イエエエエエエ!!!」
かんざし挿した黒髪、歳の頃は十五ほど。身長は低く、ただ、身なりは整っている。
「この世の皆さーん! 帰ってきたぞぉー! と言っても、今日は特別なんですけどね」
若くして死んでしまった彼女、有名アイドル
「流石にドームってはならないけどー! 観客動員数なら負けてないしー!?」
大熱狂。
忽ち、周囲は歓喜に呑まれていく。
「ははっ、盛り上がってんなぁ」
リンゴ飴を齧りながら青年がつぶやいた。
ネクロマンシー。
死者をこの世に呼び起こす、オカルトの中ではよく知られる物だ。
例えば、ネクロマンサーは黒魔術師だと言うことで世間にはよく見られることはないのだが、そんな悪い噂を払拭しようと動いた結果、と言うのもある。
「や、AliAさん?」
「あっれー? 何、これ。日本?」
「そうそう。で、ちょっとお願いがあるんだけどさ」
「いいよ」
「決断早いな!?」
まだ何も言ってないんだけどなー。
と、呉雄が髪をガシガシと掻く。
「今回は、さ。まあ、なんての? ネクロマンサーの悪名の払拭と……あとはまあ、盛り上げてほしいってのが一点かな」
元々の使い方は占いである訳だが、こんな使い方もあるのだと知らしめることができるならそれでも良い。
「まあ、AliAの名前使った売名って考えれば良いんだよ」
「おけ、おっけー。おけまるよ」
などと言う軽いやり取りがあったのも確か。
この時期はあの世とこの世も比較的に繋がりやすく。
彼女の歌に惹かれて、魂は吸い寄せられるように。
「すっげぇ……」
死霊だとは思えないほどに生気に溢れた瞳と声が、心を掴んでいく。
「はぁ、まあ、俺の仕事なんてのは特に無いしなぁ」
盛り上がっていく会場、歌声で世界を魅せていく彼女を見ながら、周囲の熱の中に。
一人、冷たさを見た。
「あれ……、あー、まあそうだよなぁ」
ここまでの馬鹿騒ぎ、誰かしらがこうやって来ることも想定していない訳ではなかった。とは言え、誰かしらに迷惑をかけたと言う訳でもない。
もし、地獄という物があるなら、地獄には迷惑だったかもしれないが。今は兎に角、繋がりやすい時期なのだから仕方ないだろう。
「流石に邪魔はダメだっての」
例えば僧侶だとか。
例えばエクソシストだとか。
「はーい、おじさん。ちょっとこっち来てね」
傍目から見ればこの騒ぎは良くあるが、神秘学に触れた事のある者が目にすれば矢張り、宜しくはない。
「貴方がこの騒ぎの元凶ですか?」
「元凶って……。いや、まあ、そうなんですけどね?」
「即刻、中止にするべきです。死者の降霊など良き物ではありません」
「……別にそれは使い方にもよるでしょ」
現に、今はこうして盛り上がっている。
「水を差す方が無粋って奴じゃない?」
視界の端にはAliAの姿が映る。
「…………」
「まあ、なんか有りそうだったら頼りにするけどね」
「悪意はないと?」
「ないよ、それは絶対。まあ、盛り上げたいだけ」
この街を。
「なら、今回は見逃します。それに今回はこれだけ溢れるのも仕方ないですから」
仕方ないと思うことにしたようだ。
彼の目が一瞬だけAliAに向いていた。
「良かったぁ。今までだと、俺がネクロマンサーってだけで攻撃してくる人とか居たし」
多少は明るくなってるかもなどと、考えながら元気に歌う彼女は夜の闇の中で星のように強く輝いていた。
『まだまだいっくぞー! 皆んな、まだへばってないよねー!?』
大歓声が返る。
満足したように彼女が笑って、楽しく歌う。ならば、これは確かに幸せなのだろうと思える程に。
「AliA……」
「あれ、もしかしてファンだった?」
「……いや、少し思い出すことがあっただけです」
何かを懐かしむような表情で、どこか震える声で。
仏門に入った彼はたった一言。
「ありがとう」
「……え? いや、どういたしまして?」
突然の感謝に驚いた。
「気をつけると良い」
それだけ言って去って行こうとする彼に、呉雄は呼びかける。
「ちょっ! 何か、他に言いたいことあったでしょ!?」
「────今日は、似合わないですよ」
こんな楽しくておかしな日に、彼が雰囲気を壊してはいけないのだと。
そんな自分勝手な戒めで、逃げるように人混みの中に消えていってしまった。
『ふぅ、やりきったぁ……。ありがとね、皆んな! まったねー!』
九月も後半、きっとこの日はこの町にとって最大の盛り上がりだったことだろう。
「どうだった?」
歌い切った彼女は笑顔で呉雄に尋ねる。
「最高だった」
「良かったぁ。途中で見つけられなくなったけど……」
「ちゃんと見てたよ」
「んじゃ、これで仕事は終わり、ね」
どこか、曇りがある。
「どうした?」
「お父さんが……居たんだ」
「…………それで?」
「ちょっと話したいなって。なんか、こう。アイドルやる前に喧嘩して、それっきりだったし」
タハハ、と力なく笑う彼女に仕方ないというように提案する。
「なら、会いにいくか?」
「良いの?」
「良いも何も、やり切ったんだからちょっとくらいは、さ」
キョトンとしていた彼女は嬉しそうに立ち上がる。
「いやー、見かけに依らず優しいね」
ほんの少しのお礼を返そう。
熱狂ネクロマンシー ヘイ @Hei767
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