バズタン

@hal6388

第1話 探偵、バズる! 1

薄暗い照明と耳に触らない程度の控えめなジャズ、そこにウィスキーのロックと一巻きのシガーが加われば他の誰にも似合わない僕のための上質なハードボイルドが完成する。

探偵を生業としている僕は今日もこのバーで獲物を狙う肉食獣のように依頼を待っている。そしてその依頼を終えたあとのこのウィスキーがまたより深く僕を酔わせるのだ...

読者諸君、このネット社会で何も発信もせず営業努力もしないでそんなに都合よく仕事があるわけないとおもってないかい?

「その通り!だから僕は貯金を崩して事務所の家賃を払い、バーで飲むウィスキーも週一回で我慢してるんだ!」


カラン!


バーのドアが勢いよく開き未成年ではないだろうか若い女の子が二人店に入ってきた

「わ!すご!めっちゃバーって感じじゃん!」

当たり前だろここはバーなんだから、そんなことよりこの上質な空間を壊すようなことはしないでほしい。

あろうことか隣のカウンターになんてすわ


「カウンターあるじゃん!カウンターとかめっちゃバーじゃん!」

「ちょっとマキあんまり大きい声出すと迷惑だよ。」

すでに酔っているのかマキという女は友人の声など聞こえてないように僕の隣に座った。

「マスター、ドライマティーニを」

精一杯の低い声でまるで何かドラマのセリフを真似るように注文した。僕だってまだドライマティーニは頼んだことがないのに。なんて奴だ


ふと僕の意識が向いているのに気がついたのかこちらをバッと向き僕のことを物珍しそうに眺めながら問いかけてきた。

「お兄さん若そうなのにオジサン臭い格好だねー、もしかして探偵とかに憧れてる感じ?てか何歳?マキは今日から20歳です!」

探偵に憧れてるだと!?ソレは去年までの話だ僕は3年間コツコツ貯めた貯金と親に泣きついたお金で探偵事務所を設立!そして週に一度はバーで依頼を待つ立派な探偵だ!

酒の飲み方も知らない小娘にはわからんだろうがな!

「そ、そんなオジサン臭いなんて僕はまだ26歳ですよ。それにこれは探偵のユニフォームなんです。」

「探偵ーーっ?」

少し、いやかなりバカにしたような口調で聞き返すと彼女は携帯を取り出しさらにこう続けた。

「アガッサーにアップしてもいい?本物の探偵って見たことなくて。私フォロワー結構いるから絶対バズるよ!」

笑いを必死に堪えながら問いかけてきた。

そしてこの僕の観察眼は真面目で大人しそうな彼女の友人も必死で笑いを堪えていたことを見抜きそして涙を必死に堪えた。

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