幼女を守護する紳士たちの日常

どこにでもいる小市民

第1話

 幼女を守護する紳士ロリコン。よく知らない世間一般の人間は、幼女に欲情する犯罪者予備軍と認識しているだろう。

 だがそれは違う。それはロリコンではなくペドフィリアと言う、ロリコンとは似て非なる物なのだ。


 ロリコンは幼女を見守り、困った時には無償で助ける幼女限定の正義のヒーローみたいなもの。決して、犯罪者予備軍では……断じてない!!!


 一方ペドフィリアは幼女に性的興奮するドチャクソ野郎であり、世間一般はこれをロリコンと勘違いしている。つまり何が言いたいか? こいつらは敵だ。


 だが、そんなロリコンたちも普段は俺たち同様、幼女の安心安全を守るため、日々を有意義に過ごしている。今日はそんな日常の一コマを紹介しよう。


***


「ちょっとお兄ちゃ〜ん! はやくしてよ〜!」


 妹の雪菜は靴を履き終え、未だ制服のネクタイを閉めている最中の俺に文句を言ってきた。


「ちょっと待て! あと少しだから!」


 昨日夜遅くにやっていた幼女メインの深夜アニメを見ていたせいで寝坊をしてしまった俺は、一つ下の妹の雪菜にそう言いながら、鏡の前で身嗜みを整えながらネクタイを締めていた。


「……よしっ、完璧だ、早く行こうぜ」


「待たせといて何言ってんのよこのクソ兄貴!」


「いぃっ!? 冗談だよ冗談。悪かったって」


 冗談で言った言葉の代償は俺のすねの崩壊だった。脛の痛みに耐えながら、俺と雪菜は学校へと向かう。


「おはよーでござる秋月あきつき殿!」


「おはよう坂本ロリコン


「秋月殿、拙者はロリコンではなく幼女を守護する紳士ロリコンである故、そのような紛らわしい言い方をしないでーー」


「自分から言っておいてどの口が言ったんだよ」


 教室に入って早々話しかけてきたのは坂本さかもとだった。簡単に説明するならば、俺のロリコン仲間だ。

 自分を拙者とか言う設定にしており、口調もなんかそれっぽくしている。見た目は力士みたいにガタイが良い。

 だが、女子からは当然気持ち悪がられている。


「昨日のアニメもさいっこうだったよな! 特に最後のティアナちゃんの「にぃに、一緒に寝て良い……?」を聞いた時は発狂してたよ」


 俺は坂本を無視して昨日のアニメの話を始める。


「あぁ、あれは至福の時であったな。しかし拙者的にはやはり二次元よりも三次元の方がーー」


「あはは、その発言だとペドフィリアに聞こえるよ坂本ペドフィリア


「拙者を侮辱するな馬渕まぶちぃぃぃっ!!!」


 坂本を侮辱(事実を指摘)した2人目のロリコン仲間、馬渕が話しかけてきた。

 こいつは見た目も性格もマジでイケメンなのに、性癖のせいで女子から敬遠される残念なやつだ。


 俺たち3人がロリコン仲間なのだが、一口にロリコンと言っても色々ある。

 俺は二次元専門のロリコンであり、幼女が出る作品は必ずチェックしている。

 え、妹いるから羨ましい? 馬鹿だなぁ、幼女は二次元が至宝なんだよ。ちゃんと現実を見ろ(by二次元専門ロリコン)、なんも可愛くないぞ。


 坂本は見た目絶対重視のロリコンだ。二十歳を超えていようと、見た目がロリならば何歳でもいけると公言している。


 一方、馬渕は心重視のロリコンだ。精神的に幼い幼女が好きで、見た目がおばさんだろうと心が幼女なら、何歳でもいけると公言している。

 この前、認知症で昔のことしか覚えていないおばあちゃんに対して「いけるな……」と呟いていた事は早く記憶から消し去りたい過去だ。


***


 午前の授業が終わった昼休み、俺たちはクラス教室ではない別の空き教室で、ご飯を食べながら席を囲ってロリトークを始める。

 ロリトークとは、幼女に関するニュースや出来事などを話し合う俺たちの憩いの時間だ。だが、今日出た話題は俺たちの心を満たす話ではなかった。


「幼い少女に向けて下半身を露出させる不審者がこの街に?」


 俺は静かに、だが確実に声が怒りによって震えていた。俺は二次元専門だが、幼女が傷ついていいことにはならない。


「許せぬでござる!!! 拙者が成敗してくれようぞ!」


 馬渕から聞かされた情報に坂本が怒り狂う。こいつもロリコンで口調もやばいやつなのだが……本当に残念だが部活では柔道、外のクラブで剣道をしている。

 柔道は黒帯で県大会3位、剣道は三段で中学の時にはなんと全国大会にも出場した経験の持ち主だ。


「落ち着いてよ坂本。ニュース、ネットでの書き込み情報などを統合して僕なりに信憑性の高いものを集めてみた」


 馬渕がそう言って魔改造したパソコンの画面を見せてくる。

 そこには犯人の特徴が見た目などがほぼ完璧に纏められており、出現頻度、出現場所などから、次に現れる場所の予想までも正確に出してある状態だった。


 ちなみにこいつ、実は成績は学年で2番目と結構な秀才であり、機械類はパソコンみたいに魔改造できる程度には詳しい。

 さらに専門知識なども色々と頭の中に記憶しており、歩く電子辞書と俺はたまに心の中で呼んでいる。

見た目も性格も頭もいい……だが、性癖のせいで本当に残念なやつだ。


「……なぁ、この公園に5時32分に現れる可能性92%って……」


「あぁ、データから割り出したんだ」


 やっぱこいつ高校生じゃないだろ。


「まぁそれはいつもの事だ。俺たちでその不審者を捕まえるぞ」


 そして幼女に感謝されるんだ!!!


「「「おぉ!」」」


 幼女を守護する紳士ロリコンたちが結託した瞬間だった。


***


「みぃ〜つけた〜!」


「しいちゃん! 次隠れんぼしよっ?」


「良いよ〜! じゃあ私が隠れるから、みのりちゃんは30秒数えてて〜」


 放課後の公園、俺たち3人は幼女が遊ぶ光景を眺めながら不審者が現れるのを待っていた。

 決して俺たちの欲を満たしたいからではない。俺は二次元の方が良いし、それならアニメ見てる方が良いしな!


 え、他の2人? こいつらは知らんが多分欲を満たしてると思うぞ。二次元専門のロリコンである俺から見ても、他の2人は異常だしな。


 坂本は両手でメガネを作って幼女を観察、ではなく見守っている。馬渕は小ジャンプを繰り返しながらはっちゃけている。

 ……むしろこいつらが不審者だろ? まぁ、俺もアニメ見る時はこんな風になっていると思うとちょっと恥ずかしいな。


さて、そろそろ時間だが……。


「む? あの男ちょっと怪しいでござるよ」


「何?」


 坂本がそう言って指を刺す方向を見てみると、1人の中年風のおっさんが怪しげにこちらを見ていた。たしかに怪しいな……。

 するとなんと言う事だろう。その男、こっちに近づいてきたのである。


「坂本、もしもの時は頼んだぞ」


「任せるでござる」


 馬渕が後ろに下がりそう言う。馬渕のやつ、頭の良さと顔と性格と性癖にステ振りガン積みで運動神経は無いに等しいからな。

 ……ちょっとまて、よく考えたらこいつ超ハイスペックじゃないか!?


 そうしている間にもおっさんはこちらに近づき、目の前で懐を漁り始める。なんだ……?


「私は警察だ。この辺りで不審者がいるとの通報があった。君達で間違いなさそうだな」


 その男性は警察手帳を取り出してそう言った。


……? …………? いや、間違いだよ……って否定できない!?!? 俺は大丈夫だがこいつらは無理じゃん!?


「違うでござるよ、拙者たちはただの幼女を守護する紳士ロリコンでござる」


「とりあえず署で話をしようか」


 ……これは学校に電話される案件だな。俺は現実逃避気味にそう考えた。


***


「坂本のせいで酷い目にあったね」


 無事解放された馬渕が呟く。


「秋月殿だけすぐに終わったのはずるいでござる」


「そりゃお前らが酷すぎただけだ」


 こいつら、むしろ堂々とロリコンを暴露していくんだからな。特に坂本、てめぇはダメだ。馬渕は否定はしないが肯定もしてなかったし。


「もう時間は過ぎちまったけど……どうする?」


「じゃあ秋月よろ〜」


「拙者たちも後で追いつくでござる」


 2人の返事を聞き、俺は荷物を預けて走ります。この中じゃ俺が一番足早いしな。一応地区大会の新記録を樹立した程度の実力はある。

後関係ないけどダンスと体操も習い事でしていた。


 え、なんでロリコン仲間全員がこんなにハイスペックかって? そんなの決まってんだろ。幼女と交流する時にいろいろ都合が良いからさ。


 まず幼女を危険から守るためには武力が必要だ。そのために坂本は剣道と柔道をしている。

それに頭も良くなくてはいけない。だから馬渕は勉強ができるんだ。

 俺も女子がやりそうなダンスと体操は一通りマスターしている。足が速ければ幼女にモテそうだしな。


 ついでに言えば裁縫は意外にも坂本が、ピアノなどの音楽は馬渕が、料理は俺が普通程度にはできるようになっている。

 それに今朝の時もそうだが、身嗜みにも気を使っている。これもそれも全て幼女のために。


 そして公園にたどり着き、先ほどみたいに間違われないように草むらに隠れて辺りを見渡すが、怪しい人物は見当たらない。先ほどからずっと隠れんぼをしていたのだろう。

 1人の少女が公園内を動き回りながら、滑り台やらを見回っている。


『もしもし馬渕、異常無しだ』


『ふむ、おかしいな。俺の未来予知並みの予測が外れるなんて……?』


『100%じゃ無かったし、そう言うこともあるだろ。……ん?』


 電話で馬渕に連絡をしていると、またも1人の男性が現れる。


『どうした?』


『なんかさっきの警官がまた現れたぞ?』


 そう、現れたのは先ほどの警察だった。俺が不思議に思っていると、おっさんは明らかに挙動不審な動きであたりを見渡す。


『なんかまわりを見回してるぞ』


『……秋月! 今すぐスマホを回せ!』


『っ!? わ、分かった』


 馬渕に言われるがままにスマホを動画撮影モードに切り替え、おっさんを映し出す。するとおっさんは安心したような表情を浮かべ、なんと幼女の方へと近づいていくではないか。


「おいおい、まさか……!」


 そしておっさんは幼女に話しかけ、その途中でベルトを緩めたズボンに手をかけ……パンツごと下ろした。


「きゃあぁぁぁぁぁっっっ!?!?!?」

 

 幼女の声があたりに響き渡る。その光景を撮影し終えた俺は、真っ先におっさんの元へと向かって走る。俺は行為を終えて油断し、ズボンを下げた状態のおっさんがズボンを上げ終わる前にすねに蹴りを入れる。


「いぃっ!? って、な、なぜ君がここに!?」


 おっさんは驚き困惑の表情を見せて叫ぶ。


「おっさん、俺たちがここにいたの偶然だと思ってたの? そんなわけないだろ。俺たちはあんたを捕まえるためにここにいたのさ。今の行為も全て動画に収めてあるぜ。幼女を襲ーー……じゃなくて、この街を騒がせる不審者さんよぉ」


 俺は一言一言をゆっくり、長く長く話してそう告げた。最後はうっかり本音が出てしまったけど別に構わないだろう。


「なっ!?」


「どうする? こうなった以上、あんたはもう終わりだ。言っとくが俺の足の速さは全国レベルだぞ? 今から交番まで走って動画見せれば一発だ」


「な、ななななな!?!? ……くそぉっ!」 


 おっさんは錯乱したように叫ぶと、なんと先ほどの行為で腰を抜かしていた幼女の腕を捕まえやがった。このおっさんぶっ殺してやる!!!


「てめっ!? ……なぁおっさん、俺は言ったよなぁ……俺たち、って」


「は?」


「メェェェェェェェッンッッッッ!!!!!」


 坂本の竹刀による面がおっさんの頭を叩いた。そこからは一方的に坂本がおっさんを蹂躙してる。

しかし本当に小根が腐っても警察官。坂本の鳩尾への突きを体で受け止めると竹刀を捕まえることに成功する。


 だが、坂本は柔道もしているのだ。掴まれた瞬間に竹刀を手放した坂本は、竹刀を掴み手の空いていないおっさんを投げ飛ばした。

 そしてそのまま関節技を決めて…………あ、待て待てやりすぎやりすぎっ!!! ストップーーっ!


 いや〜、おっさんが幼女の手を掴んだときはまじで焦ったなぁ〜。でもちょうどタイミング良く坂本がのっそりと現れるんだもんな! いや〜、時間稼ぎした甲斐があったもんだ!


***


 その後? 色々(逆に俺らが警察襲ったと通報されたり、その後説明して表彰状もらったり)あったけど、俺は相変わらず幼女を守護する紳士ロリコンやってるよ!

 今は小学生がメインのアニメを見ている。


「まったく、小学生は最高だぜ!」


「お兄ちゃん……気持ち悪いね」


 妹のまるでゴミを見る目が俺に向けられた。俺、一応不審者から幼女を守ったのに……!


【完】

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