09話.[吹いてしまった]
「最近、高司君が相手をしてくれないんですよ」
「奇遇ですね、私も妹なのに藍さんにばかり意識を向けられていて寂しいんですよ」
……正直、起きたくなかったが起きるしかなかった。
こんなときに限ってトイレに行きたかったり、飲み物を飲みたかったりするんだから現実はアレだ。
「ふたりはまだいいだろ、俺なんてずっと昔から一緒にいるのに野郎だからってことで放置だぜ?」
「「うぅ、なんて酷い人なの……」」
なんでこんな早くから人の部屋で集まっているのか。
あと、女子だけならともかく折笠までそれに加わってしまうのはなんだかなあと。
ノリがいいのはいいことだが、止める側になっておくれよと言いたくなる。
「兄貴は酷い」
「高司君は酷い」
「高司は……って、これいつまで続けんだ?」
流れを止めてくれたタイミングで体を起こした。
そうしたら呑気に「よう」なんて挨拶をしてくれたから文句を言わずに返す。
ある程度自由にさせておいた方がいいと琴寄の件で分かっていたからだ。
これでも一応学んでよくなるように行動できているつもりだった。
「静葉ちゃん、高司君はきっと朝霧さんのことが好きすぎて私の存在を忘れているんですよ」
「前々からいるのに酷いですよね」
「うん、だって一時期なんて思い切り逃げられていたからね」
敬語キャラにしたいなら貫けよ……。
まあとりあえずはトイレとかを済ませてしまうことにした。
出たら廊下に折笠が立っていたからなんかじっと見てしまった。
「悪いな、でも、千鶴の相手もしてやってくれ」
「ああ、もう逃げる意味がないって分かったしな」
まだ愚痴の言い合いみたいなのを続けていたからふたりで一階に移動する。
「なんかリビングでゆっくりするのはかなり久しぶりだ」
「そういえばそうだな、部活があるとどうしても昔みたいにはできないよな」
「ああ、それに朝霧に夢中な人間がいるからな」
そんなこと言ったら学校でもいちゃいちゃする折笠とかはもっと問題になるぞ。
そのせいで何度用があったのに我慢することになったか。
どうせ知らないんだろうが……。
「ここで昼寝をするのが好きだったよな」
「夕方まで寝ても夜になったら普通に寝てたわ」
なんか懐かしい気持ちになった。
そういうのは結構思い出として残ってくれているものだ。
小さい頃の夏休みなんて毎日のように集まって勉強をしたり、虫採りをしたり、昼寝をしたりしていたからあの頃に戻りたいと考えるときはある。
でも、戻れないからこそ、悔いのないように過ごそうとするのがいいんだろうな。
「高司、俺はともかく千鶴の相手は絶対にしてやってくれ」
「寝取られ趣味なのか?」
「ちげえよ、……あいつが寂しそうにしていたり悲しそうな顔をしていたりするのは嫌なんだ」
俺もこれぐらい真っ直ぐに言えるような人間になりたかった。
相手をするぐらいなら損もしないから分かったとうなずいておく。
そうしたら珍しく笑ったから思わず吹いてしまったのだった。
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