10話.[あんたは失格よ]

「結構面白かったな」

「うん、宣伝を見て気になっていたから見られてよかった」


 珍しく俺達は学校でとかではなく外で会っていた。

 なんでも映画見たいということだったから一緒に出てきた形となる。

 友達が多くない俺は滅多に映画館になんて行かないからそわそわしていたものの、見終えた後は満足感しかなかった。


「いまはちょっと手汗をかいてるぞ」

「気にならないから」


 館内は暖房が効いていて少し暑かったからそういうことにもなる。

 彼女的には気にならなくてもこちらとしては気になってしまうわけだが、もうこうしないと落ち着かないとでも言いたげだった。

 大胆さは大晦日と正月のときのそれで分かったから特に驚きはしないものの、やはりそこは慣れてない人間ということもあって落ち着かなくときもある。


「静葉ちゃんが琴寄さんと会ってたって教えてくれたけど、本当のことなの?」

「折笠とセットだったけどな」

「呼んでほしかった」

「悪い、結局あの後すぐにふたりは帰ったからな」


 静葉はあの後もぶつぶつと不満をぶつけてきたからしたいことに付き合った。

 そうしたらいつも通りの俺達みたいに戻れたから全く気にしていない。

 実際、藍を優先してあんまり一緒にいなかったのは事実だったから強くも言えなかった、と答えるのが一番正しいかもしれない。


「っと、危ない危ない」


 歩道だろうが自転車で爆走する人間がいるから気をつけなければならない。

 俺にだったらいいが、藍が怪我をするところなんて見たくないからな。


「もう大丈夫だぞ?」

「……このままくっついていたい」

「そういうのは家とかじゃないとな……」


 やだやだ口撃が始まりそうだったからあのときみたいに背負って帰ることにした。

 もうすっかり飯とか店に寄るとかそういうことはどうでもよくなってしまったみたいだから仕方がない。


「高司、あんたは失格よ」


 自分達の家の近くまで来たときだった。

 いきなり現れた奏が冷たい顔でそう言ってきたのは。


「なんで抱きしめてあげないのよ」

「できるわけないだろ……」

「ほら見なさい、お姉ちゃんが凄く悲しそうな顔――かどうかはともかく、複雑な気持ちになってしまっているじゃない!」


 残念ながら顔は見られないし、こっちをぎゅっと掴んできてなにも言ってきていないからそれも分からなかった。


「奏」

「なに? あ、お姉ちゃんが自分で言うから問題な――」

「余計なことしないで」


 意外と冷たい声音だったから悪い意味でぞくりとした。

 奏の方は「うっ」とダメージを受けている。

 こんな冷たい彼女は初めて見るからそう言いたくなる理由が分かった。


「冗談だよ」

「冗談じゃないでしょそれ……」


 怖いから怒らせないようにしようと決めた。

 無茶な要求をしてくるわけではないから大丈夫なはずだった。

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79作品目 Nora @rianora_

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